34、騎士団の魔力操作訓練2
本日2話目です(*^^*)
騎士たちは、私の水玉を使った模造実演が魔力圧縮のイメージをしやすかったようで皆熱心に魔力操作訓練を行っていた。
「このくらいでいいですかお嬢様っ」
「ん〜。もっとですね」
「お嬢様、これ以上は圧縮出来ませんっ!」
「ええ。まぁ、そのくらいで限界かしら?休憩していいわ」
騎士により圧縮の限界は様々、けれど全く圧縮出来ないということもなかった。
けれど、既に色付きになっていた騎士も含め、全身身体強化出来るラインと思われる濃さまで圧縮出来るものは現れなかった。
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翌日も自身の魔力を圧縮する訓練を継続した。
騎士達は皆、昨日に引き続き自身の魔力を圧縮する作業に入る。
「お嬢様、私は既に全身身体強化が使えますので、自身の魔力圧縮以外にすべき訓練を教えて下さいませんか?」
「ええ。ビエラは昨日の魔力圧縮も上手に行えていたし、次の段階に進んでいいと思うわ」
そう言って私は両目を閉じ、魔視を自分の眼に施し目を開いた。
すると、昨日の訓練時には魔力圧縮に集中していて私の魔視に気付いていなかった彼女は、魔視を施した私を見て驚きの声を上げた。
「お嬢様っ!?眼が!」
「眼?」
「お嬢様の眼が……皇家の金の瞳に……」
魔視を施した私の両目は、元の瑠璃のような色ではなく金色になっているらしい……。
(色眼鏡って想像して創った魔法だからかしら?にしても……)
「皇家の金の瞳?」
「そう……です。金の瞳と輝き透き通る金の髪は皇家の証……お嬢様は……」
「ち、違うわよ!?これは、魔力を眼で見えるようにするために魔力を自分の眼に施しているから色が変化しているだけなのよ!」
そんなとんでもない事だとは思わなかった。
私は慌ててビエラの言葉を否定する。
既に、話に耳を傾けていた騎士達が敬意の眼で私を見かけていたので本当に慌てた。
「そう……なのですね。てっきりそれがお嬢様の真の姿なのかと……」
「絶対、違いますからね!」
「了解しました。して、その眼を通して我々の訓練を監督して下さっていたのですね」
「そうよ。こうしないと、他者の魔力は見えないんだもの」
まぁ、眼鏡さんは瞳の色を別段変えずとも常に魔力が見えているような素振りだったから、必ずこうしないといけないわけでは無いかもしれないけれど。
「取り乱し失礼を致しました。引き続き、我々の訓練をよろしくお願い致します。して、次の段階とは何をすれば良いのでしょう?」
「どこにでも魔素があるわね?それを魔力操作で集めて自身の魔力を圧縮したように魔素を圧縮するのよ。そうすると自身の魔力とは別の魔力をつくることが出来るの」
「別の魔力をつくる!?そのような事が可能なのですか!?」
「可能よ?私はよくやっているわ。そして、私はそれを便宜上『魔素魔力』と呼ぶわ」
「魔素を圧縮して魔素魔力をつくる……」
気付けば、私たちの会話に聞き耳を立てる全ての騎士達が訓練の手を止め、驚きに満ちた目をこちらに向けていた。
「この魔素魔力をつくる作業は自身の魔力圧縮よりはるかに魔力操作力を求められるわ。いい訓練になると思う。そして、魔素魔力には自身の魔力には無い利点があるの」
「魔素魔力だけの利点……まさか。魔素はどこにでもあるから……」
「そう、どこででも魔素魔力は生成できる。そして、魔素魔力は自身の魔力と別物だから自身の魔力は全く消費すること無く魔術を行使することが可能よ」
「「!!!!」」
騎士達はそれ以上見開けないだろうという程、目を見開いて驚いた。
彼らだけに限らず騎士はそのほとんどが魔術を軽視する。
魔術師は体を鍛えぬ軟弱者、魔術など使わせる前に剣で切ればそれまで、魔力が枯渇してしまえば勝手に倒れる。
それが今までの彼らの常識であり、魔術師達をどこか馬鹿にしてきた理由だった。
だが、昨日から始まった魔力操作訓練からわかったことやフィリセリアの存在は全て、彼らのこれまでの常識を覆す。
魔力操作如何では体格差も体力の無さも身体強化により補える。
魔力操作に長けている上で体力を鍛える事だって可能、剣も魔術も自在に操る存在が居る。
外部魔力で魔力枯渇する心配なく魔術を撃ち続けられる……。
「そんな……」
誰かの呟いた言葉が、その場の騎士達の総意だった。
今まで馬鹿にしてきたひょろひょろの魔術師すら途端に恐ろしいものに思えてきた。
そんな騎士達の反応に気付いている上で、私はあっけらかんと言う。
「まぁ、その場の魔素を使い尽くしてしまったら魔素魔力をつくる事が出来なくなるし、残念な事に身体強化や治癒術には魔素魔力は使えないわ」
「身体強化と治癒術に魔素魔力は使えないのですか?」
「ええ、試したけれど出来なかったわ。その二つは自身の魔力でないと駄目なようね」
ヴァシュロンを回復させる際にわざわざ魔素魔力を自身の魔力に変化し直したのはその為だ。
身体強化だけでなく治癒魔法までもが自身の魔力でないと使えなかった。
使えれば魔素魔力で永久回復出来るかもと冒険者業をしながら試みて不発だったのだ。
「でも使い分ければ良いだけよ。自身の魔力は身体強化と治癒術に使い。魔素魔力で攻撃魔術を撃つ。そうしたら魔術剣士の出来上りね!」
「魔術……剣士……」
「今ここにいる全員がなれる可能性があるのよ?やる気になるでしょ?」
私がそう言うと彼らは『魔術も剣士も扱う未知の存在』が自分の前に立ち塞がる敵ではなく、自分達の未来の姿かもしれないとようやく気付いたらしく興奮が湧き上がってきた。
「魔術剣士っ!俺、魔術も真面目に勉強始めるわ!」
「俺も!魔術剣士……ぜってぇ強え!」
「よしっよしっ!絶対なってやるぜ!」
口々に明るい声が上がりざわめきが騒音になって来た頃合をみて、ビエラが声を張り上げた。
「皆鎮まれっ!!」
さすが日頃訓練されているだけあって、一瞬にして皆ビエラの方を向き気をつけの体勢となった。
「皆がやる気に満ちた事はよくわかる。だが、今この場でやる事はお喋りをする事でも魔術の勉強でも無いだろう?」
「「はっ!訓練に戻ります!」」
言葉通り皆が即座に魔力操作訓練に戻る。
だが、明らかに先程よりも良く集中しているようだ。
「ありがとうございます。お嬢様。皆、訓練をより一層、意欲的に取り組んで居るようです」
「私は事実しか言ってないし、特に激励したってわけでもないわ。ビエラも頑張ってくださいね?私はあなたに一番期待しているのだから」
「はい!お気持ちにお応えできるよう全力を尽くします!」
ビエラも先程より気合を入れて魔力操作訓練を開始した。
(執務にかかりっきりなせいで魔力操作訓練に二日とも参加出来なかったブラビアは、出遅れて残念がるだろうなぁ……)
だが、これでレストルーチェ騎士団の強化にはなるだろう。
意欲的に取り組む騎士団員たちを魔視越しに眺めながらそう思った。




