34、友との再会
帝都でカルディナールと再会出来たらいいなと思ってはいた。
レン令息がEランク以上の冒険者であると聞いていずれ一緒に冒険者活動が出来たら楽しそうだと思っても居た。
だが……。
(カルはまだいいわ!地方で一緒に活動した仲間との再会だもの。でも、レン様、今『フィリセリア』って言おうとしてましたわよね?女とバレてますのよね!?私がフィリセリアであるとーー)
「なんだフィル!帝都に居るなら言伝くらいギルドの方に預けてくれてたってーー」
「ごめんカルっ!」
「へ?」
「うぇ!?ちょっわ!?まっ!」
混乱しまくっている私は、フレンドリーに苦情を言うカルを振り切って真っ直ぐレン令息の元へ走り寄り、その手首を掴むと冒険者ギルドを飛び出した。
レン令息は何が何だか分からないまま私に手を引かれ、私が身体強化した上で走るものだからそれに合わせて身体強化しついてきてくれる。
「ちょと……待って、くださ……」
「後で話しますっ!」
「待てよフィルっ!!」
後ろからは、久々の友との再会に喜んだのに直前逃亡されて言い知れぬ苛立ちのままカルが追いかけて来る。
いくらカルも実力を上げたとはいえ、幼い頃から身体強化の訓練を積んでいる私とレン令息に追いつけるはずも無く、距離は簡単に開き、カルの体力が先に尽きて置き去りにして行った。
「はぁ……ようやく巻いた。……て、せっかく再開したのに!うう〜……」
こんな形での再会になんてしたく無かったなぁと悲しみに浸ってから、事情を説明しようとレン令息を見ると、完全にのびていた。
声をかけても反応の鈍いレン令息を見てこれはまずいと思い、急いで回復魔法を施す。
「えっと……レン様?大丈夫……ですか?」
「はぁ〜〜〜。一度死んで生き返ったかのような……」
「大丈夫です!死んではいません!」
回復魔法のお陰で動けるようになったレン令息は、呆れるような訝しがるような顔を私に向けた。
「……フィリセリア様、ですよね?なぜ、そのような格好を……。それに、先程の少年……鍛冶屋で……」
「う……よく、フィリセリアと分かりましたね?」
「まぁ、剣術稽古の時に見慣れていますし、分かりますよ」
「ですよね……」
髪を縛って動きやすい様に男装をしていれば大分、普段と印象が変わるからバレないだろうと思っていたが……確かに剣術稽古の時の格好と比べると大差ない。
髪色が簡単に変わる事を知っている人間なら、見たら直ぐに私と分かってしまうに決まっていた。
バレたものはしょうが無いと思い、私はレストルーチェ支部で冒険者登録した事やその後しばらく男装で冒険者活動をしていた事なども話した。
「なるほど……男の振りをして、年齢も誤魔化して冒険者活動を……。それで冒険者ギルドの事に詳しかったのですね……。先程の少年はレストルーチェ領の支部で?」
「うん。レストルーチェ支部で冒険者活動をしていた時にパーティを組んでいた仲間なんだ。帝都へ向かったとは聞いていたからいずれは再開すると思ってはいたんだけれど……」
「私が『フィル』が実は女性だとバラしてしまうことを恐れて逃げ出したと……」
「うん……」
状況を知ったレン令息は右手で頭を抱えてため息を吐いた。
「どうしてもバレてはならないのですか?いずれバレる気がしますけれど……」
「それも……そうなんだけど。ずっと『フィル』として気さくに接して来たのに、なんか……変えたくなくて。それに、ギルドの方にもまだ女だとバレたくないし……」
6歳の少年が冒険者ギルドを出入りしているだけで絡まれるのだ、6歳の女の子など完全に舐められる。
どっちにしろ舐められるなら同じな気もするが、何となく性別も絡んで舐められるのは癪過ぎる。
それ以上に単純に、幼女の1人出歩きは身の危険が増すという問題もある。
「ん〜……。まぁ、事情は分かりましたから知っているのが私だけのうちはバラさないで居ますよ。その話し方は男装ゆえですか?」
「ん?うん。男装の時は『フィル』として話すからね」
「クスッ。何だか新鮮です。ちなみに冒険者ランクは何ランクなのですか?」
レン令息は自身の方が冒険者として先輩である事を疑いもせず、自身よりはランクが下だろうから手解きしなくては……くらいに思ってランクを聞いた。
「今はCランクだね。Bに上げるつもりもないからずっとCかもだけど」
「そうなのですか、C……C!?」
「レン様は?今何ランクなの?」
「D……です」
私が『なら一緒に冒険者活動可能ですねっ!』と喜ぶとレン令息は複雑そうな顔で『そうですね』と言った。
「でも、遠征型の討伐依頼しか見当たらなかったし結局、帝都で活動らしい活動なんて出来ないね……」
「?いえ、周辺の森での討伐依頼も一応ありますよ。……ああ、先程の時間に依頼版を見たのでは遠征物しか残っていなかったでしょうね」
(確かに依頼を受けるにはかなり遅い時間でしたが……)
冒険者ギルドレストルーチェ支部で依頼を受けていた時もそれほど早い時間に行っていたわけではなかったが、あそこは元々魔物の出現しやすい森が周辺に多かったので討伐依頼自体が多かった。
「早い時間ならあるの?」
「帝都周辺は魔物の出現率がそこまで高くないので討伐依頼の数が少ないのです。早朝早くにそういった討伐依頼は取り合いになるので、まずそのタイミングを逃すと残っていませんね」
「なるほど……」
「まぁ、討伐依頼としては出ていなくても魔物を狩って解体納品する事は可能ですから、私は適当に狩りに出ていますよ」
「それって、間違って討伐対象の魔物を狩ってしまったら依頼を受けた人のを横取りした事になるんじゃ?」
「んー……依頼を受けて討伐に行く人達は、出現場所を前もって知らされていて朝早くからそこに向かい戦闘を開始しますから先に獲物に遭遇という事は少ないですね。もし、討伐魔物と戦闘中のパーティが居た場合は邪魔しない事がマナーです」
「なるほど、遅く行ったら既に討伐済みか遭遇戦中の可能性が高いんだね」
「そういう事です」
その後も冒険者マナーや帝都の冒険者ギルドならではの特徴をレン令息に聞いて過ごした。
会話の中で私が冒険者口調をする際に『レン様』と呼ぶのはおかしいという事で呼び方を『レン』にする事になった。
「レンは学院で過ごす合間にもギルドに?」
「もちろんです。剣術訓練で闘技場に居ない時は外に出て冒険者活動をしてましたよ。訓練は実践に活かされないと実力になりませんからね」
「じゃあ一緒に冒険者活動する事も……」
「先程の少年はいいので?」
「カル……カルかぁ。出来たらカルも一緒が良いけれど……」
「僕は構いませんよ?大丈夫です。フィルが『フィリセリア様』である事はちゃんと伏せておきますから」
「なら……3人で冒険者活動したいな」
「では、まずは彼と和解しなくてはね?」
「うう……」
カル、レンの2人と冒険者活動するのは楽しいだろうなと思いつつ、まずはカルとの和解かぁ……と気が重くなる。
(再会を喜んでくれた友を前に『ごめん!』と言い捨てて他の冒険者と逃げ……。あれ、なんかそれって……『今までは同じパーティーでやってたけどもう他に行く所あるからごめん!』って取れない?………………やばい)
先程の再会を振り返って、とんでもない勘違いをカルにさせているかもしれないと気付いた私は顔を青くした。




