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28、初めての帝都散策2

  飲み物を飲み一休みした後も街の散策を続け、もう少しで城門まで着いてしまうところまで来ると、私が興味引かれる建物があった。



「こちらまで来てしまうと、装飾や食事処の店が無くなってしまって面白くなさそうですね。そろそろ道を引き返ーー」


「冒険者ギルド……」


「え?」



  ヴァシュロンが見るものも無いので引き返そうと提案するところで、私がぽつりと目の前の建物の名を呟いた。



「冒険者ギルドティルス・シャルディルチア帝都支部ですね。さすが、帝都の支部です。私の父が治めるガルマ領地の支部よりかなり立派な建物です」


「!レン様は冒険者ギルドに行った事がおありなのですか?」


「もちろんです。5歳のお披露目の後、すぐに領地のギルド支部へ行き冒険者登録をしました。それからは時間さえ許せば兄上や騎士団の者と一緒に森へ魔物狩りに」


「5歳の冒険者登録ですと、見習い冒険者登録ですわよね?それですと、魔物討伐は参加出来ないのでは……」


「お詳しいですね。確かに本来は5歳での登録は見習い冒険者登録で魔物討伐依頼は受けることができません。しかし、ガルマ公爵家のものは幼い頃から身体強化を学び実践を積んでいるので5歳の時点で本登録可能なのです」


「では、レン様はEランク以上の冒険者……?」



 コホンコホン


  私がレン令息との冒険者ギルドの話に夢中になっていると、ヴァシュロンが咳払いをして話を折った。


  振り向くとかなり不服そうな顔をしたヴァシュロンが居る。



「お二人だけで随分と楽し気ですね?まぁ、僕は身分が邪魔して冒険者になどなれないでしょうし、フィリセリア様を楽しませるような話は出来ませんが……」



  そう言ってヴァシュロンは溜め息を吐く。



「……騎士団と共に魔物討伐に出た兄上を羨ましく思うことになるとは……」


「そういえば、ダビッド殿下は皇子でありながら魔物討伐の前線に立たれているのですよわね……?ヴァシュロン様もその強さを認められれば騎士団と共に魔物討伐をする事を許されるのでは?」


「強さを認められる……」


「ヴァシュロン様は十分実戦に耐えうる実力をお持ちですわ。周囲の者がその事を知らないだけですの!実力を認めさせられる場があればーー」


「いえ、やはり無茶でしょう。訓練と実戦闘は別物。訓練で力を付けていても経験不足は否めません。騎士達に迷惑をかけてしまいます」


(……残念ですわ。ヴァシュロンとレン様、お二人と一緒に冒険者活動が出来たら楽しいだろうと思いましたのに)



  今日は冒険者ギルドの外観だけ眺めて学院に引き返そうと思う。

  本当はすぐにも冒険者ギルドのドアを潜りたいものだが、今は令嬢の装いだ。


  影に入れば男装冒険者服に着替えられるが、闇の精霊魔法を知られるのは極力避けたいし、男装姿を2人に見られるのは何となく気が引ける。



「そろそろ引き返して帰りましょうか」


(冒険者ギルドティルス・シャルディルチア帝都支部は、また今度1人で来よう)


「なら、少し装飾店に寄ってからでもいいかな?」


「ヴァシュロン様、何か買うものがあるのですか?」


「うん。まぁね」


「……なるほど、わかりました。それならこちらの道です」



(レン様……『なるほど』って、ヴァシュロンが装飾品を買う理由が思い当たったのかしら?そうだ!)


「私も寄りたい所が……」


「どちらへ行きたいのでしょうか?私でよろしければご案内します」


「銀や金……があったら理想ですが、鉄や木材でも……」


「?金属や木材?何か作るのに必要な……ああ、もしや錬金術の材料ですか?」


「ええ。その通りですわレン様」


「錬金術……?フィリセリア様は錬金術も会得されているのですか?」



  私が人前で錬金術を使ったのはライダンシェル家サランディア令嬢のお披露目会の時。

  あの時、皇族からはダビッド殿下が参加していたのでヴァシュロンはその場で起きたことを知らない。


  その後人前で錬金術を見せることはなく、自室でコツコツ練習を重ねていただけなので、あの時のことを知る人以外、私が錬金術士でもあるという事を知らないのだ。


  私はヴァシュロンにサランディア令嬢のお披露目会出会ったことを説明した。



「ダビッド兄上……」


「……困ったお方ではありますが、今は民のために魔物討伐に尽くしてくださっているはずですわ」


「フィリセリア嬢は本当に寛大な御心をお持ちで……。しかし、ご無理なさらないでくださいね?」


「クスッ。大丈夫ですわ、レン様。ありがとうございます」



  私がレン令息に微笑んでお礼を言うとヴァシュロンが少しムッと不機嫌な顔になった。



「困った事や辛い時、無理をする前に僕に頼ってください。もちろん無理をする時も!……僕がフィリセリア様のお力になります」



  ヴァシュロンの真剣な眼差しに少し気圧されたが、その真剣な思いが嬉しくて私はヴァシュロンにも笑顔でお礼を言う。



「ありがとうございますヴァシュロン様。いつも頼りにしておりますわ」



  学院生活の大半をヴァシュロンと過ごしている。


  ヴァシュロンと一緒でなかったらどれほど寂しかった事か……。



(あ……、ヴァシュロンと私の関係って前世の幼なじみとの関係に近い……?依存し過ぎている所が……ちょっと……)



 ****


  今日は、やけに前世と今世が被って見えるなと思いながら、レン令息の案内で現在地から近い鍛冶場へと向かった。


  鍛冶場は冒険者がよく立ち寄るので大抵、冒険者ギルドの近くに店を構えている。


  表は店の形をしているが、裏は倉庫の様な造りで、今も炭鉱の荷馬車が止まって金属素材の荷卸をしている。



「目的は金属素材ですよね?裏に回った方が良いのでしょうか?」


「でも、部外者が店の裏手に勝手に回るのも失礼だと思いますわ。店の店員に先に声をかけましょう?」


「そうですね。その方がいいと思います」



  私達は鍛冶屋の店に揃って入った。


 チリンチリン


  店内は武器防具屋とは少し趣が違って、剣や盾が無い代わりに畑で使う鍬や炭鉱で使うツルハシ、鍋やフライパン、包丁や釘、金槌など生活に則した物が並べられていた。



「武器防具屋とは扱う物が完全に違うのですね……」


「私も鍛冶屋は初めて来ました」


(鍛冶屋か……まぁ、そうよね。武器や防具ばかり作って生活に必要な鉄製品が無かったら一般民が皆困ってしまうわ)



  私達が物珍しく思って店の入口で店内を見回していると、店の奥から腕っ節の強そうな女性が現れた。



「いらっしゃい……て、あんた達、揃ってお遣いかい?何を頼まれてきたのさ、言ってごらん」



  店に親に買い物を頼まれた街の子供が来る事は珍しくないのだろう。

  見た目ただの6歳児である私達は店の女性に完全にお遣いの子供だと思われていた。


 

「「「………」」」



  想定外な対応に私達は見合わせて、揃って妙な顔をする。



(……まぁ、見た目ただの6歳児ですし)



  私達が幼い子供扱いされたことに内心軽くショックを受けて黙り込んでいると、勘違いの続く店の女性がさらに話しかけてきた。



「あらあら、買ってくる物みーんな忘れちまったんかい。親から買ってくるように言われたメモは?誰か持ってないのかい?」


「……あの」


「ん?何買うか思い出したのかい?で、何が必要なんだ?」


「いえ、店にある物が必要な訳ではなく、金属素材を分けていただきたいと思って……」


「あーあー、なるほどね!鉄が欲しいのかい?まーなんと、こんな小さい子に素材の買い付けさせるとはねぇ〜。ちょいと待ちな〜」



  親に頼まれたお遣いと思って疑わない店の女性は、鉄の在庫を見に店の奥へと引っ込んでしまった。



「……私達、知らない人から見たらただの幼い子供なのですね」


「……まぁ、そうですよね」


「……城でも社交でもこのように幼く見られる事は無かったので……その、新鮮ですね」


(……何かあって国を飛び出すことがあったとしても、今の歳だとさすがに他国でまともな扱いをされなさそうですわ……。せめて、成人となる15歳を過ぎれば1人でも苦なく生きて行く自信があるのですが……)

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