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29、予期せぬ事態

「そろそろ護衛依頼を受けたり、臨時パーティーでもいいのでリーダーをやってみたりしませんか?」



  いつも通りに冒険者ギルドに依頼を受けに行くと受付の女性にそう言われた。



「いや……日数かかるような依頼も他の知らない人と組むのもまだ……」


「んもう!フィルさんは、既にBランク程の実力あるのにそれじゃ昇級出来ないじゃないですか。せっかく実力あるのにもったいないですよ?」



  このように言われるのは今回が初めてではない。

  依頼を完遂条件以上でこなし続けているためか、シゲにもラズベリーにもカルにもそう言われるのだ。


  けれど、私の目的は伸び伸びと魔物狩りをして過ごす事であって、ランク上げをして稼ぎまくることでは無いのだが……。



「ギルドと致しましては、実力がお有りなら他の冒険者が受けられない高ランク依頼を優先的に受けて欲しいのですよ。フィルさんはBランク討伐依頼も問題なくこなしていますし、ギルドと致しましては本当に期待しているのです」


(とうとうギルドからも圧力が……でも、私はCランクのままでいいんだよね。気楽だしそれに……)



  もう、あと一週間とせずに領地へ来てから一ヶ月経つ。

  そろそろ、帝都の方へ戻って来るようにと連絡が来てしまうだろう身で、ここのギルドに期待を持たれ過ぎるのは荷が重い。



 ****


  結局、今日もBランク昇級を薦める人々を適当にあしらい、いつも通り依頼をこなして邸宅へ帰って来た。



「ただいま戻りました」


「お帰りなさいませ。お嬢様……お伝えすべき事があるのです」



  屋敷に入るなり、私がそろそろ帰ってくると思い待っていたのか筆頭執事のプリズマが出迎えてくれた。

  プリズマは一拍置いてから言いづらそうに、伝えるべきことがあるなどと言う。



(何……?なんか大事な物を壊しちゃったとか?夕飯の支度に失敗して夕飯は作り直すので遅くなりますとか?)


「何かあったの?」



  何があっても許してあげるのにな、なんて軽く思いながら尋ね返ってきた答えは、とても重苦しいものだった。



「……帝都の各地で殺傷事件が複数同時発生致しました」


「殺傷事件が帝都各地で複数同時!?」


「つきましては、お嬢様が帝都へお帰りになる日程を来週中にもと予定していたのですが、延期になりました。公爵様から、お嬢様につきましてはしばらくこちらで滞在し続けるようにとの事です」



  人攫いにあったり、魔物と戦ったりはあったけれど……身近で人が死ぬ事は無かったし、表面的には平和な日常だった。

  気分転換に狩りに出るような平和な日常に影が差す。

  その事に言いしれない不安を感じた。


  聞きたくもないが聞かずには居られなかった。



「帝都でそんな……どんな。いつ?」

 

「魔術師による時差式魔法陣での爆破が帝都各地で、それに無差別に通行人を突然切りつけ始める武装集団も現れたとか……。事が始まったのは、今朝のことです。今日中には終息する見込みのようですが……念の為にと」



  ほんの数週間前まで過ごしていた帝都での殺傷事件。

  他人事として片付けるにはあまりにも身近な場所での騒ぎに、私自身がその場に居たわけでもないのに恐怖で心臓が高鳴る。



「お父様とお母様、ファディール……使用人のみんなはーー」


「皆さんご無事ですよ。ご安心ください」


「そう……よかった」



  私はひとまず身近な人々に被害が無いことに胸をなで下ろし、プリズマとリリアの配慮もあって早めに就寝する事になった。



 ****


  文明の発達したあの長い夢は、思っていた以上に、今の私に影響していた。

  あの世界はとても平和で、生まれてから死ぬまで戦争にも犯罪にあった事すらも無かった。

  唯一、危険な目にあったのは最後の飛び込み自殺だけで、それも即死だったからか実感はあまり無い。



(この世界は決して平和では無いのに……夢の影響で無意識に平和ボケしていたみたい)



  この世界では、どの国も戦争を当たり前にしていて、この国だって私が一歳の頃に隣国との戦争が終戦したばかりだと近代歴史で習った……。


  実際、帝都で複数同時殺傷事件だって起きる程危険で……。


  複数同時……?


  複数同時に帝都各地で殺傷事件って、普通の事とは思えない……意図的なものなんじゃ。

  複数同時殺傷事件が故意のものだとしたら……テロ?


  テロって何のためにするもの……?


  戦争なら肥沃な土地や鉱山、危険分子の排除のためとかですると思う。

  でも、テロは……政治的に納得いかなくて起こしたり、権力者、政治的上位者に圧力かけるためにやったりするんじゃ……。


  そんなの人殺しや戦争が当たり前で、いつ要人の命が奪われてもおかしくないこの世界では、あまりにまどろっこしい……。

  この世界の常識で考えるなら、回りくどく嫌がらせをするように関係のない人々を殺すくらいなら要人を殺しにかかるだろう。


  そして、この国で政治的に頂点に立つのは、皇帝しかいない。


  (皇城は無事なのかな!?帝都での騒ぎをわざと起こして、城でなにかするのが本当の目的だったりしたら!)



  杞憂かもしれない、杞憂であって欲しい。


  けれど……なんだか不安が拭えない。

 

  皇帝もお披露目の済んでいるダビッド皇子もしっかり護衛が付いているかもしれない。

  けれど、お披露目をしていない事を理由に、メレス宮火災の時に見捨てられそうになっていたヴァシュロン皇子は……?


  そう思うと私は、居ても立っても居られなかった。



(希闇っ!すぐに影移動で皇城へは行ける!?)


『帝都であれば魔力、距離的に見て往復可能だな。行くのか』


(うん!お願い!)



  私は念の為にと急ぎ冒険者服に着替えて、希闇の影移動で皇城へと向かった。

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