35、友前逃亡後
私は、カルに『今までは同じパーティーで活動していたけど、もう他の人とパーティ組んでいるからごめんね』と私が言ったという勘違いをさせているかもしれない事に頭を抱えていた。
「う〜……」
「……まぁ、私もいつもの雰囲気と違う事を察して黙って去っていればこんな事にはーー」
「いえ!レンのせいじゃないですよ。うー……でも、どうしよう」
「ふむ……先約があって急いでいたので再会の挨拶をする暇もなかった、とするには明らかに逃げて巻いてましたしね?」
「うぐっ……ですよね……」
楽しみにしていたカルとの帝都での再会が、こんな気まずいものになってしまった事にひたすら後悔する。
「はぁ〜……」
「……フィリ……フィル君は、明日からご実家に戻るんでしたよね?」
「うん」
「なら、今回の事はひとまず頭から離してご実家でゆっくりなさってください。彼も今は混乱と不満でいっぱいでしょうけど時間が経てば冷静になると思いますし、フィル君も少し落ち着いた方がいいです」
「でも……」
「それに、ずっと学院に籠っていて帰って来なかった娘が久しぶりに帰ってきてくれたのに暗い顔をしていたら、ご家族が心配なさいますよ?」
「そ、そうね……」
「クスッ。女口調に戻ってます」
カルに勘違いをさせているだろう事は、後からフォローするしかない。
ひとまず、男装があっさりバレてしまったのが信用の置けそうなレンで良かったと思っておこうと思う。
(バレない男装はまた何か対策を考えなくては安心出来ませんわね……。男装……変装……変装といえばカツラ?そういえば、学院長に作ってあげたカツラも今の髪色に近いかもしれません……)
だが、冒険者活動をするとなると走り回ったり大振りな動きも多いため、カツラをすぐに落としてしまう心配がある。
(付与魔法が可能になればその辺も補えるかもしれませんわね……)
私が真面目に男装用カツラを作ることを考えているとレンが言った。
「男装の事でしたら、そこまで深く考えなくていいと思いますよ。フィリセリア様のミラージュヘアの事を知っているのは貴族達ですし、一般の冒険者達はそもそもフィリセリア様の事を知りませんから」
「そっか……」
「まぁ、私のように貴族でも冒険者になる者は居ますけどね?下級貴族の出の者や中級貴族でも三男以下の物などは冒険者を目指す者も居るようですし。騎士を輩出する家だと冒険者になる事を推奨している家もあるとか」
「それではやはり安心出来ません!」
「ん〜……でも、彼らは公爵令嬢が冒険者活動をして居て、ましてCランクの資格を持ち魔物を狩っているなど思いもしないかと」
「うっ……そうですね」
「クスッ。日頃から剣術訓練に付き合ってもらっていた私にはむしろ納得ですけどね?意外性があるので他の貴族にすぐバレる事は無いかと思います」
「あ〜……でも、学院の剣術授業で目立っては気付く者も……」
「出てくるでしょうね」
学院で剣術の授業を受ける限り冒険者活動の際に『フィル』が『フィリセリア』だと気付かれる可能性が上がる。
だからといって冒険者活動を学生のうちずっと活動休止というのも面白くない。
「学院の剣術授業を受けるのを辞めるしか……。そうなると、レンと一緒に授業受けることも剣術訓練する事も出来なくなりますね……」
「私としては一緒に歯応えのない剣術授業を受けたり、訓練でただ剣を打ち合うよりも一緒に冒険者活動が出来たら嬉しいです。剣の打ち合いは冒険者活動の合間にも出来るでしょうし問題はありませんね」
「なるほど」
なら、レンは問題ない。
でも……。
(私が剣術の授業を受けるのを辞めたらヴァシュロンは……。いえ、ヴァシュロンの傍に私しか居ないわけでは無いわ。レン様だってヴァシュロンと一緒に剣術訓練してくれているのだもの。むしろ、男二人で剣術訓練して友情が深まる事もあるかもしれないわ)
「……僕が剣術授業を受けるのを辞めて、剣術訓練を闘技場出しなくなってもレンはヴァシュロン様と剣術訓練を続けてくれる?」
「?もちろんそのつもりだよ?」
「そう……なら良かった」
レンとの会話で学院の剣術授業は来期に辞める事にして、合間に冒険者活動をしようと決めた。
剣術授業を手加減しながら受けて、逆に公爵令嬢フィリセリアは剣術の才が無いと思わせる手もなくは無かったのだろうが、既に好成績を残してしまっているのでそれも難しい。
貴族令嬢としての教養に剣術は要らないので修学を諦めたとした方が、周囲への理解も得やすいだろう。
学院の剣術授業が自身の実力に合わない事も事実なので、無理に低レベルな剣術授業を受けるよりも、その時間を冒険者活動に当てた方が能力向上に役立つと考えた。
(ずば抜けた力を見せつけて気持ちいいっていうのを人によっては味わえるかも知れないけれど、実力差あり過ぎて単なる弱いものいじめになるわ……。なら、外に出て魔物でも相手してましょう)
レンは『フィル』と『フィリセリア』が同一人物である事を口外しない事を約束してくれた。
そして、冒険者活動をする際には是非、自分と冒険者活動をして欲しいとレンの方から申し出てくれたので願ったり叶ったりだ。
レンと別れた後は、リリアにお土産のお菓子を買って帰り、共にお茶をした。
(明日は、家に帰るのね。……うん、久々の帰省だものレン様の言っていた通り、暗い顔をしていたら父様たちに悪いわ。家に帰ることを素直に喜びましょう)




