44、冒険者活動の移動手段2
私は魔法訓練場で色々と魔法を試したが、まだ飛行魔法は試したことがなかった。
今まで試してきたのは、魔力制御のための同時魔法使用や魔力の更なる圧縮の為の修練、各属性魔法の多様性探りや他属性との組み合わせなどだった。
(……前世の創作物でほうきで空を飛ぶみたいなものもあったし、魔法で飛ぶというのもやれば意外とできるのかもしれないわ)
私はまず、自分の周りに風を渦巻かせて体を浮かせてみた。
「うあっとと……」
(ゔ……体勢が安定しな……あい……)
渦巻く風で体を浮かせるのは台風の日に突風で煽られて、身体がフワッと浮くのに近い。
風に煽られまくるだけでなかなか自分の思うように行かないどころか、体勢を安定させる事すら出来ない。
前世の創作物のイメージで風でフワッと、といった想像では上手くいかなかったようだ。
次は、重力に逆らって浮くイメージをする。
「あっ……浮いた」
(けど、移動する想像がつきにくいかもしれないわね……。うーーむ)
今度は、すんなりと浮き上がることは出来たが横へ移動するイメージが付きにくかった。
『何をモタモタしてんだ?身体強化みたいなもんだろ飛行魔法なんて。身体強化が使えて、なんで飛行魔法が出来ねーんだよ?』
「そうなの?」
(……身体強化の感覚に近いのかぁ。でも、私には翼が無いし……どこに意識を持っていったらいいのやら?)
『無くたっていいだろ。どーせ、俺らだって翼ついててもろくに羽ばたかせるような事ないしな』
(でも、想像がしにくいのよ……)
『なら、フィリーが作っちゃえばいいじゃん。魔力で自分の翼を自分の思うようにさ?』
翡翠の案を聞いて、その発想はしていなかったなと私は目を丸くした。
だが、確かに『飛ぶ時には魔力の翼で飛ぶ』という方が私には想像しやすい。
私は早速、身体強化で全身に魔力を行き渡らせる感覚のまま、自分の肩の付け根あたりから翼が生えているイメージで自分の魔力を更に伸ばしてみた。
『わぁ〜綺麗な翼じゃないフィリー!素敵!』
『ほぉ〜。銀の翼か……多分お前の魔力の色がそんな色をしているからなんだろうな』
私は2人に褒められ、自分でも見たいと思い体を捻るも、さすがに自身の翼の全貌は分からなかった。
それでも翼の一部、羽先の方を見るだけでも確かに美しいと思えた。
(飛べるかな?)
『飛んでみよーよ!』
『よし!飛竜が居んのはこっちだ!着いてこい!』
(えっ!ちょっと待ってガミルダ!飛べるかどうか試してもいないのに!)
さっさと飛んでしまうガミルダを見て、私は慌てて翼の魔力を更に足して空に飛んだ。
(飛べた!行けそうだわ!)
翼が付いているという状況で飛べる気になった事もあってか、思っていたよりもスムーズに空を飛ぶことが出来、私はホッとした。
『上手に飛べてるよフィリー!えへへ!フィリーと飛べるのすっごく嬉し〜』
(私も翡翠と空を飛べるのとても嬉しいわ!)
****
魔力翼で岩山に沿って途中まで上がってくると、どんどん空気が薄くなってきた。
だが、そこは翡翠が補ってくれて酸素不足で苦しむような事にはならずに済んだ。
(上の方は寒いね……)
『あっ、今風調変えてあげるね!寒くなくなるよ〜』
(あっ、暖かい。ありがとう翡翠。ねぇ、ガミルダ飛竜って本当にこんな寒い所に棲息しているの?)
『ああ、そうだぜ?まぁ、劣等種が不遇な地に追いやられるのはよくある話だろ?でも、あいつらは長いとここんなとこ居るからな、とっくに慣れてんじゃねーか?』
岩山に冠る雲の辺りに差しかかると、翡翠が空気の膜を強めてくれた。
雲の中は嵐のようにかなり荒れていたが、それを抜けるとそこは全くの別世界だった。
輝く太陽の光を反射して輝いて見える雲海。
その雲海の上を飛び交う白い飛竜達……。
(飛竜って……え?竜なのあれは?)
岩山の冠雲より上に棲む飛竜達は、白いフサフサの毛に覆われており、竜らしい角などは無く頭の横に翼、そして背の辺りにも立派な白い翼があった。
見た目はとても温厚そうで、まるで翼の生えたグレートピレニーズ……。
(前世でもあのふっさふさの白い大きな犬、好きな犬種だったのよね)
『飛竜は寒いところに棲んでいるからフサフサなんだよ〜?他の生き物だってそうでしょー?』
(ガミルダは立派な鱗だったから……てっきり飛竜も鱗のある竜姿なのだと思っていたわ)
『飛竜は他の龍種のように魔法を得意としないからな。この寒さの中で毛の無い身体では耐えられねーんだろ。ま、案内はしたしなあとは頑張れ』
(え!?従魔契約の仕方とかを教えて欲しいのだけれど?)
『俺がいつまでもいたら飛竜達が警戒すんだろ?ま、適当にやりゃ〜なんとかなるって!んじゃな!』
(あっ!ガミルダっ!)
『しっかり俺の子分増やしといてくれよ〜』
従魔契約はガミルダに一方的にされたので、私が自らやった経験は無い。
飛竜の従魔契約はガミルダにやり方を教えてもいながら行えばいいと思っていたが、確かにガミルダが居ては飛竜が逃げてしまうという状況でそれは不可能だ。
(……やり方を事前に教えといてもらうべきでしたわ)
『フィリーなら大丈夫だよ!問題ないって』
(そう……かしら。まぁ、やってみるしかないわね)
自分を信じるしかない。
翡翠も居るのだから、きっと大丈夫だと気持ちを切り替える。
私は目を閉じて一度深呼吸した。
(きっと出来る。きっと出来るわ…………。?)
バサッバサッバサ
バッサバッサバッサ
「うあっ!?」
羽音が近くなって来る音を聞いて目を開けで見ると、思ったより近くまで飛竜達が来ていた。
私に近づいてきたのは、比較的近い所にいた4頭だ。
私が思わず叫んでしまったので、飛竜達はビクリッとして少し私から距離をとった。
「あっ……ごめん。思っていたよりも近づいて来るのが早かったから驚いてしまって……。まさか、飛竜達から近付いてきてくれるとも思っていなかったからなおさら……」
私があたふたと謝るとそれをちゃんと理解したらしく、飛竜達は更に私の元へと近付いてきた。
(ふふぁ!!ち……近くで見るとフサフサ感が……。凄い……触りたい。でも、怖がらせたくないし従魔契約が成功するまで我慢っ!)
『フィリーの欲望がダダ漏れだね』
私は今すぐフサフサな飛竜に触りたいのを我慢しながら、ひとまず翡翠達と契約した時のように自分の魔力を差し出してみた。
バササッ!
飛竜達は私が手のひらに魔力を溜めたのを攻撃かと思ったようで一斉に飛び去り、離れたところから私の事を警戒する。
(あう……やり方を間違えたようだわ)
「はぁ……」
初手で既に嫌われてしまったかもしれないと私が落ち込んだ。
(従魔契約なんてどうしたら……意思疎通?は元々見込めない事の方が多いものなのでしょう?)
『そだよ〜』
しばらく私が悩んでいると、どうやら攻撃意思は無いらしいと判断した飛竜から、再び私の元へ近付いてきた。
「……なぜ、そんなに私の元へ来てくれるの?」
「グアーア」
『ん〜、風の精霊と一緒に居るから気になるって』
(って……て、翡翠は飛竜の言葉がわかるの!?)
『まぁ、空の友達だし?』
「グルア?」
『その差し出してるのは食べていいの?って言ってるね〜』
「え!?いや、良いけどでもーー」
パクッ
悩み続けながらも作ったからには何とか使えないかとそのまま手のひらで維持していた魔力塊は『魔力って魔物にも食べられるものなの?』と聞く前に飛竜に食べられてしまった。
『いいけど魔力って魔物にも食べられるものなの?』と聞く暇もなく、話しかけてきていた飛竜は私の手のひらにあった魔力を食べてしまった。
そして、私の魔力を食べた途端、飛竜の身体が光った。
『あっ、なんか力が増してる気がする……?』
(!?もしかしてこの心話はーー)
『目の前の飛竜の心話だね〜』
『すごーい。あれ食べると強くなれそう!……もっとくれる?』
「えええ!?」
『いやいや飛竜さんや、力が増したのは従魔契約の効果だよ。もう1回食べても同じようにはならないさ』
(え?従魔契約……あれで出来たの?ああいったやり方なの?)
『普通は違うよねぇ〜ケラケラ』
翡翠が言うには、通常の従魔契約ではある程度心を許した魔物相手に契約魔術を使い、その魔術に魔物が従えば従魔になるも言うものらしい。
『まぁ、術者に好意を持つか術者の力を認めれば魔物が従うって感じだね〜。でも昔は、血の交換をして契約をしたり魔力を与えて契約したりもしてたらしいよ〜』
「血の交換!?」
『そーそー。指先とかピッて切ってその傷口合わせるっていうやつ』
(それ……血液型によっては大丈夫なの?そもそも魔物とでしょう?他の種族の血と混ざるような事して……)
『ケツエキガタって何〜?皆やってたし複数人と契約してた人も居たみたいだから平気だよ〜?特に人同士の契約はこれだったし』
(もしかしたらこの世界に血液型の概念が無いの?そもそも人間の血液型が単一の可能性も……前世ではゴリラの血液型はBしかないって聞いた事あるし……)
それなら、もしもの時の治療手段として手当たり次第に周囲の人が輸血を手伝う事が出来ることになる。
(もしそうなら……)
『おおーいフィリー?』




