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29、初めての帝都散策3

  鍛冶屋の女性はすぐに鉄材の在庫を調べ、店の方へと戻ってきた。

  そして、彼女は鉄材がいくつか入った重そうな鉄製コンテナを軽々と持ち上げてカウンターへと置く。



「あいよ。ちょうど鉱山仕入れがあったばかりでね。屑鉄も製鉄もあるよ。あと、加工済みの鉄棒や鉄球なんかもね。さて、頼まれたのはどんな鉄だい?」



  どうやら実物を見れば何を買いに来たか分かるだろうと、わざわざサンプルとしてものを持ってきてくれたようだ。

  腕で抱えられるほどの鉄のコンテナ中には、各鉄素材が1種類1つづつ入っていた。


  親切に現物まで揃えてくれた鍛冶屋の女性に、何だか申し訳ない気持ちを抱きつつ私は答えた。



「鉄くずで大丈夫で……す。出来ればたくさん欲しいのですが……あと、出来れば鉄以外の金属素材も欲しいで……す」


(な、何だか普通に女装の状態で『ですわ』じゃない事に違和感が……。フィルとして男装をしている時は自然と話せますのに〜)



  かなりぎこちない語尾となってしまったことに私自身は気まずさを感じていたが、店の女性は10歳の見習い仕事就職に向けて敬語の練習を熱心にしているのだろと言うくらいにしか思わなかったようだ。


  特に私の口調を不審がることも無く、注文を了承して、また店の奥へと引っ込んで行った。



「はぁ〜……」



 ぷふ……



「むっ。今笑ったのどちらですか?」



  私の溜息にか、先程の口調に対してか、笑いを堪える声が聞こえたので振り向くが、ヴァシュロンもレン令息も自分では無いと首を振る。


  どちらでもないなら一体誰が……と私が首を傾げると、ヴァシュロンやレンよりも奥、店の入口に立つ人物が返事をした。



「ごめんごめん。笑いが盛れたのは俺だよ。だってすっげぇぎごちない話し方してるからさ」



  私はその人物を見て思わず固まった。


  相手は私だと気付いていない様子。


  私の心臓は少し居心地の悪いこの状況にドキドキと高鳴った。



(カル……)



  そこに居たのはレストルーチェ領の冒険者ギルドで出会い、しばらく一緒に冒険者活動をしていたカルディナールだった。



(確かに帝都へ旅立ったとは聞いていたけれど、もう着いていたのね……。帝都の冒険者ギルドへ行くようになれば会えるだろうとは思っていたけれど、まさかこんな形で……)



  一緒にレストルーチェ領の冒険者ギルドで活動していた時は『フィル』と名乗り、男装をして男の子としてカルに接していた。


 



「な、なんだよそんなに睨むなって、悪かったよ」



  私はじっくりカルの顔を見てしまっては居たが、睨んだつもりは無かった。

 

  謝罪するカルの視線を追うとその目線は私にでは無く、ヴァシュロン達に向いている。



「お、お2人とも!私は気にしておりませんから!」


「ワタクシって……クスクス」



  カルは私が完全に平民の娘だと思っているようだ。


  私の一人称に再び笑いが込み上げたらしいカルをさらに2人が睨みつけ、私が一人であたふたしていると、店の女性が金属の入ったコンテナをガチャガチャいわせながら戻ってきた。



「はいよっ!屑鉄とうちで扱っている金属類で今出せるやつ持ってきたよ!あら、新しい客かい?いらっしゃい」



  これ以上ヴァシュロン達とカルを一緒にしておくのは良くないと思い、私は急ぎその店で買えるだけのものを買って店を出た。


  店を出る直前に少し振り向いてカルを見たが、まるで今起きた事を気にした様子はまるでなく、店の女性に要件を話し始めたところだった。



 ****


「……すみません。僕のせいで急かしてしまいましたね……」


「殿下のせいだけではありません。私もです」


「お2人とも気になさらないでくださいませ。用事は無事に住みましたから大丈夫ですわ」



  屑鉄コンテナ2個分と銀を少し購入し、裏の運搬口で受け取りをした。

  店の男がどこに届ければいいかと尋ねてきたが、私は届ける必要は無いと答えてパパっと魔収納に仕舞った。


  魔収納が扱える事を大っぴらにするのはまだ早いので、肩に掛けたポーチの内部で魔収納を展開しての使用だ。

  この肩掛けポーチ、口のところを巾着状にしてあるのでそれなりに大きめの物でも入るのだ。


  店の男とレン令息は驚きつつも魔収納効果の魔術具なのだと納得した様子だった。


  ヴァシュロンは驚きすらしなかった。



「量はそれで足りますか?」


「んー……正直、もっと欲しいところではあるのですが……。本当は自分で取ってこれたら楽なのですけどね?」


「自分で……?まさか、鉱山で自分で掘ると?」


「そのような事……」


「ふふ。ツルハシを持ってとかではありませんよ?地中に土魔……」


(『土魔法』で地中を探った後、錬金術で錬成すればいいなど……レン様には言えませんわね)


「土ま?」


「えっと、土魔術でドドドって掘り上げて鉄がざっくり掘れれば楽なのに……なんて……」


「クスッ。随分と豪快な事をお考えになるのですね。そのような事をしたら鉱山が崩落してしまいます」



  今のところ、土魔術でそこまで繊細な使い方はなされていない。

  土魔法であれば細かな操作も可能なので鉱脈から金属類のみを掘り出すことも簡単だが、土魔術でそのような術式は恐らく複雑すぎる。


  一般的な土魔術といえば、地面から岩を出現させたり石の礫を飛ばしたり、落とし穴を作ったりという基本的に大規模な地変動なのだ。


  建物を作る場合の建築的な土魔術の使い方もあるが、あれも土内部の物質を分けたりなどという器用なことは出来ない。



「まぁ、鉱山から直接採取出来るのだとしてもどこかの貴族の所有であったり、国の所有であるでしょうから……なかなか簡単には行きませんわね」


「そうですね。鉄資源を勝手に奪うなど盗賊の所業ですから」



  モリス商会で買い付けてもらう事も出来るかもしれないが、それでは母様に確実に知れてしまうし持続的に買い付けたいという訳でもない。



(自力で調達出来ることが最善なのですが……。他人の所有である鉱山には手出し出来ませ……誰のものでもなければ?)



  国の領土にもなっていない土地は、思う以上に広範囲にある。

  というのも、強い魔物が生息する土地を国が所有していても管理など出来ないので未開の地となっている所が、世界の各他にあるのだ。



(近くに未開地の岩山などありませんからどちらにせよ無理ですが……)



  冒険者として旅にでも出ればそういった所を見つけることもあるだろうな、などと考えながら次の目的地である装飾店へと向かった。

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