31、治癒魔法と祈り
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これからもお見守りのほどよろしくお願いいたします。
毒と呪いに侵されたヴァシュロンは精霊魔法の光では治すことが出来ないと白妃に言われてしまった。
だが、人の魔法や魔術より精霊魔法の方がよほど強力なもの。
(精霊魔法が使えないなら私の治癒魔法なら使えるかもしれないけれど……)
日頃使うのは軽い傷を回復する程度のもの……強い治癒魔法なんて一度も使ったことがなかった。
人の治癒魔術など、高位神官2人がかりで部位欠損を回復、即死毒に至っては間に合えば高位神官ならなんとかなるというレベル。
(治癒魔法は簡単なものしか使ったことが無い。こんな事ならもっとちゃんと練習……なんて出来ないよ。そのために魔物を傷つける事も人を傷つける事も出来ないもの……)
即死を間逃れていると白妃は言った。
何らかの力か本人の抵抗力で即死を逃れたのだとしてもその毒自体は、即死させるほど危険なもの。
簡単な傷程度しか癒したことの無い私が即死の毒を……あと数刻しかもたないという彼を救えるのだろうか?
何とかしなくてはと思えば思うほど心音が高鳴っていくばかりで、思考がどんどん鈍る。
『落ち着いてフィリス。きっとあなたになら出来るわ』
ヴァシュロンの容態を一番理解しているだろう白妃が私にそう言った。
『大丈夫。信じて』
『彼の死を座して待つようなつもりは無いのだろう?何も出来ぬかもしれない。だが、まるで力を尽くさずにいればそれこそ何にもならん』
(うん……わかってる)
私は興奮しきっている心音を落ち着けるためにも冷静になるためにも深く深呼吸した。
合わせて普段の習慣で、深呼吸と共に周囲の魔素を吸う。
周囲の魔素も自分の魔力も全て活かして全力で治癒をかければ案外何とかなるかもしれない。
そう自身で暗示をかけながら目を閉じて、意識を魔力と魔素に集中する。
まず、魔素を魔素魔力に変えてそれと自分の魔力も取り出して……すると、自分の魔力はかなり濃いが魔素魔力はまだまだ薄いと分かる。
(同じくらい濃くしたら……水と墨を混ぜて馴染ませるように均したら同じように扱えるんじゃないかしら)
時間が無い。
すぐさま思いついたままに魔素魔力をさらに圧縮して濃さを増し、それと自分の魔力を混ぜ合わせて均していく。
思った以上にそれ自体はすんなりと済み、すぐさま魔素魔力は私の魔力と混ざり合って私の魔力へと変化する。
(本当に出来た……魔素魔力を自分の魔力に変えること。これなら……これだけ魔力があれば助けられるかな……)
部屋の方へ目を向ければ、先程と変わらず青い顔をして浅い呼吸を繰り返している様子のヴァシュロンが見える。
改めて気合いを入れ直すためにもう一度深呼吸した。
(白妃、治癒魔法を使う時にコツとかある?)
『コツですか……。治癒魔法は光の魔法の中でも聖魔法に当たります。コツというなら、祈り……でしょうか?』
(祈り……)
貴族の子どもは五歳のお披露目ではじめて神殿へ赴き、神々に生誕を伝える。
故に、私は一度も神殿へと訪れた事は無い。
だから祈り方など知らないし、神も私など知らないだろう……。
けれど、前世の私のものだろうか?
祈り方がわかる……。
祈りは……
神に希うものでもなく
嘆願するものでもなく
ただ未来に起きる幸せに感謝すること
訪れる未来の幸せを欠片も疑わず信じて
感謝すること
(ヴァシュロンが即死の毒から解放され、体調が戻り周りの人達が喜ぶ……未来を……)
私は両手を胸の前で組み、目を閉じてそう祈りながら集めた全ての魔力を解放した。
****
私は……ヴァシュロン様付きの侍女として失格だわ。
ヴァシュロン様が新参の侍女に毒を盛られて倒れられてからもう一時間が経つ。
ヴァシュロン様は、一日の日程を終えられ居室に戻ってから一休みしているところで、新参の侍女にお茶に混ぜた毒を盛られた。
私が新参の侍女にヴァシュロン様のお傍を任せて他の業務に移ったりしなければ……もっとあの侍女を疑っていれば……。
ヴァシュロン様の青ざめた顔を見ながら何度も何度も今日を後悔している。
現況を起こした新参の侍女は、衛兵に追われる途中で他の何者かに殺されたらしい。
狙われたのはヴァシュロン様だけでは無く、皇帝陛下の元やデビッド皇子の元にも暗殺者が来たとの事。
「ヴァシュロン様……どうか」
ヴァシュロン様は赤子の頃に悪意あった乳母に収魔の腕輪を外され、そのせいで魔力を溜め込み過ぎ高熱にうなされ続けた事があるそうだ。
その影響かヴァシュロン様は今でもお身体が他の同年代の者より少し小柄で体力も無い。
今、毒に抗い続けられているのは、とても信じられない状況だ。
このまま死んでしまうかもしれない……。
そう思って今日何度目かの涙を目に溜めてヴァシュロン様の傍らに居ると突然、窓から光が襲って来た。
「なっ……にが……?」
光は夜闇の中で突然放たれたので眩しくて驚いたが、少ししてもう一度驚く事になる。
周囲が昼の光に照らされたように丸見えで、その全てを優しい光の帯が包み込んでいる。
光が襲ってきた方を見れば、窓の外に大きな丸い光る球体があった。
「まさか……大精霊様?それとももっと高位の……光の精霊王!?」
「……ん」
私の叫びに起きたのか、光に包まれたために目覚めたのかヴァシュロン様がお目覚めになった。
「ヴァ……ヴァシュロン様っ!よかった……お目覚めに……ご無理なさらず!ヴァシュロン様は……」
「大丈夫……なんともないよ。むしろ……今までで一番体調が良い……」
「なんてことでしょう……!光の精霊王様がヴァシュロン様に祝福を下さったのだわ!ああ……感謝致します!」
この部屋以外の至る所で驚きの声や喜びの声が上がっているが、きっと精霊王様の降臨に皆気付いて喜びの声を上げているのだと思った。




