47、飛竜の飼育許可をもらいに
公爵邸に飛竜6頭を連れてきたので飼う許可を欲しいと伝えた後、2人はしばらく固まっていた。
そして、再起動してからの2人の動きは素早かった。
「私は陛下にこの事を伝えに行ってくる!フィリス、お前はここで待っていなさい」
「は、はい……」
「フィリセリア様!その飛竜6頭は今、公爵邸に居るのですか!?裏庭ですか?訓練場ですか?あっ!魔法訓練場の方に?」
「い、いえ。私の影に入っているので……今、私と共にいるようなものです」
「何だと!?」
「何ですと!?」
「影に居るので……大丈夫かと思いますわ」
(希闇、大丈夫よね?)
『飛竜達は影から見える地上世界も楽しいと喜んでいるぞ?』
飛竜達は影の中から見える外の世界だけでも新鮮なようで、心配していたほど退屈はしていないようだ。
「皇城に飛竜を6頭……す、すぐに陛下に伝えてくる!」
父様は陛下の元へと急ぎ向かい。
シュバラは、公爵邸の厩舎を急ぎ整えねばとこちらも急いで戻ってしまった。
「……初めて来た皇城の執務室にひとりぼっちですわ」
私は先程気になった絨毯の魔術陣を観察してみた。
(……風の魔術陣が元かしら?えっと……宰相の執務室で使う風の魔術陣で執務室内限定。……あっ、これ見たことあるじゃない。密談する時に使うテーブルの魔術陣と同じものよ)
「防音魔術の魔術陣が絨毯に仕込まれているのだわ」
絨毯の魔術陣に納得が行くと、次は本棚に目を向けた。
本棚に入っているのは、ほとんど本ではなく資料のようだ。
(農作物の収穫高、他国との入輸出、国営事業の事業報告……帝国のあらゆる資料がここに揃ってそうね)
ガチャッ
私が本棚の項目に目を向けている間に、父様が執務室へと戻ってきた。
「フィリス。陛下にご面会だ」
「陛下に……?」
****
陛下に面会と言われて連れていかれたのは玉座でも客間でもなく、騎士達の訓練場だった。
陛下も確かに来ているが、離れたところで護衛騎士に護られている。
それに、この場にいるのは私達だけでなく、たくさんの騎士達が配備されていた。
「お父様……?」
「ここで、影に居るという飛竜6頭を出すんだ」
(……まさか、危険だからここで排除するというのかしら?もしかして……なかなか手に入らない毛皮が手に入るとかそういう目的があって?)
飛竜達に危険なことがあるのではと思い私が出し渋って居ると、陛下から声がかかった。
「フィリセリア嬢、他国べリゼでは飛竜を竜騎兵の乗り物として使用すると聞し、温厚な性格であるとも伝え聞く」
(竜騎兵を使う国はべリゼ国と言うのね。ちゃんと飛竜達が温厚な性格であるとも知っていると……)
「だが、飛竜のいた事の無いこの国では真偽のほどはわからぬ故、このような配備をした。すぐに攻撃するような真似はせぬ故、1頭ずつ見せてはもらえぬか?」
「……私は、飛竜達の長にこの飛竜達が危険にさらされることの無いよう全力で守ると誓いました。なので、もしもこの子達に敵意を向けられるような事があれば、私はそれを全力で阻止します!先にそれをご了承ください!」
「承知した!」
私が陛下に対して意見した事に隣に立つ父様は驚いていたが、ここは譲るわけに行かなかった。
陛下にも飛竜達に攻撃されたら反撃する事を了承してもらえたので、私はグレから順に飛竜立ちを出すことにした。
(人間に囲まれてて怖いかもしれないけど、何かあれば私が絶対守るからグレ、出てきて)
『怖くないよ。護衛長より強いご主人様が居るんだもん!』
バッサ
「「おお……」」
「なんと、美しいな」
グレが影から出ると陛下も騎士達もその美しさに感嘆した。
太陽の光を浴びて輝く飛竜達の白い毛や翼はどことなく神々しいのだ。
陛下達に本当に攻撃意思は無いことを確認して、私は残りの飛竜達も影から出した。
「フィリセリア嬢、この飛竜達が人間に対し危害を加える気が無いこと、従魔契約が確かに行われていることは確認したが……。この飛竜達をどうするのだ?」
「馬より早く移動できるので移動手段に良いかと思いまして……」
「6頭も?」
「それは成行きで増えまして……」
「まぁ、軍事利用目的にしては少ないな?……ふむ。フィリセリア嬢個人が使用するのみであるな?」
「はい。そのつもりですわ」
「ならばーー」
「まぁっ!本当に居たわ!」
陛下が飼育許可をくれそうなところで、訓練場へ私兵を連れた皇后が来た。
「アマランティア……?」
「さあっ!あれを狩って!上質な毛皮になるわ!」
陛下の様子から皇后がこの場に来たのが予想外だったことは分かる。
皇后は騎士訓練場へと足を踏み入れ飛竜達を確認するや否や私兵に飛竜攻撃を命令した。
皇后の私兵は事前に用意していたらしい魔術を撃ったり、弓を撃ってくる。
(何考えてるのっ!?こっちには私や父様だって居るのに!)
私は飛竜達みんなも守るように保護障壁を張って魔術を防ぎ、矢は風の幕を強めに張って全て落とした。
「やめんかアマランティアっ!!攻撃はせぬと約束を交わしておるのだぞ!」
「あら?そうなのですか?……なら、飼い慣らしましょう!それでもいいわ!そう、ダビッドの元へ送ってあげましょうっ!あの子の足になればきっと助かるでしょうから」
何を勝手な事を言っているのか?
出会い頭に攻撃を仕掛け殺そうとしておいて、飼い慣らせると本気で思っているのか?
なぜ、飛竜達があの女の便利な道具としてダビッドの足として使われるのか?
皇后の身勝手な発言の数々に私は感情を荒立てずに居られなかった。
「勝手な事ばかり……っ!」
私が魔力を込めて殺気を飛ばしただけで皇后の私兵として来ていた魔術士は皆、気絶してその場に倒れた。
「……陛下、先程の約束お忘れではありませんよね?」
「あ、ああ。だが、あの約束をアマランティアは知らず……、もう攻撃する意思は……」
「既に攻撃はされましたっ!」
私は感情のまま遠隔魔法で雷を浴びせ、皇后の残りの私兵全てを無力化する。
「な、なな……っ」
皇后は自身の連れてきた私兵がバタバタ倒れていく様を見て怯え続けるばかりだ。
「……もう、ここにはこの子達を連れて来ません。行こうグレ」
『うんっ!』
私はそう言ってグレに飛び乗り、飛竜達と共にその場を去った。




