45、冒険者活動の移動手段3
私が『いいけど魔力って魔物にも食べられるものなの?』と聞く暇もなく、話しかけてきていた飛竜は私の手のひらにあった魔力を食べてしまった。
そして、私の魔力を食べた途端、飛竜の身体が光った。
『あっ、なんか力が増してる気がする……?』
(!?もしかしてこの心話はーー)
『目の前の飛竜の心話だね〜』
『すごーい。あれ食べると強くなれそう!……もっとくれる?』
「えええ!?」
『いやいや飛竜さんや、力が増したのは従魔契約の効果だよ。もう1回食べても同じようにはならないさ』
(え?従魔契約……あれで出来たの?ああいったやり方なの?)
『普通は違うよねぇ〜ケラケラ』
翡翠が言うには、通常の従魔契約ではある程度心を許した魔物相手に契約魔術を使い、その魔術に魔物が従えば従魔になるも言うものらしい。
『まぁ、術者に好意を持つか術者の力を認めれば魔物が従うって感じだね〜。でも昔は、血の交換をして契約をしたり魔力を与えて契約したりもしてたらしいよ〜』
「血の交換!?」
『そーそー。指先とかピッて切ってその傷口合わせるっていうやつ』
(それ……血液型によっては大丈夫なの?そもそも魔物とでしょう?他の種族の血と混ざるような事して……)
『ケツエキガタって何〜?皆やってたし複数人と契約してた人も居たみたいだから平気だよ〜?特に人同士の契約はこれだったし』
(もしかしたらこの世界に血液型の概念が無いの?そもそも人間の血液型が単一の可能性も……前世ではゴリラの血液型はBしかないって聞いた事あるし……)
それなら、もしもの時の治療手段として手当たり次第に周囲の人が輸血を手伝う事が出来ることになる。
(もしそうなら……いや、まだ憶測でしか……)
『おおーいフィリー?なんか、飛竜達がフィリーに用があるみたいだよー?』
(え?)
従魔契約をした飛竜は、私が翡翠との話に夢中になっている間にほかの飛竜達と何やら話をしていた。
何故かその契約した飛竜がほかの飛竜達5頭を連れて私の元へといつの間にかに戻ってきていたのだ。
(……増えてるわ)
『ねぇねぇご主人様。ほかのやつらも従魔契約して欲しいんだって〜』
「だって〜じゃないわ。知らずに従魔契約をしてしまったけれど、私は乗竜して遠方へ移動したりするために移動手段として飼うために従魔契約をしに来たのよ」
『いろんな所へ行きたいの?どこ行きたい?』
「今じゃないのだけれど。だから……従魔契約をして私の移動手段として協力してくれるということはここでの暮らしは出来なくなるという事なのよ!」
それを聞いて飛竜は少し驚いた様子だった。
「……本当は従魔契約の前に説明するつもりだったのだけれど、思わず急な契約になってしまったあなたには申し訳なかったわ」
『ここじゃない所へ棲処を変える?』
「従魔契約をするという事は、そういう事なの……」
騙すように契約を結んでしまったと私は落ち込んだが、飛竜の反応は思ったものと違っていた。
「本当!?ここじゃないところに棲めるの?いろんな所へ行けるの!?」
『え、ええ。そうなる……』
私が肯定すると、周囲に居た飛竜達までもが興奮しだした。
そして……。
私の飛竜達が魔力翼を食べた。
「えええええっ!なにするのよーーー!?ああああーーーーーっ」
『手のひらに無いから代わりにだって〜ケラケラ』
「翼がないと飛べないのにぃーーーっ」
魔力翼を失った私の体は当然落下していく。
だが、その自由落下は長く続かずに済んだ。
モフンッ
「ふふぁっ!」
『大丈夫?ご主人様〜?』
落下していく私を先程従魔契約をした飛竜が下方へ飛んで行き、受け止めてくれたのだ。
(モ、モフモフに助けられたわ……あっ、フサフサ……)
飛竜のモフモフのおかげで、先程の自由落下の恐怖心はすぐにとけた。
『みんな従魔契約がしたかったんだってさ』
「なぜ?故郷を離れる事になってしまうのに」
『故郷っても〜ここ何も無いし。怖いのが沢山いるから地上に行くなって言われてきたけど、ずっと行ってみたかったからさ?』
飛竜の棲家では棲み山以外は危険なのでどこにも行ってはいけないと教えられ、外の世界を知らずに生きるらしい。
それ故に、外の世界に憧れる若い飛竜も多いのだとか。
『外の世界に棲めるなら、みんな喜んで行くよ!長老達はみんな臆病で外に行きたがらないけど、先輩達だって竜騎兵について行った。僕だって外の世界を見たい!』
「そう……なら良かったわ。……名前が無いと不便になるわね。初めに契約してくれたあなたは……グレ」
『僕グレ!名前ありがとご主人様!』
私の魔力翼を勝手に食べた5頭は、それぞれレート、トピ、ピレ、レニ、ニーズ。
6頭の名前を合わせれば『グレートピレニーズ』だ。
6頭の飛竜達はそのまま私について行くつもりのようだったが、私は飛竜の棲家にいる仲間にちゃんと挨拶してくるように言った。
「何も言わずに立ち去ったら、私が皆を無理やり連れて行ったと思われてしまうし。きっと、飛竜の仲間達も心配するわ」
『ほかの飛竜達も遠くから見てたし大丈夫だと思うけど』
『先輩達だって挨拶なんてなしに連れて行かれたぜ?それを見た他の誰かが長老達に報告に行って『ああ、また若いのが竜騎になることを選んだか』っていつも通りの反応になるんだ』
「それでもよ。ちゃんと別れの挨拶はしてきてほしいの」
『はーい。わかったよ』
私は再び魔力翼を作り、グレから降りた。
しばらくしてから従魔契約した6頭、まとめてグレートピレニーズは私の元へと戻って来た。
だが、私の元へ来たのはグレートピレニーズだけではなかった。
グレートピレニーズ達よりも2倍は大きい飛竜が2頭、私の元へと来た。
「グアーア、グァー。グァー、グァグァ、ガァー」
「……ごめんなさい。野生の飛竜さんのお言葉は私には分かりませんわ」
『えっとね〜。『此度はこの若者達を竜騎にすると聞いた。真か?よくある事だ。構わんが、このもの達が危険に遭わないよう守ると約束して欲しい』だって……や、やさしい』
「もちろんです!従魔契約する事になったからには彼等は私の大切な仲間です。危険にさらすことのないよう、全力を尽くしますわ」
その後からは全てグレが通訳してくれた。
長老と護衛長から『いくら全力で守ると言ってもお前のような非力そうな小娘にどう守れるというのか?信用ならない』という事だった。
『外の世界はこやつらが思うより遥かに危険だ。昔は我らも地上で生活する事もあった。だが、人間はその欲望で我らを狩ろうとし、他の魔物からは恰好の食い物にされる。とても危険だ』
「欲望で狩ろうと……?それは竜騎にするために捕まえに来るという事ですか?」
『違う。……虫唾が走る事に我らの毛皮が目当てであった。奴ら人間は我らの仲間を大量に狩り、毛艶が落ちぬようにとまだ息のあるまま毛を剥いだ』
「っ!!!」
『何度も何度もだ……その度我らは逃げ惑い。最終的にここへと行き着いた。竜騎にしたいとここへ訪れる人間達はまだ良い。仲間に加えたいと言うだけあって危害は加えんからな。だから、我らも黙認している』
そこまで話すと長老は眼力を強めて私を睨んだ。
『小娘。お前は残忍な人間達の巣へこやつらを連れていき、本当に守りきれるのか?力が無ければ他者を守ることなどできん。示せ、おのが力を!』
長老がそう言うと傍に控えていた護衛長飛竜が戦闘態勢となって私に向き合った。




