35、早朝の連絡
昨日は忙しくしており投稿をすっかり忘れてしまってました!
すみませんm(__)m
翌朝、レストルーチェ騎士団に身体強化の下準備としての魔力操作訓練を今日も頑張って行おうとベッドの上で意気込んでいた。
(昨日は、どの騎士もよく集中して魔力操作訓練が出来ていたし、今日あたりは全身身体強化訓練に移れる団員も出てきそうね!)
コンコンッ
「起きているわよリリア」
ノックの音が響いたので、リリアが朝の支度に来てくれたのだと思って返事をする。
(あれ?普段のリリアなら早く起こさないように気を使ってノックは小さな音でするのに……)
まさか他の誰かだったのだろうかとベッドの上で身構えると、部屋へ入って来たのは先に想定した通りリリアだった。
私は『なんだリリアか』と一瞬張った気を緩めた。
「おはようございますフィリセリア様。あの……早朝なのですがお客様がいらしていまして……」
「え?こんな朝早くに来客?」
普段と違い大きな音で寝室のドアをノックしたのは私を起こすためだったようだ。
リリアもこの来客を事前には知らなかった様子で、困惑の表情をしながら来客者の名を口にした。
「はい。ランセイン様がお嬢様に急ぎの面会を求めています」
「ランセイン……」
(領主代行のランセインがこんな朝早く私に会いに?急ぎって、何があったのかしら……)
思い当たる節は、冒険者業、帝都のテロ事件、騎士団の魔力操作訓練と数々ある。
あるいはそれら全てについて私から話を聞きたいう事だろうか?
でもそれらが、寝ている人間をわざわざ起こして早朝に聞くほどの事とも思えなかった。
私は、本人に話を聞けばわかるだろうと思い、リリアに朝の支度をしてもらって、ランセインとの面会のために寝室を出た。
****
「このような早朝の面会をお許しいただきありがとうございます」
「いえ……常に忙しいランセインがわざわざ私の元に早朝に訪問するなど、よほど急ぎの用なのでしょう?」
私がそう尋ねるとランセインはいかにも『さすがは宰相閣下のお子様だ』と顔に書いてある表情で小さく一息吐き、面会を求めた理由を語った。
「今朝方、フィリセリアお嬢様に急ぎ帝都へ帰還をするようにと公爵様から連絡がありました」
「急ぎ帝都へ……どのくらい急げば良いのでしょう?」
「連絡では、今日にも領地を出発して帝都へ……とのことでした」
「今日……ですか」
「はい。なので、このような朝方に失礼を承知で急ぎ連絡をしに来た次第です」
(父様からの呼び出し……もしかして、ヴァシュロンの解毒をしたのが私だとバレているのかもしれませんね……)
皇族絡みとなれば早急に呼び戻さざるを得ない事にも納得がいく。
「わかりました。今日中にここを発ちます。しかし、騎士団の方々や街で知り合った方にも挨拶して廻りたいのです」
「もちろんです。そのつもりで取り急ぎお伝えしたのですから」
****
私は、ランセインと面会するために着替えた部屋着ドレスのまま訓練場へと赴いた。
早朝訓練を終えて一休みしている所だった騎士団員たちは私に気付くなりドレス姿なのを目にとめて怪訝な顔をして近付いて来る。
そのうちの一人、団員の中でも古株な方で面倒見のいい男と評判のコサイが代表して私に聞く。
「フィリセリア様、今日の魔力操作訓練にはまだお時間後あるのでは……それに、今日は訓練着では無いのですね?」
「ええ……今日の魔力操作訓練は指導できなくなってしまったの」
「では本日の魔力操作訓練は延期ですか?いつーー」
「お嬢様、どうなさいました?」
団員の誰かが急ぎ呼んできてくれたようで団員たちの奥から騎士団長ブラビアが現れた。
彼の後ろには、心配そうな顔でこちらを伺う副団長ビエラも居る。
「帝都……?4日前、帝都で物騒な事があったと聞いていますが?私は、その事によりこちらへの滞在は延びるものと思っておりましたが……」
『私もそう思っていた』とつい言いそうになったが、領地から出ていないし帝都と連絡のやり取りなどしていない私が知っていてはおかしい。
なので、帝都のテロ事件は知らないフリを通した。
「そうなのですか?怖いですね……。なぜ、お父様はそのような事が起きたばかりの帝都へ急ぎ帰還するようにおっしゃるのかしら?」
「わかりません。ですが、公爵様のことです。きっと何かお考えがあっての事でしょう」
「騎士団の皆さん、魔力操作訓練もまだ途中だというのにごめんなさいね」
「こちらの事はご心配なさらなくて大丈夫ですよ」
「そうです。騎士達は皆、フィリセリア様のおかげで魔力操作訓練の励み方を心得てございます。再びいらっしゃる際には、全身強化を会得しているものも多くいることでしょう」
ブラビアが心配いらないと言い、ビエラが十分指導はしてもらえたから問題ないと言う。
「ええ。そうですね……期待しています。どうか魔力操作訓練は続けてください。よろしくお願いします」
私が団員たちの方を見れば、皆自信に満ちた眼差しをこちらへ向けている。
私は彼らの方を向いて激励を述べた。
「皆さんならきっと全身身体強化を会得できると思います。頑張ってください」
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私は朝食を取ったあと、街で世話になった人達に挨拶に行くと言って、リリアに見つからないように影の中で冒険者服に着替えた。
玄関を出るとーー
「護衛なしで行かれるつもりですか?」
屋敷の塀にもたれるようにして待っていたのはビエラだった。
「さっき訓練場に……それはいいとして団員達の指導は?」
「団員達はフィリセリア様のお陰で既に自主練習できる域です。それに、魔力の見えない私では魔力操作訓練はどっちにしても指導できません。身体強化は私以外にも部分的には行えるものも居ますし、団長も居るので任せてきました」
「そう、ですか。けど、今日は依頼を受けるつもりはなく、皆に挨拶をしに行くだけですよ?」
「屋敷から外へ出る時点で護衛対象ですよ。と言いますか……護衛は本来、依頼を共にこなす仲間ではありませんからね?」
「ゔ……そうでした。いつもありがとうございます……」
「気にしてはいませんよ。私も短い間でしたがフィリセリア様と魔物狩りへ出たり、冒険者の依頼をこなすのは楽しい時間でした。私も感謝しています」
ビエラの言葉は心からのもののようで今まで見た事がないほど優しい表情をしていた。
「……ビエラはすぐにでも結婚先が見つかりそうね」
「なっ!!何をおっしゃいますか!剣ばかり振り回して粗野な女だと皆……もぉ!そんな事はいいですから早く下街へ参りましょう!」
先をスタスタ歩くビエラの耳が赤くなっているのを眺めながら『まだまだビエラの知らない顔も多いわね』なんて思った。
(もっと長く居られたらみんなの色んな姿を見られたのかも……)
一瞬、しんみりとした気持ちになったが、先を行くビエラが止まる様子を見せないので急いで追いかけた。




