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55、ワディス国王への謁見

  城内に入ってからしばらく歩いてようやく目的の部屋まで来たようだ。

  私達は、一際豪華な屏風絵の襖の前まで案内された。



「……問題ないかと思いますが、部屋に入ってすぐに止まって座って頭を下げてください。その後、王からお声がかかってから前へお進みになり、部屋の半分ほどのところで再びお座りになって頭を下げてください」


「わかりました」



  問題ないと思われているのは、ここまでの行動からワディス国の文化にかなり詳しいと思われているからだろう。


  玄関先で先に靴を脱ぎ綺麗に揃え直した後も歩く時はすり足、敷居を跨ぐ時は必ず右足と細かなところで無言ながらも案内役人は驚いていた。


  私達は言われた通りに部屋に入って直ぐに座り頭を下げる。


  その時点で部屋の中にいた複数人が驚きざわめいたのを肌で感じた。



(……?帝国人が来たから……とか?いや、案内人を差し向けて城に招待してきたのに知らないはずないのに……)



  何がそんなにざわめく理由になるのかと疑問に思いながらちらりと右隣に居るレンを見ると、レンは立膝で頭を下げる帝国式の礼をしていた。



(あ、なるほど。ワディス国なのに帝国式の礼をするものだから非常識と思われてしまったとかそういうざわめきーー)


「ティルス・シャルディルチア帝国から来た冒険者と聞いていたのだが、まるで自国の民のような立ち居振る舞い。随分と我が国の文化に精通しているようだ」


(さっきも似たようなこと言われて……。ん?周りが驚いているのってもしかしてレンじゃなくて私の態度が原因?)



  礼儀正しく行動し過ぎるのは間違っていたか?と疑問に思っていると、王から「もう少し近う寄れ」との指示があったので、聞いていた通り部屋の半分まで進む。


  そして、入口でしていた正座でのお辞儀60度ではなく、今度はさらに深いお辞儀90度でしっかり頭を下げ切って王の言葉を待つ。



「本当に見事よのう。むしろ、若い臣下よりも余程素晴らしい立ち居振る舞いと言える。まるで、元よりこの国の上層の者であるかのようだ。……面を上げてくれ」



  そう言って王は玉座を降り、こちらへ歩み寄って来た。



「国王陛下!?」



  臣下の者が制止の声をかけたが、それを王は手を翳して黙らせた。

  そして、さらに歩み寄り私達の前で正座をする。



「戦場に最高神アマテラス大御神が御降臨なされたらしい。そして、我の影から聞くにその神は光り輝く前、白き飛竜に乗った青髪の少年であったと聞く」


(あ……完全にバレてらっしゃる)


「我が国の神とあらばこの国の文化に精通するも納得。……現人神よ。名はなんとお呼びすればよろしいか?」


「フィル……です。けれど、あの現人神ではございませんし、ましてアマテラス様ではーー」


「そうか。だが、フィルが戦争の戦士達を癒し争いを治め、その場にいたもの達が君を神と崇めた事に変わりない。そうだな?」


「あの……えと」


「フィル。嘘偽りは効かないと思った方がいいです。この国の諜報部は凄く優秀。変化が起きる前から見ていたというなら、多分国に入った時点でずっと付けられていたか、戦場に近づいた時点で監視されて居たのでしょう」


「その通りだ。だが安心せよ。その事を知っているのは我と我の影のみだ」



  そう言って王は手に握りこんでいた防音魔術陣の施された玉をこちらに見せる。



(ここでの会話もあっちに居る家臣たちには聞こえていないということか)



「アマテラス大御神では無いと公言したところで、新たな神として祭り上げられるだけであろう。あれだけ目だったのだから誤魔化しようはない」


「……まぁ、この国にまた来る事はそうそうないかと思いますのでーー」


「一時の神の気まぐれな降臨に過ぎないから問題ないと?一時であってもあれだけの騒ぎ、今後の歴史にも残る大事に他ならない。騒ぎがこのまま収まるとは思えんな」



  国を守護する女神の降臨。

  そして、その力を降るって民を救ったとなれば確かに大事だ。

  特に神官などが黙っているとは思えない。



「フィルの慈悲により、多くの民が生かされた事、心より感謝している。故に我はそなたの御心を優先するつもりでいる。安心するがいい」


「慈悲なんて……また争うかもしれないとわかっているのに、ここでの用が済んだら帝国へ帰るなんて言う僕に慈悲なんてありません」



  きっと、また争いが起きて死人が出るとわかっていながらこの国の問題を収める協力などせず、帝国へ帰るのだ。

 


「きっと、あの場での事はただの自己満足でしか無い……」


「それで救われた者がいるのだ。この国の事に他国民であるフィルが気負う必要など無い。感謝以外何も無い」



  そう言われると少しだけ心が軽くなった気がする。

  改めて王の顔を見ると優しそうな面持ちだった。



「ただ、フィルの存在はとても大きく周囲にも影響を与えるほどだ。フィルを利用しようという者も国も多い事だろう。気を付けたまえよ」


「はい……」


(もしも、そうなってしまったら逃げ出そう。冒険者としてやって行けるならそれで良し、色んな事を身に付けておけば自力で生きる事ももう出来るはず)


「利用されそうになったら逃げればいいとでも思っているか?逃げる宛ては?身内を人質にされたら?今回の事で慈悲の心に訴えれば良いと考え、村や街の1つ2つ犠牲にしてでも釣ろうという国もあるやもしれんぞ?」


「そ……んな」


「それほどの価値がフィルにはあるのだ。その身はそれ程の影響力をすでに持っているのだよ」



  自分一人のために多くの人の命が人質にされる可能性、身内にかかる危険。

  そこまで考えないまま、広範囲の治癒の力を使った事で目立ってしまった事。


  まるで自分にだけ重力がましたように身体が重くなり、息苦しくなってきた。



「フィルが良ければ我が国で君を丁重にもてなすがね。もちろん、フィルの身内も含めて。だが、それは君の求める所ではないだろう?」


「そう……ですね」


「フィルがあの戦場のアマテラス様である事を知るのは我と影のみだ。もしも漏れることがあれば、それに影の者を付け不本意な行動をするようであれば即刻死刑とする故、安心せよ」


「そこまでして何を……」


「こちらが求めるは、君が我が国に協力的であってくれる事。どうしてもという時は手を貸してほしい。もちろん、無理強いはしない」


「ワディス国が困った時に手助けすれば良いと?」


「そうだ。この縁、切らずに結びたいのでな。我が国は君と友好でありたいと願う。それが君の存在を隠す交換条件だ」


(存在を隠す……)



  今の姿は冒険者フィルの紺短髪姿。

  この姿から公爵令嬢フィリセリアだとバレる事はないと思うけれど、飛竜を飼っているという点で特定される可能性はある。


  戦場での事が城に伝わる速さ、門での情報が城の役人に伝わった速さからしてこの国は情報収集力が高い。

  先程『影の者』と言っていたことからもこの国には昔の日本のように忍者がいるのかもしれない。

  下手すると既に私の身分がバレている可能性も……。



「……本当に困った時だけです。内戦だとか侵略戦争だとかそういうのに手は貸しません。……僕もこの国を大事にしたいと思っているので、友好でありたいとは思います」


「それでいい。……会って早々このような話ばかりで悪いな」



  王は側近に付き添われながら玉座に戻り、ここでようやくレンに話が振られた。



「して、この国に来た理由はマヤか?」


「はい。久方ぶりに姉上に会いたいと思いまして」


「ふむ……。では、別室にて茶の用意でもさせよう。客人達を藤の間へ。済まないが、我は所用がある為、ご一緒出来ないがゆっくりしていくといい」


「ありがとうございます」


「感謝します」



 ****


  私達は案内人に連れられて藤の間と呼ばれる部屋へと通された。

  掛け軸には藤の絵、障子の外に広がる庭園にも藤の花が綺麗に咲き誇っている美しい部屋だった。



「どうか足をお崩しになって」


「ありがとうございます。でも、大丈夫です」



  マヤ様に足を崩していいと言われてつい横座りをしそうになったが、それでは女っぽいかと思い正座のままにした。



「大人しい姉上というのはどうも違和感が拭えませんね……」


「大人しくしてて悪い?」


「いえ……悪くなど……」


「はぁあ〜……もう。旦那様の前だったし旦那様のお客人の前だから頑張ってたのに〜。あんたのせいで猫被る気力が失せちゃったじゃない!」

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