2、公爵領へ
領地へ行くのを楽しみにしながら過ごす1週間は、とても長く感じた。
私はこの1週間、午前の勉学が無い日を公爵に許可を得た書斎の本棚で領地のことを調べながら過ごしていた。
午後は変わり無く、魔法訓練場での身体強化と魔法の訓練だ。
(白妃、翡翠、的お願いね!)
『いきますよ』
『いっくよー』
領地へ行く事が決まってからは、白妃に色付きの光を的として不規則な場所に出現させてもらい。
翡翠には、準備してある木の葉を巻き上げてもらって的として実践的魔法訓練を行っている。
白妃が光らせる赤い3つの光に向けて、氷槍、火槍、雷槍を飛ばし。
翡翠の巻き上げた木の葉には、一枚一枚狙って石槍を複数飛ばす。
(うーん、まだ木の葉撃ちの方は精度が低いね)
『数が多いですから、でも光の玉は完璧に当ててますわ』
『木の葉も4割はど真ん中!7割は当ててるよ!すごいすごい』
魔力は十分にあるので、大きな魔法を使う事もできるが公爵家の領地の森や山を自然破壊するわけにはいかない。
そのため、今は的確に的を射る事と小さい魔法をいかに複数正確に扱う事を訓練中だ。
『身体強化もだいぶ身体が慣れてきていますし、実践は問題ないと思いますわ』
『うんうん!希闇の創る影人形をザッパザッパ切っていくもんね!』
今日は居ないが、たまに希闇にも日中訓練に付き合ってもらっている。
白妃のつくる光を利用して、わざと訓練場の床に広く影を作り、希闇にその影を利用して影を操ってもらうのだ。
これは、私から頼んだ事ではなく自分もなにか手伝えることがあればと申し出た希闇の提案だった。
白妃の不規則に出す光玉撃ちで、即座に敵を見つける目を養い。
翡翠の飛ばす数多の木の葉で、複数の弾を正確に扱う技術を磨く。
そして、希闇の作り出し襲ってくる影人形で剣術を鍛えている。
(みんなのおかげでだいぶ実践に対して自信がついてきたわ)
『お役にや立てて嬉しいですわ』
『魔力くれる〜?』
領地へ向かうのは明後日、私は早く森に入って魔物相手に実践戦闘する事を楽しみにしながら更に熱を入れて訓練に励んだ。
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領地へ向かう当日、ファディールは念の為まだ外には出せないとの事で母様と父様、公爵家の使用人達が見送ってくれた。
お披露目前の子供なので外で大々的に見送りというわけにはいかないが、皆屋敷の玄関ホールで勢ぞろいしてくれたのだ。
「フィリセリア様、お荷物は積み終えましたが別段、お嬢様のお持ちになるものなどは……」
「無いから大丈夫よリリア。ありがとう」
道中のお世話もあるので、リリアは私と一緒に公爵領へと向かう。
今朝の新緑色のドレスを整えてくれたのもそれに合わせて私の髪を編み込んでくれたのもリリア。いつもリリアには、世話になってばかりだわ。
「気を付けて行ってきてねフィリス」
「ラルセインには、よく伝えてあるから何かあれば彼を頼りなさい。途中立ち寄る宿は、予めスバルが手配しておいた。その辺は、御者に任せればいい。しっかり羽を伸ばしておいで」
「ありがとうございます。お父様、お母様行ってきます」
私とリリアが乗り込み、御者が馬に合図して馬車を走らせはじめた。
帰属街の他の貴族に存在を知られるのは良くないため、既に正面扉は閉められた公爵邸。
公爵邸の敷地を外へと向かっていく馬車。
寂しさもあるが、ずっと家の中に居なくてはならない閉鎖的なところから解放されていくような気持ちもある。
門を出る前には、リリアによって馬車のカーテンも閉められた。
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公爵領までの道中は、3日ほどかかる。
その為、途中の街々で宿に泊まるのだが私はお披露目前で、まだ人目につくわけにはいかないのでフードをすっぽり被っての移動となる。
その上、宿からは出る事も出来ないし、馬車から外を覗くことも出来ない。
(道中は、屋敷にいた時と変わらないですね…。でも、お父様も羽を伸ばしてきなさいと仰ってましたから領地に着いたら沢山出かけるとしましょう!)
移動も閉鎖的……けれど、きっと着いたら開放された世界が待っている。
そのことに希望を抱きながら私は馬車で揺られ続けた。
退屈な馬車移動を魔力操作の訓練に当て、馬車酔いをしては白妃に癒してもらいながら特に何事も無く領地へと到着した。
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「お嬢様、領地に入りましたよ。馬車のカーテンを開けて外を眺めていただいて大丈夫です」
御者がそう言うと、リリアが直ぐに私の座る側のカーテンを開けてくれた。
「わあ〜!綺麗っ!」
カーテンを開けてもらうと、窓の外に色鮮やかなに紅葉した木々が広がっていた。
(事前に領地の事を調べていて知ってはいたけど帝都よりも北よりだから紅葉も早いのよね。まだ、紅葉初めで緑色の葉も混ざっているけど綺麗だわ!)
木漏れ日が葉の動きに合わせてチラチラと動き、赤い葉が光に透けて暖色の光に包まれている気になる。
『この辺り、とーっても空気が美味しい!』
『木漏れ日の光で光の小精霊達がいっぱい遊んでいますわね』
どうやら、光に包まれていると思ったのは気のせいではなく光の精霊たちが集まっていたからのようだ。
翡翠が絶賛する空気も味わいたいが、ガラス越しなので仕方ない。
早く自分の足で森へ行きたいものだ。
紅葉が美しい森を抜けると遠くに海があり、右方には山々、左方には森が広がっているのが見えた。
街は山の斜面に作られていて、一番高いところに大きい屋敷が見える。
斜面の上の方は白い建物が並び、下の方はレンガ造りの赤茶色っぽいで、くっきりと居住域が別れているようだ。
レンガ造りが平民の建てたもので、白いのはきっと土魔術で作った貴族のものね。統一感があって綺麗だわ。
山の麓から平地は、牧畜や農業を行っているようで、ちらほら牛や羊が居て、小麦が広く土地を覆っているのが見える。
(とっても綺麗な素敵な街……すっごく楽しみだわ!)
私は、街並みに素敵なものを感じて胸を躍らせながら早く領地の屋敷に着かないかなとワクワクしていた。
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