39、久々のガミルダとカルへの謝罪
食堂から自室へと戻る廊下も窓から見える庭の景色も屋敷の使用人達によっていつも通り整えられており学院入りする以前となんら変わりない。
そんな細かな所でも『家に帰って来た』という実感が得られる。
(なんか良いわね。落ち着けるから幸せが感じられるというか……。平和あってこその幸せよね)
庭に咲きほこる花の甘い香りに小鳥達の機嫌良さげなさえずり、何もかもがなんだか嬉しくなって自然と笑みが浮かぶ。
自室に戻ると部屋ではドランゴンのガミルダが私の事を待っていてくれた。
『家族団欒は楽しめたか?大人しく待っててやったぞ!空気を読むってやつだ!』
「ふふっ。ありがとうガミルダ。家ではどう過ごしていたの?」
自信満々に『俺は人間らしさを身につけたぞ!』と誇るガミルダの態度につい笑を零してから、近況を聞くと想像以上の答えが返ってきた。
『ん?ほとんど家には居らんぞ?冒険者活動をしてるからな』
「え?……え?でも、ガミルダは人化してる間、言葉が……」
『フハハッ!いつの話をしておる。人間の言葉なんぞ一週間と経たずに覚えたわ!ドラゴンの知能の高さを舐めるでない』
ドラゴンは人間達が忘れ去った古代魔法を扱う程に知能が高いと言われている。
伝承によれば古代魔法は現代の魔術師が扱う魔法陣より遥かに複雑でその上、多量の魔力を必要とし、儀式魔法形式のものが多かったらしい。
それらを扱うほどの知性があるドラゴンにしてみれば扱える言語を増やすことなど容易い……のかもしれない、と私は納得した。
「私のいない間に冒険者活動を……」
『フハハッ!羨ましかろう!我は自由だからな!』
「……他の冒険者と依頼を受けたり遠征したりも?」
『ん?しないぞ。脆弱な人間の世話をしながら依頼をこなすより一人でやった方がよほど早く終わるからな。遠征にも特に行ってないな。一番遠くて我の速度で半日程の所だ』
「ガミルダの走る速度で半日もあったら隣の国までは行っていそうですわね……」
『違う違う。我はわざわざ陸など行かんぞ?当然飛んで行く速さでだ』
「飛行して……?ドラゴンの姿で国の上空を飛んで行ったと!?それも半日飛び続けてだなんて一体何処までーー」
『待て待て、安心するがいい。城の上空を飛んで騒ぎを起こした時と同じ事などしていない!魔法を使って姿を消した上で飛行したのだ。久々の長めの飛行で気持ちよかったぞ?』
姿を消して飛べるならなぜ城上空を飛ぶ時はそうしてくれなかったのか、ガミルダの飛行速度で半日も飛べば国を3つ4つ跨ぐだろうにそれを遠征とは呼ばないのか……言いたい事全てガミルダへの呆れでどうでもよく思ってしまった。
「あなたが人間の感覚では到底計れない規格外であることを今しみじみ感じておりますわ……」
『そのような事当然ではないか。それより聞け!我も今、そなたと同じCランクなのだ!ギルドの小娘にはBランクの試験を受けよと言われているのだぞ?』
「さすがですわね。おめでとうございます」
ガミルダが『どうだ羨ましかろう?』と自信満々な様子で言ったのをさらりと流したので彼は不満そうな顔になった。
(私も冒険者活動したかったけれど学院があったから出来なかったのですもの。そんな嫌味みたいな報告にまともに応えてあげる心の余裕などありませんわ)
カル、レンの2人と冒険者活動をする際のパーティに元々ガミルダを入れる想定はしていなかった。
だが、ガミルダの報告で自分達のパーティにガミルダを入れることはしないぞと更に思いを強くすることになった。
(ソロ活動で充分お楽しみなようですし、言語の問題もなくなったようですしね)
「いい息抜きになると思いますし、ガミルダはガミルダで楽しんでください。あっ。Aランク以上になると他の冒険者を統率する必要が出たり、ギルドからの頼まれ事も増えたりしますからランクは上げてもBまでで留めておいた方がいいですわよ?」
『む……むー。ランクを最上まで上げるのも楽しいやもと思っていたところに……残念だ。まー、雑魚の世話やギルドに厄介事を押し付けられるなど御免だ。やめておこう』
****
翌日朝、私は早速冒険者ギルド帝都支部へと赴いた。
リリアには朝訓練を早朝から行うと言って朝食を受け取っておき、魔法訓練場に1日篭もる予定だと伝えてここに来ている。
「……ふー。はぁ〜。ちゃんと謝れるかな……」
自身の過ちを謝罪する事など経験が少ないので緊張が増して来た。
私は一呼吸置いてからギルドの入口を開けて中を覗く。
(……受付にも依頼版の前にも居ない。……2階の食堂にも居ないみたい。まだ来てないんだ)
会わなくてはならないのに、目当ての人物が居ないことを確認してほっとした。
私は居ないなら気を張らずにいい依頼でもないか先に目を通しておこうと、依頼版へと向かう。
「うーん……まぁ、討伐系の依頼かな。遭遇さえすればサクッと終わらせられるし。……索敵の性能がもっと高くなったらさらに楽だと思うけれど……」
「おっ、フィル来てたんーー」
「おわぁっ!?」
依頼版を見て回っているうちにいつの間にかにギルドへ来ていたカルに後ろから話しかけられて心臓が飛び跳ねた。
「カっ……カル。その……」
心臓がバクバクと高い音を立てる中早く昨日の事を謝罪しないとと慌て、なかなか言葉が続かない。
「わりーわりー!そんな驚かすつもりは無かったんだけどっ!っくく。おま『おわぁっ』って……ぷくく」
「そ……そんな笑うなよ。ふつーに驚いたんだから」
人の驚いた反応で笑いまくるカルを見てるうちに恥ずかしさとちょっとしたムカつきで、さっきまであった焦燥感のようなものは簡単に消え去った。
(カルって対人関係天才的なのかもしれないわね)
つられるように私も笑みを零すと、一呼吸置いて昨日の事をカルに謝罪した。
「カル、昨日は突然走って逃げるような事してごめん」
「あー、いいっていいって!何か急ぎの用だったんだろ?あの一緒にいた奴パーティメンバーか?なんか強そうな奴だったよな?」
「あっ、えと……まだ、パーティメンバーにはなってないんだけど、知り合いで……。確かに強いよ。剣術の才がとてもある人なんだ」
「フィルに強いと思われてるとは光栄だね」
「おっ、昨日の奴じゃん」




