10、お忍び外出へ
領地の屋敷で騎士団の人達に対人戦を学びつつ、馬の世話をしたりビエラと共に魔物狩りへ出かけたりという日常を1週間ほど続けた。
騎士団員の間では『お嬢様は弟君に家督を継がせて女騎士になる気なのだろう』と囁かれている。
騎士団長のブラビアもそのつもりでいるのか、とても熱心に私の剣術指導をしてくれている。
「よく相手を見て次の動きを読むのです!右に切りかかれば敵は左に逸れる。上からいけばこちらの腹から下が無防備。全体を把握しながらーー」
身体強化している状態で白妃が疲労回復もしてくれているのでこちらは延々と動けるが、ブラビアはそうはいかない。
他の団員やビエラより長くもつが、それでも剣を打ち合いながら指導するのは息が切れる。
いつもブラビアが体力的にキツくなるのを合図に対人戦指導は終了する。
ブラビアの私に対する指導をずっと見ていた彼の息子のアルファが指導の終わりを見計らって、彼の元へとやって来た。
「とう……騎士団長。ぼ、私にも指導をしてください」
「ま、待ってくれアルファ。まだ、息が……」
「すぐでなくても良いのです。お時間のある時にでも……」
「アルファの指導にはコサイをつけてただろう?まずは、コサイに学びなさい」
コサイは、騎士団員の一人でなかなか面倒見の良さそうな薄緑の髪に濃い緑の眼の男だ。
普段は彼がアルファの指導役をしている。
「けれど、たまには……」
「甘えるな!ここは騎士団なのだ。まずは地道に実力をつけなさい」
「っ!!…………はぃ」
強い口調で騎士団長に叱られてアルファは、ビクリと肩をはね上げ、言葉尻を小さくしながら目線を下げ涙目になった。
そして、その涙目のまま横目で私を睨みつける。
バシッっ!
アルファが私を睨みつけた直後、騎士団長がアルファの頬を叩いた。
叩く力が強いためにアルファはそのまま地べたに倒れてしまう。
「お嬢様になんて目を向けるっ!!我らがお仕えすべきお方だろうが!お前は実力云々の前に騎士精神を鍛え治せ!」
「………」
アルファは、涙をボロボロ流しながら地べたに倒れた姿勢のまま固まっていた。
「騎士見習いとはいえ騎士団員でありながら返事も出来んのかっ!」
「ブラビア……私は大丈夫ですから……」
「このような事が外でもあってはならぬのです!お嬢様のお言葉といえどお咎めなしには出来ません」
私が間に立ってもダメだった。
なぜ私が関わると、どの親子も父と子の関係が悪化するのか……。
私がどうにも出来ず、かといって無関心に立ち去る事も出来ずに居ると、ビエラが私を狩りへ連れ出してくれた。
その日の狩りは、先程の事が気にかかって素直に狩りを楽しむことが出来なかった。
****
翌日は、リリアに「せっかく青い服もお忍び用の小物もあれこれ用意したのに街へは全く行かないのですか?」と言われたので街に出る予定になっていた。
もちろんこれもしたかった事の一つなので嬉しいのだが、昨日のアルファの事がまだ気にかかっていて私は、素直に喜べずにいた。
「どうしたのですか?私が言い出した時には『 そうよね!お忍びとはいえ外に出られるんだもの!行かなきゃ損だわ!』ってはしゃいでたのに」
「うん。大丈夫、リリア支度してくれる?」
「何があったか知りませんけれど、あったなら尚更、気分転換しましょうね。よーし!完璧に田舎娘に変装させますよー」
髪はいつもの様に綺麗に結うのではなく、シンプルな青く短いリボンで後ろに一つ結び。
普段つけている父様に頂いた収魔の髪飾りは、闇収納の中だ。
お忍び用の濃い青の服は、普段の服より安めの布でシンプルに作られてはいるが、平民の服と言うには上等な物。
平民が装飾はつけないだろうと偽の収魔のブレスレットも外してある。
デザインは男物でお願いしてあったのでしっかり男装となっている。
「本当に男装でよろしいのですか?せっかく可愛らしいのにせっかくのお忍びがズボンだなんて……」
「いいのよ。その方が私だと分かりにくいだろうし、男と思わせておく方が誘拐の心配も減るでしょう?それより……こんなに上等じゃ平民には見えないのでは?」
「裕福な商家の者ならこんなものですよ。むしろもっと飾り立てるかも知れません」
「まぁ、街を歩くのに違和感ないなら良いけれど……」
「あら!?収魔のブレスレットは?」
「あーうん。大丈夫持っているわ。ただ平民が装飾は持たないでしょう?だから腕には付けてないだけよ」
「ならいいですけど……ちゃんと持っていてくださいね?魔力暴走は本当に危険ですからね?」
(魔力暴走なんて起こす心配ないくらい、既に魔力操作出来ますけれどね?)
街を歩く際に平民達にあからさまに貴族とバレるような服装ではないなら問題ない。
だが、問題は次にあった。
「本日は、私とビエラ様が同行しますね。安全面はーー」
「待って、3人でズラズラと街中を歩くというの?」
「3人でというか、私とフィリセリア様が並んで歩き、後ろからビエラ様が護衛なさいます」
「私一人でいいわ」
どこの平民が侍女を連れ、護衛付きで街を歩くというのか。
さすがに裕福な商家の子息であろうとそれは無いはずだ。
「なりません!フィリセリア様は公爵家の御令嬢ーー」
「である事を隠して街へ行くのに、そんな大所帯で行けません。リリアも付いて来なくていいわ」
「そんな!財布はどうなさるのです?荷物持ちも……」
「侍女に財布を持たせる平民など居ないでしょう。財布は私が自分で持ちます。ビエラも私に同行はさせないでください。護衛を付けるならなら後方から隠れて付いてくるように言って」
「それではもしもの時に対処が遅れーー」
「リリア、ビエラの事を見くびり過ぎよ?彼女なら私から1km離れていようと私の身を守り切れるわ。それに私も、もう護身くらい出来ます」
「しかし……」
それでも食い下がるつもりでいたリリアを押さえ込んだのは私ではなく、廊下で話を聞いていて部屋へと入って来たプリズマだった。
「リリア、これ以上何か言わない方がいいでしょう。もし問答を続ければ、恐らくお嬢様は一人で街へ行かれると思いますよ?」
「う……そんな」
「あなたは、お嬢様と街へ行くことを楽しみにしていたのでしょうけれど、お嬢様もお忍びで一人街を歩く事を楽しみにしてらしたのです。お嬢様の意を汲みませんか?お嬢様にとって初めての外となるのですから」
「!そう……ですよね。フィリセリア様は、羽を伸ばしにこちらにいらしたのに、私が居ては非日常を味わえない部分もあるのかも知れません」
そう言って俯いたリリアは、心を決め私を見上げた。
「わかりました。どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ!」
「ありがとうリリア」
こうして私は、初めての外出をひとりで行うことになった。
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