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31、帝都の冒険者ギルド1

  明日の迎えの馬車で公爵家に帰る前に、帝都の冒険者ギルドに立寄ることにした私は、学院を出て直ぐに陰へ入って冒険者服に着替えた。


  そして、そのまま影移動で街中の裏路地に出ると一人気合いを入れた。



「はぁ〜……よしっ!今からは、フィル!」



  影から出たのは冒険者ギルドのすぐ近くだ。


  帝都の冒険者ギルドの入口もレストルーチェ領のギルドと同じく入口が3つある。

  私はその左の方の片開きの扉からギルドへと向かった。



(さすがに正面の大扉入口から入ってしまうドッキリを恒例になんてしないわよっ)



 ギギィィー


  左の扉から入ろと目の前を横切り、ちょうど正面の大扉の前辺りに来た時に、その大扉が音を立てて開いた。



(え?え?私開けてな……)


  「さあさあ、どうぞベルデル・ギース様……ん?なんだ小僧。そこを退け!」


(え?何この失礼な……)



  失礼な態度で私にそう言うのは、大扉を開けさせた男の取り巻きの様だ。

  他にも扉を開けた下っ端十人と付き人らしい腕の良さそうな男が二人。


  それと、その集団の中心に居る男、ベルデルと呼ばれる者にベタベタと触れている薄着の女性が二人……。



「退けと言っているだろうがっ!このガキっ!」



  目の前に居る集団を観察していてボケっと立ったままだった私を先程の取り巻き男は怒鳴りつけて、蹴りを入れようとしてきた。


 ブンッ(パシッ)



「は……?」


「あ」



  振りかざされた足が余りにも遅かったので右手で受け止めてしまってから、やってしまったなあと思う。


  怒鳴りつけ足蹴しようとしてきた取り巻き男の足は、すね毛が疎らに生えていて風呂に時々しか入らないのか何だか薄汚い。

  その事に気づいてしまった私は、堪らず男の足をぶん投げてしまった。


 ドガンッ



「ぶへッ!」



  つい身体強化をかけてしまったが、軽く投げただけなので取り巻き男は石造りの家の壁に体を打ちつけただけで済み、そのまま気を失っただけだ。



(ああああ〜っ。なんか、やらかしてしまったわ!初めて訪問する冒険者ギルドでやらかしてしまったわ〜〜!)



  私としてはゆっくり振りかざされた足を受け止めて、足の汚さに気付いてから払い除けただけだが……。


  周囲の者からすれば、一般人には止められない速さの足を受けた上にそのまま投げ飛ばした様にしか見えない。


  男の他の取り巻き達もたまたま見ていた通行人達も、フィルの事を只者ではない存在だと思い、息を飲んだ。



「その……」



  とりあえず謝罪しようとしたのだが、取り巻きを連れた男は身振りでその者達に指示して道を空けさせた。



「ゲビーの動きに反応してそのまま投げ飛ばすとは、なかなかやるじゃねーか。アイツ、あれでも速さだけはBランク入りって言われてる斥候だぜ?」


(そんなに速くなかったじゃないの……)


『まぁ、そなたは敵意を向けられた瞬間、無意識に全身強化をし、眼にも補正をかけていたからな』


(……実際は本当に早かったというの?)


『そうだ』



  ベルデル・ギースと呼ばれていた取り巻き連れの男は、仲間を傷つけられた事に怒るような様子はなく、むしろ面白がっているように見える。



「よく喧嘩の売ってくれたな。Bランク冒険者ベルデルさんが喜んで相手してやんよ」


(……帝都の冒険者ギルドで偉そうにしていたからSクラスとかなのかと思っていたら……B?)


「んだ?その舐めた目は?バカにしてんのかっ!」


(あ、顔に出てたのかしら?)



  社交界では貴族令嬢の仮面で表情を読ませたりなどしないが、どうも男装をして冒険者活動をする時はその仮面が完全に剥がれる。


  思っていたよりランクが低かった事を顔に出したのが気に食わなかったようで、ベルデルはすぐさま殴りかかって来た。



(はぁ……考え無しにギルドの前で暴れて.…..謹慎処分とかになってしまうのでは?取り巻きさん達も止めたらいいのに……怪我しちゃうわよ?)



  ベルデルの取り巻き達は彼が傷付けられるとは微塵も思っていないのか、私の方へ馬鹿にするような視線を送ってきている。


  ギルド内部も何だか騒がしく、通行人達は私の事を心配そうに、何人かは既に殴られるものと思って目を瞑っていた。



「やめなさいっ!」



 ブンッ


  ギルドの中から止めに入った人物の一言で、ベルデルの拳が私にあたる直前で止まった。


  向けられていた拳があまりにゆっくり動いて見え、いつでも避けられる自信があった私はその場から微動だにせず立ち尽くしたままだ。


  ギルドの中から声をかけてきた人物は、案の定ギルドの職員のようで、ギルドの制服を着ている。


  白髪と黒髪がメッシュのように混ざった髪をしていて、赤い眼がガーネットのように赤黒い。

  よく見れば、着ているギルドの制服は一般のギルド員のものより上等な物のように思える。



「ベルデル・ギース。これは何の騒ぎだ?なぜ、その少年を殴ろうとしている?」


「おやおや。事情はある程度、誰かに聞いてからいらしたんでは無いんですか〜?ランゲディスギルド長〜」


(格の高そうなギルド制服だと思ったら、ギルド長さんだったのね)



  ベルデルは帝国冒険者ギルドのギルド長相手だというのにヘラヘラとした態度でそのように言った。


  それに対し、ランゲディスギルド長は不快には思っている筈なのにその事を顔に出すこと無く、落ち着いた様子で返事をする。



「ギルド職員から、また君が大扉を勝手に開けさせた事。開けた扉の先に居た通行人の少年をBランク冒険者ゲビーが邪険に怒鳴りつけ、さらに足蹴で危害を加えようとした事。それをその少年が払い除けた事は報告を受けている」


「ほーらやっぱり。ぜーんぶ聞いてるんじゃねーか。んで、今は俺がゲビーの仇を取ろうってとこですよ」


「ギルドの前で暴れては通行人に迷惑だ。その様な行動は冒険者ギルドに所属する全ての冒険者の評判を落とす事になる。彼を倒したという事は君、冒険者か?」


「え?あっ、はいっ!」


「ランクは?」


「えっと、Cランクです……」



  ギルド長が急に私に話を振ったので、慌てながら受け答えするとベルデルが吹いて笑った。



「ぷッはははっ!C?Cかよ!ゲビーのやつCランクのガキにのされたのかアイツ!ゲビーのやつの蹴りを受けた上でぶっ飛ばすから高ランクかと思ったら!ケハハハハ!」


(……いちいち嫌な男だわ。何が仲間の仇討ちよ……その仲間の事も纏めて馬鹿にして……)



  ランゲディスギルド長は少し考えた後、なおも騒ぎ笑い続けるベルデルを無視して言った。



「先程も言ったがここでは通行人の迷惑だ。ギルドの訓練場を貸そう。やり合いたいならばそこでやりなさい」


「え……?」


「おっ!話わかるじゃないかよ!おーし、オラ行くぞガキ!」



  ベルデルは顎で冒険者ギルドを指してそう言うと、先にギルドへと入って行く。


  どうしようかと思って周囲をチラリと見ると、通行人は哀れみの目で私を見、ベルデルの取り巻き達は『早く入れ』と睨み付けながら待っている。


  仕方なくギルドの方へ足を運ぶと彼の取り巻き達が私の後ろを着いて来た。



(逃がす気は無いって感じなのかしらね……。はぁ〜……こんな形で帝都のギルドに入るはずでは無かったのですが……)



  私は行く気満々だった帝都の冒険者ギルドに、重い足取りで入って行った。

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