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3、一生分の夢【1】

  月の輝きが一層増していたその晩……夢を見た。

  夢の中では現実と違い時間が引き伸ばされたように長い物語を見せられる……。

  その晩に見た夢は一生分はあった。



 ****


  物心着く頃から一緒に過ごした幼なじみの男の子が居た。

  私は、小学校も中学校も高校もずっと彼と一緒でいつもついて回っていた。

  勉強も買い物も遊びに行くのも全部、彼と一緒。私は人付き合いが下手でいつも独りになるから、いつも彼は手を差し伸べてくれる。


  彼は、私と違って社交的で男友達も沢山いて女の子達とも普通にお話出来る。

  高校生になる頃には、彼の周りには友達が沢山居て、私には彼しか居なかった。


  大学も彼と同じ所へ行き、私はずっとずっと彼と一緒だと思っていた。


  けれど、大学でも彼は人気者で、初めて会う人たちばかりの場でも直ぐに友達が出来て何処に行くにも友達に囲まれるようになった。

  いつも傍に居るのが当たり前だった彼と一緒に居られる時間が無くなった。


  私は……独りになった。


  その時わかった。

  初めはずっと二人一緒だった。でも、私は独りで彼には沢山の人達がいる……どこで道を間違えてしまったのだろう。


  私は……もう、彼と違う所にいるんだ。

  そう思うと悲しくて悲しくて、もう一緒に居られない事に耐えられなくて。


  車道に飛び込み自殺した。


  彼は泣いた。私が死んで、とても悲しんだ。

  私の死は、付きまとう女の子からの解放ではなく……彼にとって、好きな女の子の死だった。


  人付き合いが下手で独りになってしまう私を可愛がって、守りたくて、いつもそばに居た。

  いつもそばにいるのが当たり前な、可愛い存在だった。

  ずっとこれからも一緒に居られるものだと思って居た。


  死んでから流れ込んできた彼の本心は、私の心をさらに悲しく後悔させた。


  もう、こんな思いはしたくない来世ではちゃんと人付き合いもして……今度こそ彼と一緒に歩んで行ける自分に成りたい!


 ****


  私は、目が覚めると胸を締め付ける悲しみと後悔で泣いていた。



「文明的には今よりずっと発展してるようでしたし、平和なとても恵まれた環境のように思いますのに……。終わりは、とても幸福感など感じられない夢でしたわ」



  そして、何故か感じる既視感。


  でも、そんなはずは無い。


  この世界には車も飛行機も電化製品も無い。


  見た事などあるはずの無い世界だった。



「でも……鮮明に思い出せる。もし、夢で見た様々なものを作り活用出来たら……どんなにな画期的でしょうか」



  まるで自身が経験したかのように夢の中の一生の情景や知識は私の記憶に残っていた。

  これを活かせば自身の助けにも家や帝国への貢献にもなるだろうと思う。

  だが同時に、私のような幼女が周りの大人に言ったところで信用されず気持ち悪がられるだけだろうとも想像が着いた。



(いずれは実現したいですが今は時期尚早ですね。初めは必要な時に自分のために活用して行く程度でいいでしょう)



「にしても……どうせならもっと早くあの夢を見たかったです。九九や筆算……他にも色々。知っていたら今までの勉強がどれほど楽だったか……」



(けれど、夢の知識のおかげで今後の勉強はより捗りそうです。勉学に遅れを取らず体力づくりに励めますわ。それに、体力づくりの方法にも目星が付きました)




「フィリセリア様、それはなんですか?」



  リリアが指し示したそれは、私が一日の流れを書き出したもの様だった。

  さらに、朝と午後の項目は細かく書いてある。



「一日の予定表よ。さらに、筋トレメニューを書き加えているわ。これからはノルマを作ってきっちりやっていこうと思っているの」


「キン……トレ?でございますか?なんでしょうそれは?」


「筋肉トレーニング、体力づくりのための運動よ!ひとまず体づくりのために習慣作りからしないとね。あ、あとリリアにお願いがあるわ」


「はい。なんでしょうか?」


「今日から私の食事は肉や豆を多めに、味付けはそんなに濃くなくていいわ。あと、出来れば肉は鶏肉か、牛の赤身ね」


「鶏肉、牛の赤身、豆……ですね。わかりました」



(体づくりをするならただ体を動かすだけじゃダメ、良質なたんぱく質を取らないと体を作れないわ)



「あと、量はなくて良いのだけれど、できるだけ多くの種類の食材を使って料理して欲しいの。魚、肉、卵、葉野菜、根野菜、豆、茸という感じでね」


「多くの食材……魚、肉、卵ーー待ってくださいねメモを取ります!」



(多くの栄養素と言っても分からないだろうしそもそもどの食材にどんなビタミンやその他栄養が入ってるかなんて調べようがない。色々食べておけば多分大丈夫でしょう)



「……サプリメントとかあったら楽なのに」


「サプリ……メントとは?」


「あっ!ううん。今のは独り言なの!なんでもないわ」



(つい思った事を口に出してしまったみたい。令嬢としてあるまじきね……。でも、サプリメントとまで行かなくても栄養食品はいいかもしれない……いずれやりたい課題のひとつにしましょう)



  それからは毎日、朝起きたら体操をして体を解し、朝食を食べたら午前の座学。

  午後はダンスの練習と各筋トレメニュー20回と用意してもらった木刀を10回3セットほど素振りをする事を自分に課して続けた……かった。



「無理……だっ……」


「フィリセリア様っ!」


「はぁーー。3歳半に筋トレは無理……うん。当たり前よね。仕方ない……できるくらい体が成長するまではせいぜい駆け足くらいかぁー」


「フィリセリア様……騎士団がするような訓練はどう考えても無理ですよ〜。まだ、身体も小さいんですし無理せずに成長するだけで良いんです」


「うん。無理できない身体だってことはわかった……」



(でも、夢の中で読んだり見たりしてた創作物の世界のように身体魔法とかそういうのが出来たら?そしたら、この小さな身体でももっと……)


「魔法……か」


「?魔術ですか?でも、まだ扱える歳ではありません。その収魔のブレスレットを付けているんですから魔術を使えるほど魔力を出すことはできませんよ」



(あれ……リリアは魔術と言ってる。魔法と同じなのかしら……それより)


「収魔のブレスレット……?」



  確かに私の左手首にはシルバーのリングが嵌められている。

  入浴の際も寝る時も外さずに身に付けているように言われている物だ。



「一般的に魔術を扱えるようになるとされている10歳までは誰でもそのブレスレットを付けているんです」


「どうして?収魔って事は周りから魔力を集めて貯めてるってこと?」


「惜しいですけど違いますね。周りからではなくブレスレットを付けている人の魔力を集めて貯めているんです」


「これに私の魔力が吸われているから魔法が使えないってこと?!」


「……まぁそうですね。幼いうちは感情の爆発や思わぬ事で魔力が暴走してしまう事もあるので収魔のブレスレットに魔力を吸わせるんです」


「あれ……?でも、お父様とお母様も……リリアだって付けているじゃない!そのブレスレットは違うの?」


「いえいえ、これも収魔のブレスレットですよ。大人は子供より魔力総量が多いですし、収魔のブレスレットが吸っていく分より魔力が回復する方が早いのです。なので、余剰分の魔力を追加で収魔のブレスレットに入れて置くなどして必要な時に取り出して使う。という使い方を……って難しく言いすぎましたね」


「ううん!大丈夫。わかる。……そっか小さいうちはこのブレスレットに全部吸われちゃうくらい魔力が少ないし、魔力の回復も遅いって事なんだ……」


「そうです」



  小さなコップにちょろちょろ貯められていく水がストローにあっという間に空にされちゃうのが子どもの魔力。


  バケツに蛇口からの水をジャーっと入れる水をストローで吸っても空になることはほぼ無い。

  それが大人の魔力、という事だ。



  でも、このままでは魔法の練習ができないという事。

  ひいては身体強化を身に付けられず体づくりが遠のくという事だと私は考えた。



(このブレスレットを外して魔力操作を訓練すれば今より成長できるよね……)

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