35、皇城の一夜2
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私は、風呂上がりに廊下で鉢合ったヴァシュロン殿下に誘われて少しの間、二人で話しをすることになった。
侍女が部屋から羽織を持って来て私の肩にかけてくれる。
「夜風は暖かくなってきておりますが、ご自愛なさってください」
「ありがとう」
殿下は、私が羽織を肩にかけるのを見届けると左手を私に差し出した。
「よろしければ、少し歩きませんか?」
「……喜んで」
人見知りの皇子様が自ら誘うのは、余程勇気が要るだろうと思い、安心させようと微笑んで殿下の問いに答えた。
殿下は、そんな私にまた目を泳がせて、顔を伏せる。
(本当に殿下は、こんな状態で人前に出られるのかしら……心配になるわ)
****
侍女は、気を利かせて私たちからずっと離れた距離で付いて来てくれた。
殿下が私の手を取り連れて行ってくれたのは、皇城の中庭園。
城内にあるため小さめの庭園だが、良く整えられていてとても美しい。
「あの東屋でお話を……あの場所は、月もよく見えてとても美しいので」
殿下はそう言って中庭の中央にある東屋に私を案内した。
白石造りの東屋と白い小さな花が咲き乱れる中庭は、蒼銀の月に照らされ蒼白く輝きとても幻想的に見える。
侍女は、庭園まで入らず城の外廊下から私達を見守るようだ。
「今日は満月だったのですね。道理でいつもより明るいわけです」
「そうですね。いつもより輝いて見えます……」
私は、満月を見上げて。殿下は、私を見ながらそう言葉を零した。
「あなたは僕の女神です」
皇子の言葉に見惚れていた月から目を離して彼を見れば、真面目な顔をしていた。
(真面目な顔してそんなセリフ言うなんて、どこでそんなの覚えたのよ四歳児皇子様!)
私は、つい顔を赤くしながら戸惑いのまま聞き返した。
「…………突然何を言うのです?」
「あの炎の中で僕は死ぬのだと思っていました。息が苦しく、声も出せなくなって目も霞んできて………もう終わりだと」
私が助けに行かなければ、本当に死んでしまって居たでしょうね。
あの場で、陛下も騎士も殿下の無事を諦めてしまっていましたから。
「そんな時、あなたが来てくれた。僕を苦しめていた炎も視界すら遮る煙も全て吹き飛ばして、気を失いかけてはいたけれどなんとか意識はあったので覚えています」
「そうだったのですね」
「あなたのおかげで僕を苦しめるものが取り払われて、僕の火傷も息苦しさも全て癒し、救い出してくれた。あなたは僕を救ってくれた女神です」
最後の言葉に私は恥ずかしくなり、また赤くなってしまった。
「殿下……女神は言い過ぎです。私はそんな……」
「僕にとっては女神なんだ。本当に……あなたに出逢えた事に感謝している」
「感謝は充分聞きましたわ。本当にご無事で良かったです」
もう、礼儀正しいを越えて重く思えて来そうなんですが……。
「あの……あなたにお願いがあるんだ」
「お願い……ですか?なんでしょう?」
いきなり話の路線が変わったようで、内心ほっとしながら私は聞き返した。
「あなたの名を呼ぶ許しが欲しい。それと……僕を殿下ではなく、名前で呼んでもらえないだろうか?」
殿下が私の名を呼ぶのは普通の事だが、私が殿下を名前で呼ぶなど恐れ多すぎる。私は、困りながら殿下に返事をした。
「私のことは好きにお呼びください。ですが、私が殿下の名を口にするのはあまりに恐れ多くーー」
「人前では無理しなくていい。2人で居る時、私的な時は……名で呼んでほしい。それでも……呼んではもらえないか?」
私は、侍女のいる方をちらっと見て、この距離なら会話は聞こえていないわよねと思いながら一呼吸置いて殿下の名を呼んだ。
「…………ヴァシュロン様」
「っ!」
自分で呼ばせておきながら恥ずかしくなったのか、殿下は目を見開き真っ赤になったと思ったらバッと俯いた。
「……殿下とお呼びした方が良いでしょうか?」
私が呼び方を改めようかと提案すると、殿下はそれを聞いた瞬間、赤い顔のまま勢いよく頭を上げた。
「いやっ!名で……呼んで、欲しい……」
お披露目もしていない為、私が初めての同年代なのだろう。
名前で呼び合う間柄の存在が欲しかったのか、殿下は言葉尻を小さくしながらも名前で呼んで欲しいと確かに言った。
「わかりました。では、2人で居る時はヴァシュロン様とお呼びしてよろしいですか?」
「……はい」
私がそう言うと、今度は恥ずかしさに俯く事無く、私を見て嬉しそうに殿下は笑った。
月明かりがとてもよく照らしているので気づかなかったが。
雲が流れて月にかかると、一時的に周囲が暗くなり夜闇の深さを実感する。
「ヴァシュロン様、夜も深まっています。そろそろお部屋へ戻った方が良いですわ」
「そう……ですね」
私が月を見上げながらそう言うと、殿下の寂しそうな声が返ってきた。
「あの……フィリセリアの部屋まで送ります。……来た時のように、手を繋いでも良いですか?」
「クスッ……はい、喜んで」
きっと初めて出来た同年代の友達と手を繋ぎたい心境なのだなと可愛らしく思えて少し笑ってしまった。
私は、来た時と同じく殿下の差し出した手に自分の右手を重ね借り部屋へと戻った。
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