30、殿下との邂逅
私は、魔素魔力と闇の精霊魔法についての説明も済み例の事件の話はこれで済んだと肩の荷がおりた。
(話してしまえた事でスッキリしました……まぁ、お二人は驚きに何度も固まって疲れが増したようですけど)
「公爵、フィリセリアはまだ齢4歳であったな?」
「はい陛下」
「末恐ろしいがまだ、これから色々と伸びる事だろう。見守ってやってくれ」
「ありがとうございます陛下」
穏やかにそのような会話をしている間に、何やら廊下の方が騒がしくなってきた。
幼い子供の声と扉を護っているであろう騎士の話し声のようだ。
「聞きたかった事は粗方聞いたが、フィリセリア自身とももっと話しをーー」
陛下が、そう仰っている途中で応接間の扉が突然開いた。
「うるさい!俺は父上との約束があるんだ!」
そう叫びながら応接間へ飛び込んできたのは私よりも数歳年上に見える少年。
少年は、夕日のような髪に金の瞳をしていて、顔付きはまだ幼いが切れ長の目は皇帝陛下に似ていた。
「父上!今日は公務に空きがあるから俺と過ごしてくださる約束だったはずです!」
「急用が入ったのだ……許せダビッド」
皇帝父上と呼んでいることからもこの少年が皇帝陛下の唯一の御子様にして第一位王位継承者ダビッド・ティルス・シャルディルチア殿下のようだ。
ダビッド殿下は、公爵や私には全く目もくれず扉から皇帝陛下の元へ駆けてしがみついた。
公爵は面識があるだろうが、私は初対面だ。
貴族間の挨拶はまず目下からしなくてはならない決まりがある。
私は、タイミングを見て椅子を立ち殿下にカーテシーをしながら挨拶した。
「帝国の星。ダビッド・ティルス・シャルディルチア殿下に御挨拶申し上げます。シディス・レストルーチェが娘。フィリセリア・レストルーチェと申します。以後ーー」
「なんだよこのガキ」
「これダビッド!挨拶の途中で遮るなど。それに、まずは客人に挨拶なさい」
殿下は陛下に注意された事を私のせいに思ったのか、私の事を強く睨みつけた。
「っ!なんなんだよ!このガキは!!」
「これ!ダビッドっ!」
「父上っ!こんなガキの為に俺との時間を無くしたのですか!俺よりこんなガキの方がっ!」
そう言って私に指を突き付けてきてから、更にキッと睨みつけダビッド殿下は、カーテシーのまま固まっていた私の腕を掴んで床に思いっきり放った。
幸い公爵が抱きとめてくれたので、床に叩きつけられはしていないが、急に掴まれた腕は痛い。
『すぐに治しますわ!』
『なんて奴!切り刻んでやろうか!』
(ダメよ!翡翠……ありがとう)
「ダビッド!!なんて事を!」
「だってこいつのせいでっ!」
「お前にとっても大切な人だろう!彼女はお前の婚約者になるフィリセリア・レストルーチェ嬢だ!」
「こいつが大切なのは父上達だろ!俺はこんな生意気なガキなんて大嫌いだっ!!」
そう叫ぶなりダビッド殿下は、応接間を飛び出して行った。
それよりも聞き捨てならない言葉がある。
「…………婚約者になる?」
私が、唖然とした表情でショックのままにそう呟くと皇帝陛下と公爵2人とも気遣わしげな表情でこちらを向いた。
そして、2人が頷き合い椅子に座り私にも着席し、テーブルへ手を置くように促す。
「……現段階で、フィリセリアはダビッドの一番有力な婚約者候補として上がっているのだ」
「……フィリス」
皇帝陛下は、私がダビッド殿下の婚約者候補第一位である事実を告げ。
公爵は何も言えず、ただ気遣わしげに私の名前を呼んだ。
「容姿が良く、勉学、礼節、健康にも問題なく、血筋も良い。それだけでも充分に婚約者候補の第一位に登る状況だったのだ」
「増して、優秀な魔法士であり精霊術士であるともなれば……」
「皇族に嫁がせなければ他の貴族が騒ぎ立てるであろうな」
私は、才能が原因であの我儘身勝手な礼儀も何も無い皇子に嫁がされる事になるらしい。
(これ程、自分の才能を恨むことは無いわ……)
『最悪』
『なんとか破談できませんの?』
「こんな形でアレと会わせる事になろうとは……すまんなフィリセリア。だが、あれもまだ齢7歳これから色々と身に付けていく事もあるだろう……長い目で見てくれ」
(つまり破談の道はないと……)
『願い下げ!』
『あんまりですわね』
一般から見て並外れた力を持っているらしい私が他国に嫁ぐような事が無いように、どうしても皇族と婚姻を結ばせたいようです。
けれど、先程の態度を見るに決して円満な家族になれるとは思えません。
せめてもの抵抗で私は答えました。
「まだ、婚約者ではありませんものね。未来はわかりませんわ」
「フィリス!不敬だ!」
「……よい。気持ちはわかるつもりだ。だが、決して外でそのような事を口にしてはならんぞ?皇子を秘密裏に殺そうとしていると思われる」
その言葉で、いかに自分が危険な発言をしたかわかり私は、慌てて謝罪した。
「申し訳ありません陛下!そのようなつもりは!」
「大丈夫だ。わかっておると言ったであろう?」
「……はい。ありがとうございます」
なんとか場が落ち着いて来たところで部屋の中で護衛していた近衛騎士が扉の外で護っていた騎士に呼ばれ外に出た。
チラッと見えた様子から、扉の外を護っていた騎士以外にも2人ほど他の騎士が来ており慌てた様子でなにか報告してるみたいだった。
「…………なにか起きたか」
皇帝陛下がそう呟いた直後、扉が開き近衛騎士が今起きている事を陛下に告げる。
「陛下!!メレス宮で火災が発生しているとの事です!!」
「っ!!なんだと!」
皇帝陛下と公爵が同時に椅子からガタッ!と立ち上がる。
明らかに異常事態でさらに危機的な状況らしい事は私にも察することが出来た。
続きが読みたい、応援したいと
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