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17、未知の魔法

  希闇との話し合いで脱出の段取りが決まった頃に、閉じ込められていた部屋へ人が入ってきた。



「嬢ちゃん起きーー!?居ねえ!どこ行きやがった!」



  入ってきた体格のいい男は、私が居なくなっている事に気付いて騒ぎ立て始めた。

  袋が閉じたまま私だけ消えた事について疑問に思わないほど頭が回らないのか、ひたすら周囲の箱や麻袋の中を探し回っている。



「ちっくしょう!ぜってぇ見つけ出さねぇと!俺がっ!くそ!」



  そう言捨てると男は荒々しく部屋を出ていって仲間らしきと喚き散らし合いながらドタバタと他を探しに行った。



(随分と柄の悪そうな男でした。他の仲間も言葉遣いが随分と荒い……)



  とても貴族の抱える騎士のようには思えなかった。

  ただの人攫いに遭っただけなのだろうか?


  いや、ただの人攫いが王都にある公爵家の屋敷に忍び込んで攫うなど出来るとは思えない。



『夜になったら呼ぶ』


(えっ?ちょっと!希闇はどこかへ行ってしまうの?)


『ん』



  短い返事だけして、希闇は本当にどこかへ行ってしまった。

  身の安全は一応保証されているようだが、心細さはそのままだ。

  ひとりぼっちの寂しさはあるが、影の中にいる限り身の安全は保障されるという安堵感、それと優しい闇が包むことで溜まっていた気疲れも相まって程なく眠りについた。



 ****


  一眠りして目が覚めると、閉じ込められていた部屋以外も頭上に見えるようになっていた。

  部屋の扉の先の廊下も外も見渡せる。


  だが廊下の扉の先は見えないので、恐らくその部屋には光が灯っているということだろう。



『起きた。行こう』


(もう夜になってたの?起こしてくれたらーー)


『夕暮れ。夜なる』


(夜になるまで寝かせておこうと待っててくれたのね……ありがとう)


『ん』



  意を汲んで礼を言うと希闇は照れてそっぽを向きながら短く返事をした。

  私は、これから影の中の暗闇を希闇の案内でひたすら進む事になるのだろうと心構えていた。



  きっと長い道のりで足もくたくたになるのでしょうけど、屋敷に着くまで頑張らなくては。


  だが、希闇はいっこうに暗闇の中を歩き出そうとしない。



(あの……希闇?行かないのですか?)


『?』


(拐われて乗り物に揺られて移動してたのでかなりの距離があると思いますの。早く移動しないと着くのがどんどん遅くなってしまいますわ)



  影の中は安全だろうが、地上と同じ距離移動するのは容易ではない。

  どんなに疲れ果てても何とか頑張って屋敷にたどり着き皆に無事を知らせたい。

  動き出さない希闇にもどかしさを感じていた。


  そんな私に対して希闇は頭上を見上げ指をさした。



『着いた』



  希闇が何を言っているのか分からないまま、彼の指さした頭上を見上げると、先程までの閉じ込められていた部屋ではなかった。



(!え?)



  影の中から見上げたその景色は、間違いなく屋敷の私の部屋。



(どういう事ですの?私達、1歩も動いてなんて居ませんのに!景色だけ……という事ですか?)


『ううん。着いた』



  希闇は、影の中で景色だけを見せているのかという私の問いを否定した上で再度『着いた』と告げる。

  私はとても信じ難く思いつつも湧いた希望を口にした。



(まさか……影が繋がってさえいれば、距離も関係なく移動可能という事だったのですか……?)


『そう』

 


  なんでもないように希闇は肯定するが、とんでもない事である。


  そもそも人間の扱える魔法は4種だとされ、火水土風のみ、そこにさらに光が神よりの祝福として聖職者にのみ与えられるとされている。

  それら5属性のどれでも長距離移動を短時間で可能にするようなものは無い。

  つまり、人には長距離移動を短時間で済ます魔法が絶対に使えないのだ。


  そして、光と闇の精霊自体が希少なので精霊術師の中でも契約したことがあるものが歴史上居るか居ないか。

  闇の精霊魔法に長距離を短時間で移動可能なものがあるなど誰も知らないことだろう。



(こんな……簡単に?)



  私がそう呟くと、希闇が首を横に振った。



『魔力沢山使った。ちょうだい』



  どうやら長距離移動を短時間でするこの影移動は魔力を大量消費するらしい。

  昨夜吸った魔力は使い尽くしたので追加の魔力が欲しいと要求された。

  手のひら程の濃くした魔力を差し出したが、まだ不足という事で何度も作っては希闇に譲渡する。



『ん。もういい』


(結構、魔力が足りていなかったようですね……無理させたようでごめんなさい)



  あまりに魔力を要求されたので、昨夜の分で足らず希闇の魔力が枯渇しきるほど使わせてしまっていたのかと思い謝罪する。



『ん。手間賃』


(……手間賃)



  いったいどのくらいまでが必要量で、どのくらいが手間賃分だったのか不明だが、希闇がなんともなさそうなので良しとした。



(何はともあれ、ありがとうございました。おかげで無事に家に着きましたわ)


『闇あれば呼べる。呼べばいい』



  希闇にお礼を言うと私を影から部屋に出して、そう言い捨てどこかへ消えて行った。



(帰ってこれたのは良いのですが……。拐われた子供が自力で部屋に戻ってる状態をどう説明したらいいのでしょう……)


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(´∀`*)

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