30、初めての帝都散策4
鍛冶屋でカルディナールにばったり会うも彼には一時一緒に冒険者活動をしていたフィルだとバレることなく店を出た。
次に向かったのはヴァシュロンの目的である装飾品店。
レン令息に案内されて辿り着いた商店街には、小物店や魔術具屋、装飾品店など様々な店が煌びやかに並んでいた。
「他の道より豪奢ですわね」
「こちらの通りに用があるのは大抵、貴族ですからね」
店構えは豪華だが道に人通りは少なく、店の前に貴族のものと思われる馬車が停まっているだけだ。
僅かな出歩く人々は店に関わりのある業者か、直接街歩きをしている従者を連れ日傘をした貴婦人、若い貴族の恋人同士などだ。
「殿下はどのような物をご所望ですの?」
「……ん〜」
悩むヴァシュロンは私の事をじっと見ると、私の髪飾りに目をとめた。
「フィリセリア様は、いつもその髪飾りを付けているのですね?」
「ええ。私のミラージュヘアは銀や金以外の物では色を写して変に色が変わりますから。それに、これはお父様が初めてプレゼントしてくれた大切な髪飾りなのですわ」
「なるほど……そのような理由があったのですね」
「でしたら尚のことあの婚約式での事は……」
「……。気になさらないでください。もう過ぎたことですし、幸い壊れたところもありませんでしたから」
私がそう答えた後、ヴァシュロンは少し考えてから私に聞いた。
「髪飾りは、それ以外着けないのですか?」
「いえ、着けますわ。その場合はこの髪飾りを服のワンポイントとして付け、他の髪飾りを髪に付けますの」
「ふむ……その髪飾りはいつも持ち歩きはするのですね……」
そう言うとヴァシュロンは銀細工の店を見て廻りたいと言い、私達は銀細工を取り扱う装飾店を廻ることになった。
何店か店を周ると、ヴァシュロンはいつの間にかに用を済ませたようだ。
「これで……あっ。レン様は武器防具屋へ行かれなくてよろしかったんですの?」
「ええ、大丈夫です。私はいつでも街へ出て武器防具屋へ迎えますから」
「今日は道案内助かりました。僕達の用に付き合っていただいてーー」
「いえいえ、私も楽しめましたので。よろしければ、また街散策を三人で致しましょう」
「ありがとうございますレン様」
****
三人で街の散策をした翌日はヴァシュロンとの魔術勉強の日。
私はいつも通り魔術書の置いてある図書室で勉強をした後、ヴァシュロンに伝えた。
「ヴァシュロン様、魔術の勉強もだいぶ先の方まで進んだ事ですし、しばらくはそこまで勉学に時間を割かなくても良いかと思いますの」
「え……それは、一緒に過ごす時間が……」
私はヴァシュロンの言葉に首を振る。
「ヴァシュロン様は私との魔術勉強にレン様も含めた剣術訓練、そこにさらに学院長の魔術講義も弟子として受けておいでなのでしょう?無理をなさり過ぎですわ」
「無理なんてーー」
「してますわ。お気付きでないのかもしれませんが、隈が目立つようになってきておりますわ。もっとご自身を労わって下さいませ」
「……心配してくださるのは嬉しいのですが……」
(……やっぱり、ヴァシュロンは異様に私に依存し過ぎて居ますわ。本当に距離を置くようにして、他の交友関係を育んでもらわないとまずいかも知れません……)
学院へ入学してからというもの、登校も下校も授業中も休日も、いつでもヴァシュロンと共に行動してきた。
だが、本来であればヴァシュロンは他の学生とよく接して側近候補を見極めたり、後に協力関係を築けるように交友関係を広めたりすべきなのだ。
(私に依存し過ぎているせいでヴァシュロンの将来の迷惑になるなら……)
「私、公爵家に一度帰ろうと思います」
「なっ!何故です!?」
「……受ける授業もございませんし、学院でやりたかった魔術の勉強も大分進みました。お父様もお手紙で『誕生日くらいは帰るのか?』と仰られておりましたし……」
「……そう……ですか」
私が家に帰る理由を並べれば、納得せざる負えないヴァシュロンは酷く落ち込んだ様子で俯いた。
(……その様に悲しい顔をされると……でも、本当にこのまま依存し続けるのは良くないと思うのです!ここは……心を強く持たないと)
****
ヴァシュロンに公爵家へ帰ることを告げた後、いつも通り闘技場で剣術訓練をしていたレン令息にも帰る旨を伝えた。
誕生日には帰るものと予測していたリリアによって必要な荷物は大体まとめられていたので、帰る支度はあっという間に済み、明日には家から迎える馬車が来る事になった。
(明日……か。公爵家へ帰ると告げて気落ちさせてしまったヴァシュロンの居る図書館へ戻るのも気が引けるし……あ)
私は街歩きの時に見た冒険者ギルドを思い出した。
(今まではレストルーチェ領の冒険者ギルドでしか活動していなかったけれど、これからは帝都のギルドで活動するのもいいかもしれない。きっとカルも居るし……)
カルと一緒に久しぶりに冒険者活動が出来ると思い気持ちが高ったが、すぐにヴァシュロンの事を思い出して気持ちが沈む。
私が帰ることを知って暗い顔をしていたヴァシュロンを思うと、カルと楽しく冒険者活動をする事が申し訳ないような気になる。
(でも、ヴァシュロンはあまりにも私に依存し過ぎている気がするもの……。命を救ったから……だとは思うけれど、盲目的に私にばかり構う……)
実際、学院で私以外と接している所をろくに見た事がないのだ。
他の学生がヴァシュロンに挨拶したり話しかけたりしても短く適当に返すだけで、すぐに私を連れて他のところへ移動してしまう。
学院で2人きりじゃなかったのは、レン令息と3人で剣術訓練をする時とメリーさんと魔術勉強していた時だけだったように思う。
(いつもいつも私と2人きりで居ようとしているような……。もしかして、他人と接するのが苦手?けれど、社交の場ではきちんと対応していたわ……)
きっと、私が居なければ社交の時のように他の人とも接するはず。
どうしてもヴァシュロンの事が気がかりなまま、私はリリアに出かける旨を伝えて帝都の冒険者ギルドへと向かった。




