15、日常
翡翠、白妃と精霊契約を結んだ後、朝食を取り着替えを済ませて、午前の運動のため訓練場へと移動した。
ここ最近は、勉学の進みが早過ぎたためか数日に一度は勉学無しの日もあるのだ。
周囲からは、日頃頑張りすぎているので休息日にするようにと言われているが時間が勿体ないのでこうして訓練に当てている。
(本当に際限なく魔力を食べていくのね……吸引力の変わらないただひとつのーーって夢の中の掃除道具よねそれ)
『その掃除道具はよくわかんないけど馬鹿にしてる〜?』
(いやいや、すごいなぁと賞賛してるのよ)
2人と精霊契約をしてから昨日と同じように魔力を圧縮放出しているが、出す傍から2人が取り合うように吸っていくのでとても快適に訓練ができている。
(本当に助かるわ。無駄になるのも勿体ないと思っていたし。まして、魔物が押し寄せるような状態を解消してくれるのだもの)
『でも、もらうだけもらってるからなぁ〜。なんかして欲しいことないのか?』
『本来は魔力をいただいた分だけ代わって魔法を行使して応えるものなのです。もらうばかりでは精霊王に契約違反だと怒られてしまいますわ』
(精霊王……)
精霊を目にすることが出来るのは、精霊と契約した者か精霊視できる特殊な目を持った者に限られる。
そのため、見えないものが大半なのでほとんどの人にとって精霊とは幻に近い存在だ。
その王ともなれば本の中だけでのみ知られてる様な、次元の違う存在だ。
そんな存在に咎められる程の契約ならば叶えなければとは思うが、何をしてもらえばいいか思いつかない。
(そもそも2人は何が出来るの?)
『あたいは風の精霊だから音を伝えたり、風魔法を使うのが得意だな』
『私は光の精霊です。光を灯したり、回復魔法ができますわ』
(翡翠は風。白妃は光なのね……。ん〜回復魔法は運動で疲れたら使えるかしら?ちなみに身体強化とかは……?)
『疲れを癒すことは可能ですわ』
『身体強化は自分でやるもんだろ?あたいらには無理だな』
(そうですか……では、白妃は運動で疲れた時に回復魔法をお願い。翡翠は今のところお願いできることはなさそうね……)
『じゃあ、出かける〜!必要な時は名前呼んで!どこに居ても聞こえるから』
そう言うなり、翡翠は飛び出して行った。
『元々、翡翠はじっとしている性分ではありませんからね。でも、風の通るところならどこにでも来るでしょうし心配いりませんわ』
(風の通る所ならって事は行けない所もあるの?)
『精霊によりますわね。翡翠は風のあるところ。私は光のあるところですわ。風の通らないない所に翡翠は行けませんし。私も光のない所には行けませんわ』
(そうなのね……)
5歳のお披露目以降にならないと屋敷の敷地から出ることも無い。
空気のない場所や真っ暗闇など全く縁が無いので一応気にとめとくくらいで良いだろうと聞き流しておいた。
その後も身体を動かしては白妃が疲れを取ってくれるのでとても今日の訓練は捗った。
(翡翠は戻って来ないわね……)
『風の精霊はだいたいそうですわ。きっと、色んな所を飛び回っているのでしょう』
昼になっても翡翠は帰ってこないままであったが、声に出して呼べばすぐに来るだろうから心配ないと白妃が言うので気にせず昼食に向かった。
いつも通り、昼食は1人だが今日は白妃も居るので少し明るい気持ちになれた。
(そうだ……産後のお母様やファディールに付きっきりの乳母もきっと疲れているわ。白妃、2人も癒してもらえないかしら?)
『それがあなたの願いなら喜んで。ちょっと行ってきますわ。呼び出す時は何かしら灯りのそばで声をかけたねくださいな』
そう言うと白妃は飛んで行った。
昼食を食べ終えると、午前は外で運動と魔力操作の訓練をしたので、午後は少し息抜きもしようとリリアに一声だけかけて暖色の庭へ来た。
まだ春真っ盛りの庭は花が咲き乱れて変わらず美しい姿を見せている。
(やっぱり綺麗ね……。ん〜良い香りだわ)
私が屈んで紅い花に近づくとミラージュヘアがその色を移す。
しばらく花を堪能して、さあそろそろ部屋に戻って次は勉学の復習と予習でもと踵を返したら……視界が暗転した。