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20、学院図書館2

  はじめて学院図書館にヴァシュロンと訪れてからは、夢中になって毎日図書館に通った。

  もちろん目的地は図書館地下層の魔術書の部屋。


  ヴァシュロンにも確認したが、彼も学院高等部までの基礎勉強を既に終えており、補えていないのは魔術関連のみとの事だったので彼も一緒だ。



「初級魔術だけでも多いですね……そして、案の定ですが魔術語の並びも長くなっていきました」


「けれど、決まった方式で唱えるので新たに覚えるのは主に魔術補助語くらいですわね」



  火の『ピセ』や水の『セレ』などは魔術名詞語。

  ラ『力』は決まって入れることになる記号で、トルタ『打ち出す』が魔術指示語だ。

  そしてルタ『発動』が魔術終止語となる。


  調べてみたところトリル『回転』、ピシュ『収縮』、マラ『膨張』などの魔術補助語などもあるようだ。


  例えば火の渦を打ち出すなら

『ピセ ラ トリル トルタ ルタ』となる。


  補助語は『ラ』記号の後、指示語『トルタ』の前に置くのだ。

  さらに複雑にするなら、回転する火の槍を打ち出す事にすると

『ピセ ラ ピシュ トリル トルタ ルタ』となる。

  火の塊をまず収縮して槍の形にしてから回転を加えつつ打ち出すということになるのだ。


  魔術語を唱えている間はずっと魔力を送ることになるし、高度なもの程必要魔力量も増えてくる。


  故に、いかに早く魔術語を唱えられるかも鍛えることになるらしい。

  無論、思い出しながらモタモタと魔術語を唱えることのないように暗記必須だ。



「魔術言語基礎は次学期の必修科目だったはずでしたから良い予習になりますね」


「次学期の魔術実技はその授業で習った魔術を使っていくのでしたね」


「ええ。初級までの四属性魔術をひと通りですね。ここで初級四属性魔術を覚えてから闘技場で実践しますか?それとも今覚えたところまでで1度実践してみます?」


「そう……ですね。使ってみたいですわ」



  本当は基礎をしっかり知識で固めてから実践に移る方が良いのではとも思うが、自分の欲求に素直に答えた。



「では、闘技場の一部を借りられるように申請しますね」


「そんな!さすがにヴァシュロン様を小間使いのような扱いなど出来ませんわ。私が使用申請は致します!」


「気になさらなくてもーー」


「気にします!……メリーさんに身分差を弁えた行動を心掛けるべきと説いておきながらそんなこと出来ませんし、そうでなくとも気になりますわ」


「クスッ。分かりました。では、闘技場の使用許可を取るのはお願いしますね」


「お任せ下さいな」



  申請は事務で事務員に口頭で使いたい日時を告げて使用可能か確認してもらい、その場で許可を得られる。


  基本学院の者であれば誰でも使用可能なのだが、団体利用や大規模魔術使用などで他の利用者に害のないように許可制となっているのだ。


  大抵は実技授業の時間に被らない限り使用可能、実技試験の前などは混むかもしれないが、希望者による学期試験が終わったばかりの今はそれも無いだろう。



「事務があるのは本館2階でしたわね」


「一緒に行くよ」



  私達は二人で魔術書の部屋を出て図書館地下階から地上階に出る。

  そして、図書館の出口へと向かっていくとあの人物に出会った。



「あっ!ヴァシュロン様!こんなところで会えるなんて嬉しいです」


「……」


「ああっ!名前、名乗ってなかったから名前呼べませんよね!私、メリーって言います。ぜひ名前で呼んでください!」


「メリーさんも図書館で勉強なさっていたのですね?」


「もぉ〜『さん』なんて付けずに『メリー』で良いですよ!そうだ!私と勉強しません?私今、次の学期試験の勉強をしていてーー」


「メリーさん。僕は既に次学期の学期試験の勉強をほとんど終えていますし、この後予定があるのです」


「むー。『さん』要らないのに。じゃあじゃあ、私に勉強教えてください!2人きりでお勉強しましょう!」



  その場を切り上げようとするヴァシュロンの言葉も聞かずに尚も捲し立てるメリーに我慢できず、私も言葉を挟んだ。



「メリーさん。殿下はこの後ご予定があると仰っているではありませんか、お引き留めすべきではありません。それに、何故あなたに殿下が勉学の手伝いをせねばならないのです?殿下のお時間を割かせるなんてーー」


「私はヴァシュロン様とお話してるの。邪魔しないでよ。それにあなたには名乗った覚えないし」


「無礼が過ぎますよメリーさん!フィリセリア様はあなたが今後もそのような態度を他の貴族の前でもして危害を加えられないよう忠告をしているというのに!」


「無礼って……この人同級生でしょう?差別禁止なんだから同列なはずじゃないですか。(あなたのせいでヴァシュロン様にこんなふうに言われて……)本当に私の邪魔ばかりして私の事悪く言って……あなたってほんと悪役ね!悪役令嬢だわ!」


(悪役って……誰がですか。本当に困った妄想癖の方ですね……)



  私はメリーの物言いに若干呆れるだけで済んだが、ヴァシュロンは彼女の言葉が気に障ったのかいつにない怒りの篭った目をメリーに向けた。



「フィリセリア様はあなたにそんな事を言われるような方ではないっ!!」



 パンパンッ!


  手を打つ音を聞いてそちらを見ると図書館司書の方が苛立ちを無表情で覆い隠して立っていた。


「貴方々、図書館で静かに過ごせないのでしたら退出を願います」


「待ってください!私まだここで勉強しーー」


「静かに過ごせない方に館内で勉強されては困ります。貸出可能なものであれば貸し出し手続きをした上で、自室で勉強なさって下さい」



  端的に言うなら強制退出、入館禁止を言い渡されたという事だ。


  司書はメリーにそう言うと私達の方を振り向いた。



「あなた方もです」


「……魔術書は貸出持ち出し禁止と聞きましたわ」


「え!?あるの?ずっと探し回ってたけど見つからなかったのに!」



  今し方、静かに過ごさなかった事が原因で図書館利用禁止になろうとしているのに騒ぎ立てるメリーに内心怒りを通り越して呆れる。


  司書はそんなメリーの様子と私の様子を見比べて、騒ぎの原因はメリーの方のようだと当たりをつけたのか私に対して少し優しく返答してくれた。



「初回の警告ですから、3日間の入館禁止で済ませましょう。次は心しなさい」


「「寛大なご配慮、ありがとうございます」」



「え!?ちょっと!入館禁止って何よ!3日間も図書館を利用できないの!?勉強が進められないじゃない!」



  私達は大人しくそのまま立ち去ったが、尚も入館禁止なんて学生の本分を妨害するような行為は〜などと騒ぐメリーは、警備員に強引に追い出されたようだ。



「ありえなーーーいっ!ヴァシュロン様と2人きりで勉強会を始める場面のはずなのにっ!」



  警備員に追い出された際にお尻を打ったらしいメリーが痛むところを擦りながら図書館入口でそんな事を叫んでいた。



(平民出身者故なのか……いえ、メリーが特殊な方なだけでしょうね……)



  能力があって勉強に意欲的で、真っ直ぐな性格をしているのは好感が持てるのに何故か付き合いにくい方だなと思いながら、私はヴァシュロンとその場を離れた。

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