27、初めての帝都散策1
学院で料理の練習、図書館で魔術の勉強、闘技場で剣術鍛錬と魔術の実践練習をしながら過ごす日々は充実していた。
図書館にあった中級までの魔術書の魔術は習得も済んでしまい。
魔術語を造語して新しく『洗浄』の魔術や『温水』の魔術など生活に則したものを創ったりもした。
そんな日々を過ごしてメリーとの魔術勉強期間から1週間程経った。
「フィリセリア様、帝都を街歩きしてみませんか?」
「え?」
「僕もですが、フィリセリア様も学院に通い出してから一度も城下街へ行っていないでしょう?他の学生たちは結構、休日に城下街へ遊びに行っているのですよ?」
確かに学院に外出許可を取れば、授業の無い日は外出可能という事になっている。
だが、日々の勉強生活がとても楽しくて、今まで街歩きなどしたいと思った事がなかった。
「お披露目前は外出など出来ませんでしたし、お披露目後は学院の勉強に励んでいたので、僕も帝都の街を歩いたことが無いのです」
「なるほど」
「その……もし、よろしければ僕と帝都の街へーー」
「街?フィリセリア嬢とヴァシュロン殿は帝都の街へ行かれるのか?」
ヴァシュロンが私を帝都の街歩きに誘おうとしたところで口を挟んだのはレン令息だった。
今日は剣術鍛錬の日で、今はちょうど私とヴァシュロンが休憩をしているところだったのだ。
「今までずっと学院の中で勉学に励んでおりましたから、まだ一度も行ったことがない無いのですわ」
「それは……珍しいというか。大抵の人はお披露目後、初めて帝都の街を出歩けるという事で休日に早速街へ……というのが恒例なのですが」
「レン様はもう行かれましたの?」
「もちろんです。休日に帝都の武具屋に行きとても楽しく過ごしましたよ」
「帝都の武具屋!」
「クスッ。やはり気になりますか?剣を握る者にとっては武具屋ほど楽しい店はありませんからね」
私とレン令息が帝都の街の事を話し盛り上がっている端で、ヴァシュロンは面白くなさそうに私達を見ていた。
「……お二人はとても気が合うようですね?」
「まぁ、同じ剣を握るもの同士ですから」
「ヴァシュロン様は帝都の武具屋に興味ありませんの?」
「興味が無いわけではありませんが……(フィリセリアと美しい景色を見たり、喫茶でお茶をしたりするのを想像していたので温度差が……)」
私は興味はあると言う割に気乗りしない様子のヴァシュロンに首を傾げつつ、レン令息に提案した。
「レン様、既に帝都の街をご存知なのでしたら私達を案内してくださいませんか?私達、帝都の街に行くのは初めてですので何がどこにあるのか分かりませんもの」
「え……」
「ええ。もちろんです。道案内はお任せ下さい。行くのは……お二人も授業はありませんよね?明日でよろしいですか?」
「もちろんですわ。ヴォシュロン様はそれでよろしいですか?」
「……ええ。初めての街歩きで道も分かりませんし、とても助かります」
ヴァシュロンは2人に気付かれないようにこっそり溜息を吐いた。
****
街歩き当日の朝は久しぶりに制服以外の服を着せられると、リリアがとても張り切った。
「もうっ!しっかり外出用の服も揃えていたのにフィリセリア様は全く学院から出ないんですもの」
「ふふ。勉学が楽しくって」
「ふぅ。もっと外出もしてください。気分転換って大切なのですよ?そして、外着に着替えさせてフィリセリア様を着飾らせる私の楽しみをもっとつくってください」
せっかく可愛らしいのにいつも闘技服ばかり、学院に通い出したら毎日制服ばかりで全然着飾らせてもらえないとリリアに愚痴を言われながら着替えさせてもらう。
今日は水色のグラデーションが綺麗な簡素なワンピースだ。
髪飾りはいつものお父様がくれた銀の髪飾り、髪は水色のワンピースに合わせて水色に染まった。
波打つ髪は右上に巻き上げたうえで短めのポニーテール。とても涼しげな雰囲気だ。
「日に焼けますから薄手のこちらの上着も羽織ってくださいね。……うんっ!今日もとてもお可愛らしいです!」
(日焼け対策か……)
自身でもいつも回復魔法をかけているし白妃もこまめに回復させてくれるので日焼けは一度もしたことが無い。
日焼けは日光による表皮火傷なので治癒の対象なのだ。
まだ、年齢的に肌荒れなどの心配が無いが、恐らくこれから先もずっと心配いらない事だろう。
私はポーチを肩掛けして二人と待ち合わせしている学院の門へ向かった。
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私が約束の時間より早く学院の門へ行くと、既に2人が待っていた。
2人は街歩きという事で貴族の子と分かりにくいように、普段より簡素な服を選んで着てきている。
「ヴァシュロン様、レン様。すみません。お待たせしてしまったようで……」
「「……」」
ヴァシュロンとレン令息は、着飾ったフィリセリアを見て見惚れ固まってしまった。
「あの……本当にすみません。お2人をお待たせしてしまっーー」
「あっ……いいえ、時間前ですし僕達が早く来すぎただけですよ」
「男が待つのは当然です。気になさらないでください。……さぁ、行きましょうか?」
日差しが少し眩しいが、風が涼しく街歩きに適した気候になった。
学院から街中に出るには少し距離があるので、学院に駐在している馬車を出してもらい私達は帝都の街へと向かった。
「せっかくですから街の中心で降りるのではなく、街の端から歩いて見て回ってもよろしいですか?」
「もちろんですが、フィリセリア様は歩き回って疲れ……ませんね」
「ですね。フィリセリア嬢なら街を何百往復したところで疲れなどしないでしょう」
「……お2人とも私の事をからかっています?」
(まったく、か弱い女の子とまでは言いませんが……私、まだ6歳の幼女ですのに……)
私達は街の学院側に馬車を止めてもらった。
一応、ヴァシュロンの護衛のものが影から見守っているらしいが、礼儀として第二皇子であるヴァシュロンの身を守るようにレン令息が1番初めに降りる。
そして、次は私の番だと思い腰を上げるとヴァシュロンに手で制された。
「……?」
ヴァシュロンは私より先に馬車を降りると、後ろを振り向いて私に手を差し伸べる。
「フィリセリア様、御手をどうぞ」
「!……コ、コホン。……ありがとうございます、ヴァシュロン様」
ここ最近、脳筋女扱いが続いていたので女の子として扱われるなど久々だ。
私は不意打ちなレディーファーストに思わず赤面しつつ、ヴァシュロンの手に自分の手を重ねた。
馬車を一歩出るとふわりと瑞々しい花の香りが風に乗ってきた。
街は石畳が敷かれ、至る所にある花壇は春の花々が咲き誇りとても鮮やかだ。
すーはー
(花の甘い香りが……天気もいいですし、とても素敵な街歩きになりそう)
三人で街の雰囲気を楽しみながら見て歩く。
しばらく歩き進むと涼し気な噴水のあるメインロータリーに出た。
ここは特に人の集まりやすい中心部で、露店も多く見られる。
「疲れてはいませんか?あの店で飲み物でも買ってこようかと思うのですが、お二人は?」
「僕も飲み物は欲しいですね」
「私も飲み物は欲しいですわ」
「では、私が買ってきますからお二人はここでお待ちください」
「3人分持つのは大変ですわ!みんなで行きましょう?」
「そうですね。僕も店を直接みたいので3人で行きましょう?」
三人で見て周って店を覗き、一緒に飲み物を飲んで、こういった友達との過ごし方もあるのだなという幸福感と、何となく感じる既視感。
(……あ、そうだわ。ミト、シェイル、ルカ。三人の巫達の……前世の記憶。あの三人も何をするにもいつも一緒だった。だから、何となく懐かしいのね)




