37、皇城での朝
しばらく魔力操作の訓練を続けていると、普段リリアがくる時間より少し早く、皇城の侍女が挨拶に来た。
私が起きていると思っていなかったのか、一瞬驚いた顔をしたけれど直ぐに落ち着き挨拶をしてくる。
「おはようございます。朝のお支度に参りました。朝食には、ヴァシュロン殿下もご一緒なさいます」
「殿下もですか……わかりました」
ヴァシュロン殿下は、よっぽど同年代の友達ができたことが嬉しいのね。
私もヴァシュロン殿下となら仲良くなれそうだから嬉しいわ……なんて、殿下に対して不敬ね。
「本日のドレスはこちらでご用意してございます。お召し替えを致しましょう」
用意されていたドレスは、濃淡様々な黄色い生地をあしらいそれに合わせたレースが美しい黄色いドレス。
侍女が近くに持ってくると、私のミラージュヘアが薄い黄色に変わる。
「なんて美しい……。昨日も思いましたが、とても美しい御髪ですね」
「ありがとうございます」
「このドレスと合わせますと、まるで皇室の方々と同じ白金の御髪のようですわ」
侍女はそう言いながら、私にドレスを着せて白金にも見えるミラージュヘアを綺麗に結ってくれた。
****
侍女に案内されながら食堂へ向かうと、ヴァシュロン殿下は先に来ていたようで席に着いていた。
「おはようございます殿下。お待たせ致しました」
「えっ。あれ……」
私が挨拶すると、殿下は戸惑った様子を見せた。
私と朝食を共にする事を決めたのは殿下ではなかったのかしら?一緒に食事をするとは聞いておられず戸惑っているのでしょうか。
私は、殿下の予想外な反応に首を傾げた。
「あの……あなたの髪はまるで皇室の血筋と同じ髪色だったのですね……」
「あ……」
なるほど、殿下は私の髪が昨日見た色と違う為に驚いていたという事ですか。
恐らく、あの燃え盛る宮で見た私の髪は炎の色を移して朱色に輝いていたと思うので、赤かオレンジあたりと思っていたのでしょうね。
「いえ、殿下。私の本来の髪色は白銀です。私の髪は変わっていまして、周囲の色をそのまま映し出すのです。知る者にはミラージュヘアと呼ばれていますわ」
「ミラージュヘア…………」
私が髪をひと房手に取りながらそう説明すると、殿下は私の言葉を繰り返して固まってしまった。
「変……ですよね?」
「いえ!とても……とてもお綺麗です。えと、すみません。ずっと立たせて……どうぞお座り下さい」
殿下に着席を許されると朝食が運ばれて来て、その後は特に会話も無く時間が過ぎた。
殿下は、食事中も私の方をチラチラと見ている。むしろ、食べるより見ている時間の方が長いのではと思えるほどだ。
(食事マナーに問題はないはずなのですが……)
『大丈夫!フィリーいつも通り綺麗に食べられているよ?』
『確かに彼、落ち着きはありませんね。何か話しかけてくるわけでもありませんのに』
殿下の視線は気になるが、じっとこちらを見る目と自分の目が合うのは絶対に気まずい。
視線に気づかない振りを続けひたすら食事マナーに意識を向けて食事を済ませた。
****
食堂を出ると侍女が『陛下がお待ちになっているお部屋へご案内致します』と言うので彼女の後を付いて廊下を歩いた。
すると、昨日出会ったばかりの今一番会いたくない人物に出会ってしまった。
「おいお前!まだ城をうろついていたのか!目障りだっ!」
私の事を指差してそう叫ぶと、ダビッド殿下は苛立った様子で近づいて来る。
目障りと言う割に近づいて来るとは、矛盾しているなと思いつつ私は挨拶をする。
「帝国の星、ダビッド・ティルス・シャルディルチア殿下にご挨拶申し上ーー」
「申し上げなくていいっ!なんでお前がまだ城にいるんだ!俺の城だぞ!」
挨拶を遮った上、皇帝陛下の居城を「俺の城」と宣う殿下に呆れつつ、事の次第を私は説明する。
「昨日、場内で火災がありました折、私が気絶してしまったため陛下が休める様にとーー」
「うるさい!うるさい!!お前の話なんか聞きたくないっ!」
今度は、なんでと言うから説明を始めたら話を聞きたくないと殿下は遮り癇癪を起し始めた。
(……7歳との事だったからお披露目もして人前に出ているのよね?この様な状態で大丈夫なのかしら……)
「なんとか言ったらどうなのだっ!!」
話を聞きたくないと言ったから黙っていたら、次は何とか言えと言い出す殿下に困り果てて居ると、騒ぎを聞いた陛下がいらした。
私は、すぐさま陛下にカーテシーでご挨拶をする。
「帝国の月、フィリップ・ティルス・シャルディルチア陛下にご挨拶申し上げます」
「父上こいつ!」
「そのように騒ぎ立てるなど皇族としてみっともないとは思わないのかダビッド。話はこの者に聞く。して、これはなんの騒ぎだキルア」
私に着いていた侍女の名はキルアというらしく、彼女が事の次第を陛下にご報告した。
「公爵令嬢の朝食が済み、お部屋へご案内して廊下を歩いておりました。そしてここで、殿下と鉢合いまして「まだ城をうろついて居たのか!目障りだっ!」と殿下は令嬢を指差しながら近付いて来られました」
「なっ……」
「令嬢は挨拶の口上を述べましたが殿下はそれを遮り「なんでお前がまだ城にいるんだ!俺の城だぞ!」と仰られました」
彼女の状況報告を聞いて、陛下も陛下と共に来た騎士も顔を引き攣らせて絶句しているが、キルアの報告はまだ続く。
「令嬢は殿下が何故と仰ったので昨日の事と次第を説明しようとしましたがこれを殿下は遮り「うるさい!うるさい!!お前の話など聞きたくない!」とーー」
そこまでキルアが報告すると、これ以上聞きたくなかったのか聞く必要が無いと思ったのか。
陛下は手をかざしてキルアの報告を止めた。
「話はわかった……フィリセリア嬢、すまんな」
「父上!こんな奴に謝罪などーー」
「黙れっ!!」
陛下に一喝されると、殿下は肩を跳ね上げて怯えだした。
「お前には皇族としての自覚も最低限の礼節もない事がはっきりとわかった。……2週間ほど謹慎とする。今一度、礼儀作法を学び治せ」
「ち、父上!そんな!」
「確かに命じたぞ?ダビッドを部屋へ連れて行け」
騎士達に連れて行かれる殿下は、去り際に私の事をキツく睨みつけ廊下の角を曲がるまでずっと恨みの籠った目線を送っていた。
陛下は、呆れと疲れが籠った溜息をつくと私に一緒に来るよう促した。
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