8、魔物狩り1
ビエラの走らせる馬に揺られて辿り着いた森は、何の変哲もない森のように思えた。
訪れた森は、木漏れ日が差し込みキラキラとしていて木の根元には青々とした草が茂り所々に茸が生えているのも見える。
「なんだか思っていたより普通の森なのですね……。もっと黒い霧が立ち込め、枯れ木がまばらにあり、水が煮えたり腐ったりしている場所かと……」
「私……初心者の狩場へと言ったと思いましたが……。それは、さすがに危険地帯過ぎますよね?」
乗ってきた馬は、森の入口で放された。しっかり調教をしてあるので合図を送れば戻ってくるらしい。
「馬って賢いのね」
「魔物ですと魔調教師でないと飼い慣らせないですけれど。普通の馬なら一般人にも調教出来ますからね」
「魔調教師?魔物って飼いならせるものなの?」
「魔物と契約をして力を借りられるらしいですよ?精霊術師と同じく魔調教師も数が少ないので聞いた限りですけど可能らしいですよ?」
(魔調教師!魔物の協力を得る!とても魅力的です。もしかして精霊魔法士と同じで魔法士ならやりやすかったりしないかしら?)
翡翠も白妃もこの森には精霊が多いから挨拶をしてくると言ってどこかへ行ってしまったので返事はないが、私は内心ワクワクしていた。
「初心者の狩場で、魔物との遭遇率がそれほど高くないとはいえ油断も出来ません。必ずお守りしますがお気を付けて」
「わかりましたわ!」
****
背後から襲われることの方が危険だということで、私が先頭を歩きビエラが後からついてくる形で森を進んだ。
森をビエラの指示通り進んで十分ほど、全然魔物なんて出てこないなと思っていた頃に、ビエラの指示で立ち止まった。
「お嬢様。まだ遠いですがあの木々の先、角兎とスライムです」
言われてからそちらの方を様子見れば、短い角を生やした兎と透明な丸い塊が草を食べていた。
「魔物同士は争わないのですね……」
「いえ、よく争いますよ。ただ、片方はスライムですからね……。スライムは、ほとんどの魔物に相手されないのです」
「へぇ……」
私は身体強化をかけ、剣を構えて角兎達に駆け寄った。
スライムはまるで気にせず草を食み続けて居るが、角兎はまだ距離のあるうちに耳を小刻みに動かしこちらに気付いた。
(やはり、長い耳は伊達ではないようですね!)
角兎は、私が駆け寄っていることに気付き逃げ出そうとしたが、速さでは私にかなわない。
角兎がはじめの一歩を踏み出すより早く私の剣が角兎に届き一撃で決めた。
そのまま、近くで草を食み続けるスライムにも剣で一撃を加える。
スライムは、柔らかい身体で剣を受けそのまま真っ二つにされるとその場で溶けるように崩れた。
「やはり敵ではありませんね。お見事です」
そう言いながらビエラが近付いてきた。
「角兎は索敵は良いけど動きは遅いし、スライムなんて逃げるどころか気付きもしていない様子でしたわ……」
「残念そうですね。まぁ、スライムはどれもあんなものです。角兎は、初心者の冒険者や狩人が追いつけずに1日追い回すのが恒例なんですけどね……」
「走り出したら速いと?」
「いえ、走り出しも早いはずなんですけど……」
どうやら私が速すぎるようだ。それよりも気になる単語があった。
「ビエラ。狩人はわかりますけど、冒険者って?」
「依頼に合わせて薬草を摘んできたり、魔物を倒したり、魔物の素材を回収したりして生計を立てる職種の者の事です」
「そんな職種がっ!?」
私が素敵な職業に目を輝かせていると、ビエラが軽くため息を吐きながら言った。
「魔物相手に命を張る仕事ですので、一般的に職に溢れた者や力に自信のある者がなります。たまに低級貴族の三男くらいの者が身分を隠して冒険者をする事もあるようですが……」
「何か問題でも?」
「いえ、冒険者は身分問わず成れる職業ではあるのですが、身を張らずとも食べていける貴族があえて冒険者をする事を『貴族の子どもが道楽として冒険者業を馬鹿にしている』と憤慨するものも多く……」
「貴族の令嬢がやりたいなんて言ったらものすごく反発を受けます?」
「確実に反発を受けるでしょうね。身分を隠したとしても『なぜ女の子がわざわざ…』と思われる事は間違いないでしょう」
「そうですか……」
****
それからも三度ビエラの案内でスライムや角兎に出会っては狩りをした。
けれど、あまりに倒すのが簡単すぎるのと見つけるまでに早くて10分、遅くて25分くらいかかる非効率さに私は面白くなくなってきていた。
「もっと簡単に魔物が見つかったらいいのに」
「元々、この森はそこまで魔物の数が多くはありませんからね。次は、もう少し出現率の高い森へご案内しましょう」
「でも、今日はこの森でしょう?」
「はい。今から他の森へ移動するのは難しいですね」
(魔法で索敵出来れば……いや、ビエラに怪しまれてしまうかしら?)
そうは思いつつも、私はあまりの非効率さに我慢し難くなってきていた。
(ちょっと魔物を見つける感がいいくらい……普通ですよね?)
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