40、冒険者パーティを組む
私がカルに謝罪し終えるのを見計らうようにレンが私達の元に来た。
『見計らったの?』と目線をレンに向けると『良いタイミングたったでしょう?』と言わんばかりの笑みを返される。
そんな私たちの様子など気づかずにカルは現れたばかりのレンに話しかけ始めた。
「なあ、お前冒険者ランクはどのくらいなんだ?あっ!その前に名前だよな!俺はカルディナール、冒険者ランクはDだ」
カルが貴族であるレンに対してタメ口を聞いたので内心慌てたが、冒険者として既に活躍していたレンにとっては何の事も無いようで、普通に返答した。
「自己紹介ありがとう。僕はレン、冒険者ランクは君と同じくDランクだ」
「レンか!よろしくな!俺の事は『カル』って呼んでくれていいぜ」
「ありがとうカル君」
2人が仲良くなれそうなのを見て、昨日の事を思い出し私はカルに提案した。
「なあカル、しばらく帝都に居るなら3人でパーティ組まないか?昨日、レンとも相談してたんだ」
「んー。その前に、カル君は帝都に来るまでずっとソロだったの?帝都に来るまで組んでた人とかは?」
「あっ……」
カルが現在ソロなのかパーティを他の人と組んでいるのかを確認していなかった事を私は失念していた。
もし、既に決まったパーティメンバーが居て旅をしているなら、この誘いはカルを困らせるものになってしまう……。
「へーきへーき!確かに来るまで組んでたけど護衛任務の臨時パーティだったからな。直ぐに話つけて抜けてくるよ!おっ、ちょうど来たな」
帝都まで同行した他の冒険者がギルドに入ってきたところのようでカルは直ぐに話をつけに駆けて行った。
そして、あっさり話を終えて私達の元へ駆け寄ってくる。
「おっし、いいぞ。抜ける手続きはあっちでしてくれるってさ」
「なんかごめんカル。急な話したせいで」
「大丈夫だって!元々、帝都着くまでの片道依頼だったんだ。その後も宛がないなら一緒にやるか?って持ちかけられてただけで抜けても全然問題ねーよ」
(カルには感謝ばっかだなぁ……)
その後、パーティ登録を受付で済ませ私達は無事パーティメンバーとなった。
「んで、俺がCランク、レンがCランク。フィルは今何ランクなんだ?」
「Cランクだよ」
「なんだよ、上がってねぇじゃん。フィルならとっくにAランクにでもなってると思ってたのによう」
「さすがにAは無いよ。Bに上がらないかって打診はあったんだけど、Bランクに上がるためには護衛依頼やパーティ経験が無いといけないだろ?僕は……ちょっと日帰りの範囲でないと活動出来ない事情があって……」
「事情?あー、いい良い。そういうのを無理に聞き出すのはルール違反だからな。でも、そうか……だからフィルはCランクなんだな」
「申し訳ないけど僕もだよカル君。僕も日帰りの範囲でしか活動できないんだ。パーティになってからこんな事を言って申し訳ないんだが……」
「気にすんなって!日帰りでしか活動出来ねぇとしてもフィルと組んださ。ついでにレンともな!でも、そうなると依頼が限られるな……」
帝都周辺の魔物は国の騎士達が警戒していることもあり魔物が狩り尽くされ寄り付かない。
朝一番の馬車で魔物の居る森まで行き依頼をこなして馬車で帰るとなると迎える候補は僅かだ。
(瞬間移動で目的地までの距離を減らすとか、馬車より早く移動できるもので現地に向かうとか……ガミルダ?は、まずいよわね)
私がなんとか瞬間移動の魔法を開発するか?などと頭を悩ませていると、いつも影に潜み見守ってくれている希闇が提案してきた。
『ガミルダ以外の足を見つければいいのでは無いか?ドラゴンはさすがに目立ち過ぎるが、他の乗り物ならばそう厳しい目で見られる心配は無かろう』
(なるほど!従魔契約を自分でした事は無いけど、やり方はガミルダに教わればいいものね!)
『移動手段は空の方が早いし危険が少ない。移動手段にする魔物については翡翠に聞くのが良かろう』
そういえば以前、翡翠が知り合いのペガサスでも紹介しようかなどと言っていた気がする。
(そうね。翡翠にいい候補が無いか聞いてみるわ。その前に従魔契約が出来るようにしないとだけれど)
希闇との念話での話し合いでそのまで決まると私は2人に話しかけた。
「移動手段については馬車よりも早いものが手に入らないか僕が探してみるよ」
「馬車より……?そんな宛あるのかよ?」
「直ぐには用意できないかもしれないけどね」
「パーティで使う物なら皆で資金を出し合いましょう。おおよその金額は分かりますか?」
「だな!まー、あんま俺は貯えないけど……まぁ、手伝うぜ!」
2人とも馬車より早い馬を買うとでも思っている様子だ。
仮にペガサスを従魔契約するなら『馬車より早い馬』という事になる気もするが……。
「金銭的な問題は無いよ。大丈夫。まあ、待っててよ。ね?」
「んー。わかった」
「お願いしますフィル君」
結局私達は、日帰り出来るDランク依頼を受注して、現地行きの馬車に乗り込んだ。
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馬車は人の足で踏み固められただけの土の上を走る。
馬車が幾度も行き来するので土の道には車輪の跡がくっきりと付き、時々その溝から外れてガッタンガッタンと揺れる。
「……乗り心地は最悪だね」
「そうか?馬車なんでこんなもんだろっ……と、今のは石にでもつまづいたかな?まぁ、こんなもんだろ。もっとひでぇ悪路だと今みたいな揺れがずっと続くぜ?」
「……最近の乗り心地のいい帝都の馬車に慣れると辛いですね……うぷ」
「あーあー、大丈夫かレン?俯いてるより外見る方が少しは楽だぞ?」
私は車酔いを起こしているレンに回復魔法をさり気なくかけつつ、カルのおすすめする外の景色を見た。
ずっと続く新緑の道は日差しを浴びてキラキラと木漏れ日を落とし込んで輝いている。
よく見れば、空を飛ぶ小鳥や草に埋もれる花々も時々見て取れた。
「綺麗だね」
「……そう、だね。帝都に居るとこの景色から遠ざかるからね。久しぶりに見るととても綺麗に見えるんだよね」
「おっ、復活してきたかレン」
「あ……うん。大丈夫そうだ。ありがとうカル君」
私は平民、貴族でありながら仲良く過ごす2人をちらりと見て微笑み。
再び外の景色に目を向けた。




