19、拘束軟禁
屋敷の人間は誘拐があったことを知りもしないのだから当然だが、なんの変化もなくいつもの生活に戻った。
(けれど本当に濃い一日でした。翡翠、白妃と精霊契約をしてその日のうちに拐われて……拐われた先で希闇と精霊契約をして……)
『怒涛の一日だね!』
『ご無事で何よりでしたわ』
希闇は日中は光が多すぎて身動きを取りづらいので基本的に出てきたくないらしく、翌朝には既に帰ってしまっていた。呼べば影から会いに来るとの事だ。
入れ替わるように白妃が現れて無事に再会したところだ。
(希闇がすぐ帰ってしまったのは残念だわ……。遠距離をパッと移動できるなら外に出て内緒で魔法を使うことも冒険をする事もできそうなのに……)
『それすっごく疲れそ〜』
『難しいでしょうね。貯めた魔力を全て希闇に与えて影移動したとしても行った先で魔法の練習が出来るほど魔力が残っているか……』
(影移動ってそんなに魔力使うの?)
『かなり使うと思うぞー?』
『今のフィリスの魔力回復速度では1日に片道一回でしょうね。行くだけ行って帰ってこられません』
(じゃあ……希闇にはかなり無理させてたのかな?影移動の後に要求された魔力は手間賃だなんて言ってたけれど)
『手間賃は手間賃でしょうけれど、必要分ですね。恐らく、影移動に必要な魔力として元々の吸ってた分では足りなかったのを自分の魔力で補っていたのでしょう』
『無茶したねぇ〜』
希闇は気を使わせないために手間賃だと言ったのだろう。
どうやら夜に吸っていた魔力では、影移動片道分にも全然足りていなかったらしい。
『影移動が気楽に使えるようになる程というと、今より魔力総量も回復速度も遥かに必要ですね』
『頑張れ頑張れ!』
(そうね。私、もっともっと頑張るわ)
自由に魔法を使えるようになるためには魔力総量と回復速度は必須。
誘拐だと知られていたら心配する周囲に部屋へ軟禁でもされたかもしれないがその心配もなく済みそうだ。
今までと変わりない日程で訓練を続けられる上、精霊達が排出魔力を受け取ってくれるので魔力回復速度を上げる訓練も捗るのだ。
先は明るいという事で私のやる気は今まで以上に増していた。
バンッ!
机で教科書に向き合ったままやる気たっぷりになっていると突然、大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
「お前は何者だ……?」
振り向くと今日は皇城勤めであったはずの公爵が、目線だけで射殺せそうな眼差しを私に向けたままそう言った。
「な……お父様……?」
扉の音でビクリと跳ね上がった上、公爵の鋭い眼差しに怯えながら父を呼ぶ。
「成り済ましは要らん。娘が馬車で連れ拐われたことは掴んでいる。馬車で連れ去るほどの距離から娘の足では、こんな短時間で戻れるはずが無い」
恐らく暖色の庭で連れ拐われた時にも影を付けていたのだろう。
屋敷の者達は気付かなくとも公爵は、私が拐われていたことを知っていた。
そして、独自に捜索を始めていたのか影からの連絡なのか。
馬車がどのくらい遠くまで移動しているかも大体知っているのだろう。
その上で、屋敷から娘が屋敷内で迷子になったがすぐに見つかったと朝方に連絡があった。
拐った娘とは別の娘に成り済ました何者かが屋敷に入り込んだと見るのは当然だった。
「間違いなく私です!お父様!」
「黙れ!」
公爵は完全に偽物だと思っているのか、どんなに私が実の娘だと訴えても聞く耳も持たない様子。
そして、私の腕を強引に掴むとそのまま側仕えに突き放した。
「危険物を持っていないか確認を行い、着替えさせろ。その上で拘束具も忘れるな」
「そんな!信じてください父様!」
「調べが付くまでは隔離部屋から絶対に出すな」
「はい……公爵様」
側仕えも突然の事に困惑気味だったが、公爵の言う通りに動いた。
それからどこに行くのかも告げられないままその側仕えにどこかへ連れていかれ、着いた先は窓のない一人部屋だった。
「公爵様がここで軟禁せよとの事だ」
それだけ言うと、彼は首に付けられている鎖の拘束具の先をベッド近くの輪に繋ぎ、部屋を出て行った。
『ひどい酷い!父親のくせに娘の言葉を全然信じないし!』
『痛いところはありません?あったらすぐ治しますわ……あの者、許しません』
(ありがとう……2人とも)
2人は公爵のやり方に強い怒りを示してくれたが、私は全く聞く耳を持ってくれなかった悲しみと先の不安でいっぱいだった。
(お父様の考えもわかるわ……疑われて当然よね)
『でも、言い分を聞いてくれたって良いじゃないか!』
(成り済ました人間だと思っている相手が、精霊隠しにあっただけで何も覚えていないと言っても結局、疑いは晴れないわ)
『言ったところで、やはり成り済ましだと思われるでしょうね』
公爵を納得させるためには闇の精霊魔法の事を説明するのは必至。でも、それ以前の問題で会って話しもしてくれそうにない。
(せめて、連れ去られた先で私が消えた事実が掴めてからでないと話を聞いてもらえないでしょうね)
私がそう思った通り、捜索がある程度進むまでの3日間は全く公爵が拘束部屋へ会いに来ることはなかった。
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