34、皇城の一夜1
私は、遠隔魔法でメレス宮の火災を消し止め、魔力の使いすぎでそのまま気を失った。
その後、皇城の一室で私のお世話をしてくれていたらしい侍女は、陛下に私が目を覚ました事を伝えに行き、5分とせずに帰ってきた。
「皇帝陛下がいらっしゃいました」
「えっ」
(いらっしゃいました。じゃないわよ!寝巻き姿で会えと言うの!?あまりに不敬じゃない!)
私はとても慌てて『立ってカーテシーだけでもちゃんとした方が良いかしら。でも、それだと寝間着姿を思いっきり見せることになる!』とあたふたしていた。
けれど、侍女も皇帝陛下も待ってはくれず私がベッドの上であたふたしているうちに陛下が入室してきた。
「陛下……このようなお見苦しい姿で申し訳ありません」
「いや、そのままで居てくれ。此度は、本当に無理をさせてしまったようだ。面を上げてくれ」
せめて謝罪をとベッドの上で頭を下げると、陛下は全く気にした様子がなくそのままで良いと仰った。
陛下の許しで頭を上げると、陛下の後ろに例の少年が居ることに気付いた。
「フィリセリア嬢には、話しておこうと思ってな。これは我の息子、嬢と同い年である第二皇子のヴァシュロン・ティルス・シャルディルチアだ」
「先程は、私の命をお救いくださりありがとうございました」
ヴァシュロン殿下は、陛下に紹介されると直ぐに私に向けて感謝を述べ頭を下げてきた。
「で、殿下!そんな、私などに頭を下げないでください!」
「いえ、心から感謝しているのです。頭くらい下げさせてください」
頭を下げないで欲しいとお願いしても感謝の意だからと、頭を上げずに居続ける殿下に私がオロオロしていると、陛下が助け舟を出した。
「ヴァシュロン。そう頭を下げ続けると令嬢を困らせるだけだ。そろそろ頭を上げなさい」
「……すみません。困らせるつもりは……」
「いえ……、感謝のお気持ちは確かに受け取りましたから。本当に、ご無事で何よりでした」
私が笑顔を向けてそう言うと、殿下は落ち着きなく目を泳がせ、俯いてしまった。
「あれ程、力を使ったのだ魔力の減りも精神の疲れもある事だろう。夕食はこちらへ運ばせる。明日には公爵邸ヘ送ろう。今日はゆっくり休みなさい」
「い、いえ!もう大丈夫ですので公爵家へーー」
「もう、外は暗い。公爵にも君の事はこちらで預かると話してあるから安心なさい」
皇城に泊まるなど恐れ多いと、宿泊を辞退しようとしたが陛下に押し切られてしまい辞退出来なかった。
その後、先程の侍女が浴場の準備が出来ているので体調が良いようならどうかと勧めてきた。
「宮廷の浴場は他国にも引けを取らないとても立派なものです。入浴してみてはいかがでしょうか。もちろん陛下にも了承を得ております」
「是非入りたいですっ」
令嬢らしく落ち着いて返事をしようとしたがついつい意気込んで語尾が強くなってしまった気がする。
他の貴族がどうなのかはわからないが、私は公爵邸で風呂に毎日入っている。
家族はそれほど頻繁に入らずとも気にならないらしいが私は気になってしまうのだ。
(私、幼い頃はそんなにお風呂に好んで入っていなかったと思うけれど……)
思えばここまで風呂好きになったのは、あの長い夢を見てからな気がする……。
****
侍女の案内で着いた浴場は、脱衣場はそこまで広くないものの浴場はものすごく広かった。
(スパリゾート……)
『すぱりぞーと?』
(いえ、なんでもありませんよ)
気分で入る風呂を変えられるように複数の風呂が浴場に設置されており、木製、石製、同じ石製でも彫りが異なり雰囲気の全く違うもの。
さらに、各風呂ごと別の花が散りばめられていたりと趣向が凝らされており、どの浴槽もとても広い。
「流石は皇城の浴場……」
「お気に召されましたか?」
「はい……とても素晴らしいです」
それから、その侍女に入浴も手伝ってもらいゆっくり風呂を堪能した。
(薔薇も金木犀も百合も……とってもいい香りで素敵だったわ)
『同じ花が庭園にいっぱい咲いてたよー』
『どれも綺麗でしたね』
風呂を出ると侍女が布でよく髪を拭いてくれる。温風の魔道具も使い、髪をしっかり乾かしてくれた。
(電化製品に近い物は魔道具で大抵あるのよね。まぁ、便利な力があると行き着く先は同じということかしら……)
****
浴場を出て、侍女の案内で借りている部屋へ戻る廊下で、ヴァシュロン殿下と鉢合った。
廊下の灯りも灯ってはいるが、月明かりの方が遥かに明るい。
月の光で蒼銀に染まる廊下で、殿下の金髪も銀に透き通るように見えて美しかった。
「夜分に失礼致します殿下。陛下の計らいで皇城の浴場をお借りしておりました」
「そう……なんですね。(綺麗です……)」
「え?」
「いえ!なんでも!
語尾に小さく言葉が添えられていた気がして聞き返すと皇子は慌てた様子でなんでもないと言う。
そして、ヴァシュロン皇子はおずおずとこう言った。
「……あの、よろしければお時間を頂けません……でしょうか」
「それはもちろん」
「では、羽織をお持ち致しますので少々お待ち下さいませ」
「あっ」
殿下と過ごす事が話で決まると、直ぐに侍女が気を利かせて羽織を取りに行ってくれた。
「すみません……浴場から来たと仰ってたのに。せっかく入ったのに体が冷えてしまいますよね……」
「大丈夫ですよ。私も先程は挨拶だけになってしまったので、お話もしたいと思っておりました」
気を使わせないために笑顔でそう答えると、挨拶の時と同じく殿下は目を泳がせて、俯いてしまった。
人見知りなのでしょうか?皇子たるものお披露目が済めば人前に出る事も多いでしょうに、大丈夫でしょうか……。
殿下はまだ、4歳との事なのでこれから社交性は身について行くと思いますけれど……。
(自分でも忘れますが、私も4歳ですね)
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