28、装備を揃えに2
着方が分からないものがあったらどうしようかと少し思っていたが、夢の記憶で覚えのあるバックルばかりで特に着方の難しい物はなかった。
「着替え方わからなかったら手伝うぞ〜?」
「いや、分かるから大丈夫だよカル!すぐ着替えるから!」
(男同士だから手伝ってあげるとか思ってるんだろうけど私、女だし……)
お約束な着替えを覗かれるということも無く、速やかに着替えを終え私は更衣室を出た。
「おお!かっこいいじゃん!」
「そお?」
ラズベリーが私を姿見の前に立たせてくれる。
中に着ている上下は両方革で光沢もあり派手かと思ったが、上着のコートは布なので前を閉めればそれほど革光が目立つことも無かった。
試しにロングコートを着てみたが、縦長に見えてすらっとしているためスマートに見える。
(男物もかっこよくていいかも……)
「ああ〜いいな〜。俺も金があったらトータルコーディネートしてもらってすっげえかっこいいの着られんのになぁ〜」
「ふふっ。カル坊もうんと稼いで来てちょうだいね?で、フィル坊?丈違いの革服、コートも含めてお代は……」
ラズベリーがもったいぶった言い方をするものだから何となく唾をごくりと飲み込む。
「お代は……?」
「金貨525枚と銀貨5枚よ?まぁ、お得意様ですし銀貨分はまけておくわねっ。払えないようならつけでーー」
「はいっ。金貨525枚です」
私は、ラズベリーが続きを言う前に店のカウンターに魔収納から取り出した金貨525枚を出した。
お金はいつ使うか分からない為、闇収納に金貨200枚は入れて置いて、残りは魔収納の方に入れて置いていたのだ。
「え……ええええ!?うそ!さすがにそこまで稼ぎがいいなんて!てか……え?魔収納?」
そこまでワタワタと独り言をするとラズベリーはハッとして金貨を数えだした。
「ちゃんと本物……金貨525枚、確かにあるわ」
「偽物なんか出さないし騙したりなんかしないよ」
代金を確かめた上でもまだ納得が行かないのかラズベリーは独り言を続ける。
「まさか冒険者になったばかりの少年の稼ぎがそこまでいいなんて思わないだろ。いや……初稼ぎから金貨161枚なんてぶっ飛んだ額だったが……」
「まぐれ当りなんかじゃなかったのさ!フィルはあれからも毎日、金貨100枚は稼いでいたんだぜ?」
カルのもたらした追加情報で、ラズベリーは固まった。
(あ……ラズベリーさんまで固まっちゃったよ)
「フィルはすげぇんだ!Cランク魔物でもバッサバッサ倒してさ!解体した素材を魔収納にぜーんぶ仕舞って持って帰ってきてーー」
「Cランク!?フィル坊はCランク冒険者だったのかい!?」
「あ……うん。ランク言ってなかったっけ……?」
「聞いてないよ!でも、Cランクにしても毎日金貨100枚なんて……Bランク並の稼ぎじゃないか……」
そう呟くとラズベリーは私の両肩をガシッと掴んだ。
「フィル坊!!もう、うち以外で買い物すんじゃないよ!?」
「無茶言うなよラズベリーさん……」
「ハハハ……」
気圧されて反論できない私の代わりにカルがラズベリーに反論してくれて、私は乾いた笑いだけ出した。
「そうだ!武器も新調するって言っていたね!?とっておきのを色々みせてあげるから待っててちょうだい!」
そう言ってラズベリーは、店内の壁に飾ってある剣や棚の剣、さらに店の奥からも色々と持ってきては並べていく。
「……絶対、高いの売りつける気だぞありゃ」
「だよね……僕もそう思う」
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「結局、武器は良かったのか?」
武器屋を出るとカルが私にそう言った。
あの後、ラズベリーが高そうな武器を片っ端から並べてあれこれ説明もしてくれたがどれも気に入るものはなかった。
宝石をあしらう式典用みたいな細身の剣、格好だけ求めたような大剣、黒光りだけ強調された短剣や頑丈さが取り柄の重たい剣。
色々とみせてくれたが、どれもしっくりとはこなかったのだからしょうが無い。
「まぁ、武器選びは最重要だもんな。慎重にもなるか。でも、なんで樽の武器を買い占めたんだ?」
「予備はあった方がいいでしょ?」
「予備って……んな三十本近くも要るかよ」
カルの言う通り、私は樽のリサイクル武器を買い占めた。
内訳は、槍七本、斧三本、短剣七本、剣十五本の計三十二本だ。
樽の武器は買い占めても金貨72枚で済んだ。
ラズベリーは何も買わないより儲けになるからと喜んでいたが、カルにとっては釈然としないらしい。
「ま、結構お金使っちゃったし。今日も頑張って稼ごうな?カル」
「まぁ、そうだな。今はとりあえず稼がねぇとな!」
私達はいつも通り、討伐依頼と収集依頼を済ませに森へと向かった。




