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30、彼のもとへ

 僕は、帝都でテロがあったという事を母様経由で聞いた。

  聞くところによれば、帝都内で魔術師による爆破魔法陣が帝都の広範囲に渡って約20ヵ所以上で起爆。

  通り魔紛いの無差別殺傷が複数人の犯人により起こされ、約24人ほど死亡が確認されているらしい。

  軽傷者、重傷者も合わせれば70人は越えていて、今も被害は拡大中とか……。



(なんて酷いことを……)



  僕はひたすら、人々の被害ができる限り少なく事態が終息することを願っていた。

 


「ヴァシュロン様、落ち着くお茶をご用意しましたのでお飲みになって下さい」



  母から話を聞いたあと僕がずっと落ち着かない様子だったのを見ていた為か、僕の部屋に待機していた侍女が気を利かせてお茶を用意してくれた。



「ありがとう。うん……美味しい。……城の騎士たちも出動しているしきっとすぐ終息するよね……?きっとーー」


 ドサッ



 *****


  城には1泊2日お世話になった事があるとはいえ、訪問した回数は一度限り。

  城の構造を全て把握なんてしていないし、ましてヴァシュロンの居場所など見当がつかない。



(ヴァシュロンが過ごしていたメレス宮は燃えてしまった。その後、どこの宮に移ったかなんて知らない。希闇!城の状況はわかったことある?)


『敵が大勢雪崩込むというような事にはなっていない。だが、街へ騎士を出動させているようで、城の警備は手薄だな。集まっているのは、皇帝とあの生意気皇子の所。あと、皇后と皇妃の所にも多めに配置されているようだ』


(ヴァシュロンの居場所は!?)


『あと確認していないのは、北少し離れた林の中にある宮殿と北東にある湖の近くにある宮殿だな』



  そう言われて私は即座に、探知魔法を飛ばした。


  冒険者として活動する際に毎回、探知魔法を使っていたので以前よりはるかに精度は上がっている。

  今では、10km圏内くらいなら数分で把握出来る自信がある。



(林の中にある宮殿は無人みたい。湖の宮殿の方を見に行こう!)



  何かあったらどうしよう。


  どうか間に合って……何も無いなら何も無かったってホッとすればいいだけだから!



 ****


  湖の宮殿は、蒼月の明かりに照らされる中とても美しく白く輝いている。

  宮殿でヴァシュロンと月明かりの中遭遇した時みたいだと少し胸を締め付けられながら、宮殿で唯一明かりの灯っている2階の部屋を外から覗いた。



(っ!そんな!)



  ベッドにヴァシュロンと思しき少年が横たわり、侍女が濡れ布を洗い直してその額にのせている。

  たまたま風邪をひいて熱を出しているだけとも考えられるが、不安が湧き上がる。



(白妃!ヴァシュロンの症状を確認して治して!)


『ええ。明かりも灯っていますし力を発揮しやすいと思いますわ』


『そなたはひとまず影に入った方がいい。窓から覗くなどいつ気付かれても知らんぞ?』


(でも……部屋は明かりが灯っているから影からじゃ部屋の様子が見えないじゃない……そうだ!)

 


  姿を見られて困るなら隠せばいい。

 

  そう思って私は、魔力探知の要領で魔力を自分の周囲に広げ、水魔法で透明な氷を創り自身を覆う。

  さらに、氷の表面に光魔法を使い、光学迷彩を創り出す。


  透明な氷は鏡のように滑らかな表面で、その上で施した光学迷彩は、完璧に周囲と同化した。



(これなら服や髪が動いたからって、違和感を与えることも無いだろうから気付かれにくいはず……寒い)



  私は自身に体が冷えないよう保温の魔法もかけた。


  いつもなら即座に怪我や体調不良を治す白妃が時間をかけていることに不安を抱きながら、私は尋ねた。



(白妃……ヴァシュロン、大丈夫だよね?)


『……私では治せないかもしれないわ』



  その言葉が信じられなくて目を見開いてから、つい白妃を両手で掴んだ。


(なんで!どういう事なの白妃っ!)


『っ!彼は、毒に侵されているのだけれど、それ事態は即死を逃れている。けれど、毒に込められていたのか、毒を盛った人間に悪意があったのか呪いまでかかってしまってるの』


『白妃を放してやれ。白妃にはなんの非もない』



  希闇の言葉に私はハッとして白妃を放した。



(ごめんなさい白妃……)


『大丈夫よ……。私たち精霊は呪いには弱いのよ……。呪いさえ無ければ解毒してあげられるけれど、あの状態では精霊魔法で治してあげられないわ』


『相当に強い呪いだな。即死を逃れたとはいえこのままでは数刻ともたないだろう』


(っ!そんな!)



  私は希闇、白妃に向けていた目線をヴァシュロンへ向けて、握った拳を胸に押し当てた。



(せっかく友達になったのに、せっかくあの炎の中から生還したのに……)



  蒼月の夜の名前で呼び合うことを許した時の事、朝食の時の人見知りな彼の様子、炎の中で横たわっていた彼……共に過ごした数少ない邂逅を思い出す。



(まだ……諦めるのは早いよね。きっと、きっと大丈夫よね?)



  いつの間にかに目尻に溜まっていた涙を手で拭って、再びヴァシュロンに目を向けた。

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