51、飛竜と採集依頼2
朝早くに帝都を出たとはいえ、移動に半日かかっているので今は既に昼頃。
私達は冒険者ギルドレストルーチェ支部に着いてすぐに、ギルド内の食堂へと入った。
「初めて利用するなぁ……」
「あ〜そういやフィルがここ使ってんの見てねーな?俺は晩飯ここで食べたりもしてたぜ?なかなか美味いんだこの食堂」
「僕もギルドの食堂を利用するのは初めてです。昼だからか空いていますね」
「だろーな。この時間はみんな狩だろ」
この食堂を使い慣れていると言うカルに注文は任せて、出てきたのは大量の骨付き肉や5人分か?と思う量の角うさぎの骨付きもも肉。
そして、12本のバゲットと鍋ごとの具沢山豆スープ。
「……カル、普段こんなに食べてるの?」
「んー?はんにんふんだへ?(3人分だぜ?)」
料理が出てくるなり既に食い付いてモグモグしているカルは、聞き取りにくい言葉でそう言った。
「元々、1人分辺りの量がとても多いという事でしょう。僕の家でもこんな感じですよ」
「冒険者(と騎士)基準の量ってことか……。了解。じゃ、いただきます」
「おーう」
「律儀ですね」
食前の挨拶が特に無いこの国で『いただきます』を言う習慣は当然無いので、カルの分から貰うというい意味に取られたようだ。
ギルドに入る魔物肉は当然どれも新鮮なので、肉の状態は良い、そこに上手い具合に下味を付けたり香辛料を効かせるものだからその美味しさは必然だった。
新鮮さ故の肉汁感と甘みを感じ、飽きさせない香辛料の香りを楽しんでいると思ったより多く食べることが出来た。
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私達は食堂での昼食を堪能してから、1階にある依頼版を見に行った。
他の冒険者達が朝早くから依頼選びをして取っていくので、当然件数は激減している。
「んー、残ってんのはBランク依頼2件とCランクだけどログダ山か、あの山地味にこっから遠いからな」
「飛竜なら問題ないね!」
「Cランクなら僕らでも受けられますし、それしかありませんね」
「でも、薬草取ってくるだけか〜」
「全く魔物に遭遇せずとはいきませんよ」
「それもそうだな!決まりだ」
私達が受けたのはログダ山にある山薬草グリザを取ってくるというもの。
最低本数3本、追加本数に合わせて報酬が上がるというものだ。
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飛竜達は翡翠を通して簡単に呼び戻すことが出来、私達は5分とかけずにログダ山へと到着した。
「他の冒険者達がとても日帰りで行ける距離じゃないのを理由に受けないってのに、マジすげーな飛竜」
「でしょ。カル、良ければ名前で呼んであげてよ。その子の名前はピレ。ちなみにレンの乗ってきた方の子はレニだよ」
「そっか、ありがとなピレ!」
「グアッ!『おうよ!』」
「ありがとうレニ。とても助かります」
「クルル〜『はわわ、照れるったら〜』」
グリザ草はログダ山のどこにでも生える可能性があるらしいので私達3人は徒歩で探し回り、飛竜達には上空からそれらしい物を探してもらう。
1本はログダ山の嶺に生えていたのをカルが、偶然見つけた。
もう1本はグレが崖に生えているのを見つけて摘んできてくれたが、3本目はなかなか見つからなかった。
「こりゃ、割に合わねぇ依頼だな。そりゃ誰も受けねーよ」
「なかなか見つかりませんね」
「なぁ、フィル。いつも魔物をパッパと見つけるみたいにどこに生えてんのか分かんねーのか?」
「薬草は無理かなぁ〜。出来たら楽なんだけど」
索敵魔法は魔力を広げて感知をするものなので、魔力を強く帯びていない薬草や無機物を見つける事には使えないのだ。
(さすがに前世で見た創作物のように、周辺のもの全てがわかる鑑定みたいなものは、この世界に無いから)
「……せめて大勢で捜索出来れば見つけやすいでしょうけれどね」
「大勢でか……」
飛竜6頭で探してもそれほど成果が上がるとは思えない。
(はぁ……空間把握みたいな事が出来たら物も判別可能なのかな?空間……空、風。ねぇ、翡翠)
『んー?』
(空気中に触れているものを把握……は出来ない?)
『出来るんじゃない?試した事ないけど』
(空気に触れているものを把握できるなら、触れているものの動きまで正確に分かるようになる……)
『でも、無風状態じゃないと正確にわかんないよ』
(不可能って事じゃないか……)
『無風状態じゃないといけないなら、無風にすればいいんじゃないの?』
(あっ……そっか!翡翠は風の精霊だから風を止めることだって出来るんだ!)
翡翠が言うにはずっと無風状態にするのは無茶だが、一時的に無風にしてその隙に把握する事は出来るだろうとの事。
(一瞬風が止むって事ね。ん〜……察しの良い魔物は何かされているって察するだろうね)
『だろうね〜。まぁ、地形を把握したりどこに何があるか知るくらいは出来るんじゃない?』
(そうだね)
魔力探知では、木々や岩など邪魔なものを透過して魔物の位置を把握できるので便利だが魔力の無いものは探知の範疇から外れる。
なので、周辺のもの全てがわかる無風探知はとても助かるのだが1つ問題がある。
それが魔物の位置がわかっても魔物に勘付かれる可能性が高いということだった。
(魔物の動きを把握するのには今まで通りの魔力探知を使って、地形把握や薬草探しには無風探知を使う事にしよう)
「何考え込んでんだフィル」
「思いついたよカル。薬草探す方法!」
「マジかよ」
「さすがですね……」
「やってみるから、ちょっと待ってね」
私が翡翠に魔力を追加で譲渡すると、風がぴたりと止んだ。
「ん?風が止んだな」
「多分……フィルが何かしたのでしょう」
長いように感じられたが、無風空間になったのはたったの5秒。
それでも、強なり弱なり吹き続けていた風が5秒も止まれば違和感を感じた。
無風空間はどんどん広がり、その範囲は5kmほどに及んだ。
(形を掴むには十分みたい。ちゃんと周辺の地形や生息している植物、生き物が把握できた。けど、形だけで伝わるから無機物だか生き物だか分かりにくいのが難点……かな)
『そこは熱が分かれば生き物かどうか分かるんじゃない?』
(熱探知と合わせてか、いいね!そうしよう)
無風探知を今度は、熱探知と合わせて使ってみる。
すると、先程の正確にものの場所を把握出来る状態に加えて、生き物も判別可能になった。
(……あ。2つ同時に組み合わせできるなら更に魔力探知も含めれば完璧なんじゃ……)
「フィル、薬草の場所はわかったのか?」
「ふぇっ。あぁ、うん!えっと、……目印あったらいいかな?」
私はカルの問いかけで探知魔法の改良をとりあえず後回しにした。
目印としてグリザ草と思われる草のあるところに、土魔法による石棒を生やす。
「あそこだな!よっし、取ってくる!」
「こんな広範囲を……。あ、私も取りに行ってきます」
グリザ草3本という依頼に対して、最終的に採集できたグリザ草は126本になった。
採集の間に魔物が襲ってきた事も何度かあったが、地上はレンとカル、空から襲って来る魔物や崖上から来る魔物は私が倒した。
飛んで来た魔物などは、崖の下の方へ落下してしまい、回収出来ないかと思ったが、それらは飛竜達がしっかり拾ってきてくれたので助かった。
こんな大量の獲物を得て帰っては、ギルドで目立つ事は目に見えるのだが、私達はとにかく目の前の魔物を狩りつつ依頼の採集をする事しか考えていなかった。




