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56、協力願い

  ワディス国王との謁見の後、藤の間でゆっくり国妃マヤ様と過ごせるよう取り計らってもらった。

  藤の間に入る所作も表情もいかにも大人しい日本女性といった風貌だったマヤ様だったのだが、レンの呟きひとつで完全にその印象を崩した。



「はぁあ〜……もう。旦那様の前だったし旦那様のお客人の前だから頑張ってたのに〜。あんたのせいで猫被る気力が失せちゃったじゃない!」


「猫被る気が失せた……なんて、普通そういう事を言いませんよ姉上」



  マヤ様のあまりの豹変振りに驚き固まる私を見て、彼女はこちらが素なのだとレンが言った。



「あの筋肉馬鹿家族に育てられて、お淑やかな娘に育つ筈ないわ。女の子でも関係なく幼少期から剣術訓練、魔力操作訓練、冒険者登録もしてランク上げ!そんな環境で野生児にならないわけないじゃない」


「まぁ……そうかもしれませんが、姉上はそれらを嬉々としてやってーー」


「黙れ愚弟。確かにじゃじゃ馬娘だの姉弟の中で1番腕がたつだの色々言われてたけど、今はワディス国の国妃よ。せっかくお淑やかな妃を演じてたのに水差しやがって」



  どうやらマヤ様はかなり冒険者寄りの性格のようだ。

  マヤ様が言うには、冒険者として旅をしていた先でワディス国に立ち寄り、そこで偶然見かけた国王に一目惚れ。

  国王もマヤ様の剣技に関心を寄せ、次第に仲が深まり今に至るとの事だ。



「本当に強者の風格が滲み出ていてーー」


「はい、そこまで。まぁ、あの手紙の割にお元気そうでなによりですよ姉上」


「手紙を見てから来たにしては本当に早かったわね。飛竜ってそんなに早く移動できるんだ……欲しいな〜」


「姉上は昔から早いとか強いとかお好きですよね……」


「ワディス国に飛竜は居ないんですか?」


「居ないわ。主な移動手段は馬、あと人力車。ここ島国だし、飛べる移動手段があったらかなり楽なのになぁ〜」


「他国への移動手段は船だけという事ですね。……確かに不便」


(ん〜、ワディス国への協力……こういうのでもいいのかな?何か考えておくか……)



 ****


  レンと一緒にお茶菓子と緑茶をいただいていると、使いの人から国王が呼んでいると声がかかった。


  案内されたのは私1人で、レンはそのまま残ってマヤ様と過ごし待つことになった。


  通されたのは先程の謁見室ではなく応接間。

  そこには先程いた臣下の人達は居らず、王の身を守るために配備されている武士達のみ。


  王は手に防音魔術陣の付いた玉を持っているのを無言で見せてから話を始めた。



「早速だが、フィルに協力してほしいことがあり、呼び出させてもらった」


「……協力。内戦の事についてですか?」


「うむ」


「内戦の協力はしないと約束した筈ですが?」


「直接、相手を討つために戦場に出て欲しいわけではない。……突然の太陽神の降臨により『争い合うことを大神はお望みでない』と皆が認知したところだったのだが」


「だが?」


「彼奴が『あれが大神な筈が無い。大神は我の勝利をお望みの筈だ!』と騒ぎ立て、すぐにでも戦争を再開しようとしておるのだ」



  国王と争う王弟が戦場全域を癒した光の主はアマテラス大御神などでは無く、国王が差し向けた策のひとつだと吹聴しているらしい。

  実際、光の主の正体は異国の冒険者に過ぎないし、その冒険者は今国王側に付いていると言えるので、王弟の推測は正しい。



「彼奴とは王弟殿下の事ですよね。その物言いだと……王弟殿下が随分と戦争したがっているように思えます」


「元より彼奴はそういう奴だ。今回の内線の発端も彼奴が『我が国の武力をもって他国に侵攻していくべきだ!いつまで島国になど閉じこもっている!武の国であるというのに兄者は臆病者だ!』と、故に王に相応しくないと言った事からであった」


「血気盛んなお方なのですね」


「この内戦も……我としては望まぬもの。戦場の民達を癒してくれた事、本当に心より感謝しているぞ」


(……そういう事ならこの王様に味方するのも良いかもね)



  この国の武力がどれ程のものなのかは知らない。

  だが、この国島国は他の国との同盟関係も無いので大大陸の国に戦争を仕掛ければ、下手をすると数国同時に相手することになる。

  ティルス・シャルディルチア帝国はマヤ様が嫁いだ事で一応、友好国だけれど他国に侵略をというにはあまりに条件が悪いように思う。



(……他国をちゃんと見ていないのは王弟殿下の方だよね?)



  国王様は自国の治安管理と他国との貿易を塩梅よくやっているのだと、先程マヤ様からの話にも聞いた。

  モリス商会の品にもワディス国産の物があったし、ガルマ公爵家や皇城の宴席でもワディス国の品を見た。


 

(島国故に他国との同盟関係になりにくい面はあるけれど、貿易での繋がりはあるし争うこと無く友好的な関係を築く事に成功している。良い王様だと思うんだけどな)


「それで……どのように協力せよと?」


「簡素に言えばアマテラス大御神の振りをして『私は国が荒れるのを望まない。内戦などという無益な争いは辞めなさい』と大衆に向けて宣言して欲しいのだ」


「神様の振り……宗教面で問題になりません?」


「現人神ともなれば神社の神官たちが囲いたがるだろうが、神とあらば常世に留まってもらうために交渉などということも出来まい。完全に民衆を黙せるほどの迫真の演技を頼む」

 

「神を騙る事自体が問題だと思いますが……バチが当たったりしないでしょうか?」


「帝国民であると言うのに随分と我が国の神に信心深いのだな?」


「いえ……まぁ」



  魔法や精霊のある世界だ。


  神が人に対し直接、または間接的に影響を及ぼす事がないとは言いきれないと私は思っている。



「我が国の国王は王であると同時に神と繋がる人柱、神より直接言葉を賜る巫である。我から大御神に騙る事の許しを乞い、祈りを捧ぐので安心するが良い」

 

(ワディス国の国王は王と大神官を兼任しているということなのか。ん〜……許しを乞うだけで大丈夫か心配だけれど。まぁ、名を騙って悪用するってわけじゃないから許してくれるかな……でもーー)


「……わかりました。でも、御本神を騙るのはやはり恐れ多いのでアマテラス大御神の代理という事に出来ませんか?」


「大御神の代理者か……ふむ。では、アマテラス大御神の代理として降臨した新たなる女神という事だな」


「め、女神……」


「先程も言うたであろう?現人神となれば神官たちが囲いたがると。あくまで一時的に降臨しただけの女神としての振る舞うのだ。……して、戦場に現れたその新たなる女神の名はどうする?」


(歌でみんなを癒したから……『フィリセリア』の『フィリ』と『歌』で……)


「……フィリカ」


「よし。では、戦場で皆を救ったのはアマテラス大御神の代理神、聖歌の女神フィリカであった事にする」


 ****


  その後、民衆から見えていた神の姿は光り過ぎてよく見えなかった事。

  白龍に乗る青髪の人型も戦場が混乱していたことによって、戦場の民達はめにしていないことを再確認。

  この国の神は白い衣を着ている描写の絵が多い事などから、国王により即席のそれっぽい白い衣を渡され、準備が進んだ。



(公爵令嬢フィリセリアはミラージュヘアの影響で服の色に髪色が変わるけれど、カツラならその影響が出ない。新たなカツラで誤魔化せば個人特定しずらくなって丁度いいかも)


「レン、どう?」


「似合ってるよフィル。ただ…。まぁ、遠目なら大丈夫かな?」


「なんだよ。言ってよ。この姿を印象付けなきゃならないんだから、ここで抜かるわけにいかないだろ?」


「その……女神様ですよね?短髪だと……」


「あ〜……そこは大丈夫。新しいカツラは作り直すつもりだから。すぐに長髪に変えてくるよ!どうせなら人らしくなくうんと長い髪でね」



  カツラを作り直せばいいので、その点はすぐ改善可能だ。

  幸い、シャルトウルフの毛皮以外にも様々な魔物の素材が闇収納に沢山あるので、紺以外に金、黒、赤、白、様々に色揃えがあるし、どうにでも出来る。



(理事長のカツラの件から、また必要になるかもと思って集めててよかった!)



「あとさ……」


「まだ何かあるの?」


「……女神様は大人だと思うんだ。けど、フィルの身長は……」


「……成長……不足。だね。」



  ワディス王国民より帝国民の方が全体的に成長が早いが、自国でも小さめな7歳の私の身長はまだ130cmと無い。


  これで大人の女神様だと言い張るのは、無理があるかもしれない。



「でも、ほら遠目には大きいか小さいか分からないと思うし、その点はそんなに気にしなくても大丈夫かなって思うよ。神様は私達と違って大人でも子供の姿かもしれないし」


「……威厳は半減しそうだよね」


(今欲しいのは神の威厳なのに、それが損なわれるのは痛いなぁ。大人に成長……急には出来ないし、見た目で誤魔化し通す?見た目で……?)



  見た目を誤魔化す手段として私が思い出したのは、光学迷彩やヴァシュロンの光精霊ルチアの実体化。

  あの実体化は、ルチアが光を使ってわざと民衆に見えるようにするものなのだが、実は実際より少し美増しに見せていた。



(白妃、ルチアと同じ様に見えない物を見えるかの如く見せる事、出来る?)


『頑張れば出来ると思いますが、私は光の幻影を得意とするルチアと違って回復魔法を得意とする光精霊なので、どこまで出来るか……』


(試しに私の姿を映し出してみてくれる?)



  私がそう言うと白妃は光の粒を無数に作り出し、それに色を加えて私の姿を表現して見せた。

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