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32、帝都の冒険者ギルド2

  冒険者ギルドの大扉を開けさせて、ギルドを出る所だったベルデル・ギースに鉢合わせ、成行きで彼と決闘する事になった。


  ギルド前で乱闘を始めては通行人の迷惑だと言うことで強制的にギルド内の闘技場へと通された私は、今は件の男と対峙している。



「ハッ!素直に着いてくるたぁ随分と自信家なガキだな」


(……あなたのお仲間達が逃がしてくれない空気だっただけですわよ)


「ビビって声も出ねぇか?まっ、今更ビビっても止めねぇがな!うちのゲビーをのしてくれちまった礼はきっちり返すぜ?」


「ただの自己防衛だったんだよ」


「やったもんはやったんだっ!冒険者だっつうならそんくらい責任持てや!そうだ……俺に負けたら責任の一端として金を出してもらおうか」


「……ただの当たり屋」


「あ?」


「いや、いいよ。負けたらね。じゃあ、僕が勝ったらーー」


「おめーが勝っても何もねーよ」



  随分と理不尽な物言いにさすがに少し苛立ったが、特に求めたい見返りも無いので深いため息をつくだけで我慢した。


  見届け人としてその場に居るギルド長は少し物言いたげな目線の送り方をしてはいたが、私が何も言わないからか彼も口を出さなかった。



「武器を失う、意識を失う、致命傷を負うなどすれば即座に終了だ。では、両者構えなさい……はじめ」



  先に動いたのはベルデルだ。


  ベルデルは大剣を抜くことなく、そのまま拳を構えて近づいてきた。



(大剣で手加減はしづらいからってことかしらね。得意武器を抜かないなんて舐められてるわ)



  相手がそう来るなら自分も武器を使うのは止めようと思い、私は手元の剣を腰の鞘に戻した。


  それを見てベルデルが立ち止まる。



「んだ?もう終わりか?ビビリなガキめ、だったらーー」


「素手でいいって事だよ。そっちが武器を使わないなら僕も使わない。……かかって来ていいよ」



  私がそう言って手先で誘うと、ベルデルは分かりやすくキレた。



「舐めやがってクソガキがっ!その体ギタギタに折ってやるよっ!」


「そうはならないと思うけど?」



  私は全身身体強化した状態でベルデルの放つ拳を全て受け流す。


  放つ拳がことごとく受け流され躱されるベルデルはムキになって速度を上げるがそれでもまるで決まらない。


  拳の速度や威力をある程度見た私は一度、後方へと跳びベルデルから距離をとった。



「はぁ、はぁ、くっそ……」



  全力で拳を振るっていたベルデルは息が上がり、後方へと跳び距離をとった私の事をただその場で睨みつける。


 

「いい加減、武器を抜けば?拳じゃ僕に敵わないっぽいよ?」


「言ったなガキがっ!後悔するぜっ!!」



  ベルデルは怒りでギラギラした目を私に向けたまま、背中に背負っていた大剣を抜きふらつきながら構えた。


  さすがに彼の取り巻き女性達から止めに入るような声がかかるが、怒りで私の事しか見えていないベルデルには聞こえていないようだ。



「オウラッ!」



  距離は開いたままだがベルデルがその場で大剣を振るった。

  大剣に自身の魔力でも纏わせているようで強い衝撃波がこちらに向かってくる。


  幸い私の後ろには彼の取り巻きや見届け人として控えているギルド長が居ないが、この衝撃波を受けた闘技場の壁は崩れてその向こうに被害が出るだろう。



(結局はあの大剣の纏ってる力は魔力なんだよね……)



  サランディア令嬢の魔力暴走を抑えた時、私は自分の魔素魔力で押さえ込んで受け止めた。

  なら、魔力は魔力で止められるのではないか……そう思って私は、自身の魔力をうんと圧縮して大剣の衝撃を受けるように障壁をつくった。


  すると、予想通り大剣の衝撃波は私の魔力障壁に弾かれ霧散した。



「な……何しやがったクソガキがっ!」



  目の前で起きた事を信じられなかったらしいベルデルは再び大剣に自身の魔力を纏わせ始める。

  今度は先程よりさらに魔力を込めるつもりのようで時間がかかっている。


  ベルデルが入念に魔力を大剣へ込めている間に影の中から希闇が話しかけてきた。



『今よいか?』


(どうしたの希闇)


『先程の魔力障壁だが、闇属性を付けるといい。闇は飲み込む性質から相手の生命力や魔力を吸い取る事も可能だ。あの障壁に闇属性を付ければ上手く作用してくれるだろう』


(魔力障壁に闇属性を混ぜれば、あの魔力を取り込めるという事?)


『ああ。放たれた魔力を吸収する事が可能なはずだ』


(魔力吸収……名付けるならマナアブソーブとかかしら?放出された物を吸収するって形だから生命力で同じ事にはならないし……単にアブソーブていいかしら……)


『名付けで悩むのも良いが、そろそろ来るぞ』



  希闇の声がかかるのとベルデルが衝撃波を放ったのはほぼ同時だった。

  だが、魔力操作に長けている私にはその僅かな時差だけで、魔力障壁に闇属性を持たせるには十分。


  闇属性の魔力障壁はベルデルの放った魔力衝撃波を受けると、飲み込むようにその力を吸収した。


  それと同時に、障壁を保っている私自身に取り込まれたばかりの魔力が流れ込んでくる。



(本当に相手の魔力を吸収できたわ。それに、すんなり自分の魔力として取り込まれてる……)


『闇属性の魔力障壁を通したから自身の魔力へと変換されたのだな』


(これ……戦闘中に魔力が減ってきたら相手の放った魔術をーー)


「ふざけんなよクソガキがあっ!」



  ガキンッ ピキッ


  全力で魔力を込めて放ったはずの衝撃波までいとも簡単に防がれたベルデルは、怒り任せに大剣を構えて走り近づき切り込んで来た。


  それを私は、反射で腰の剣を抜き受け止める。


  だが、大剣相手に普通の剣では当然受けきれない。

  私の持っていた剣にヒビが入り、私は即座に跳んで距離をつくった。


 パキッ…カランカラン……


  ヒビが深く耐えきれなくなった私の剣は折れた。



「そこまで。少年の剣が折れたので負けとする。これにて終了だ」


(あ、そうでした……武器を失ってもダメなのでしたね)


「はい。僕の負けです」


「ゆるす……はずないだろうがあっ!散々コケにしやがってっ!!っ!」



  私が負けを認めたにも関わらず、なおも危害を加えようとしたベルデルはランゲディスギルド長の土属性の拘束魔術によって動きを止められた。



「ギルド長な…………」



  ベルデルはランゲディスギルド長に何がしか言おうとしたようだが、ギルド長が次にかけた魔術によって声も出なくなった。



(魔術の発動がすごく早い……ランゲディスギルド長、凄腕の魔術士なのね)


「名を聞いてもいいかな?」


「フィルです」


「フィル……。……ああ、聞き覚えがあると思えばレンズ・フリーデスの言っていた子ですか。なるほど……」


「あの……もしかして、冒険者ギルドレストルーチェ支部副ギルド長のレンズ・フリーデスさんとお知り合いで?」


「ええ。彼は私の弟子ですから」


(レンズ・フリーデス副ギルド長の師匠!?)

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