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19、学院図書館1

  学院図書館の内部は魔道具の光で十分な明るさが保たれ、フロアの真ん中は1階から三階までの吹き抜けとなっている。


  魔道具で照らしている事以外は日本の図書館と変わらないなと思いながら、私は館内を見渡し足を進めた。



「広いですね……司書の者に案内をお願いしましょう。2人だけで魔術書の棚を探すのは大変そうですし」


「そうですね……」



  日本の図書館のように分かりやすく分類表示があれば探すのも楽なのだが、見たところそういった目立った目印は無いようだ。

  だが、見ていると題名が『歴史』『魔物』『技術』など被っているので一応種類分けされてはいる様子。


  ヴァシュロンが学院図書司書に声をかけ魔術書の棚まで案内を頼むと、案内されたのは思いがけない場所だった。



「地下……?」


「ええ。図書館上部は三階までですが地下にも階層は伸びているのです。むしろ、図書館下層部の方が広いのですよ?」


「地上にある本はほんの一部でしかないということですか……」


「その通りです。この図書館には様々な土地から集めたた図書が皆集まります。そして、その全てを保管するとなると図書館上部のみでは足りませんので、地下へ地下へと階層が伸びたのです」


「どのくらい昔のものまで保管するのですか?」



  さすがに古い図書になれば情勢も歴史も学問にも変化があり、時代に則さなくなってくる。

  必要の無い図書をいつまでも保管しないだろうと思ってそう聞いたのだが、返された答えは跳躍していた。



「この学院図書館が設立されたのが約1650年前くらいですので、その当初の物から保管していると思いますよ?当時は学院図書館ではなく、保存図書庫だったようですけれど」


「そんなに昔の物では本が傷んでもう読めないのでは……」


「普通に保存していたらそうですね。けれど、傷みの酷くなってきた図書は司書が複写致しますし。むしろ、昔の図書の方が何らかの魔術が施されているのか保存状態が良いのですよ」


(物を劣化させない魔術……?そのままを保存出来る魔術?それはとても便利そう)



  地下へ伸びる階段を私達は降って、階段の先のアーチを潜るとその先は地上階と同じ様に地下へと3階分の吹き抜けがあり、魔道具の光が照らしていた。



「こちらの地下3階層までは一般生徒解放となっていますので、何時でもご利用なさって大丈夫ですよ」


「……まだ下が?」


「もちろんです。歴史保存図書。使用されなくなったけれど保存される図書は遥か地下層に保存されていますし、近年の使用しなくなった図書も保管されていますから。さぁ、魔術書はこちらです」



  司書に案内されて辿り着いた先では他の司書の受付カウンターがあり、その横には扉があった。

  案内してくれた司書がその司書に声をかけ、私達が魔術書を読みに来た事を告げる。



「分かりました。魔術書は大変貴重であり、盗難の恐れも最も高い図書ですので他の書物とは別にこの部屋にて保管されています。図書保全の為、全員にお願いしているので魔力認証をこちらに」


(え!魔力認証?魔力量も関係あったらどうしよう……お披露目の時ぐらいに調整した方がいいの?どのくらいだったかしら……)



  魔術書管理の司書が差し出した魔道具の板にまずはヴァシュロンが手を置き、魔力認証を終えた。

  その後、私も続いて魔力認証を行う。



(あ……少しだけ魔力を抜かれたけれど、ほんの少しだわ。多分、これは魔力量まで計るような物ではない……よかった)



  魔術書管理の司書に魔術書は貸出はもちろん持ち出しも禁止である事、部屋の中での魔術発動は禁止であること、書き写し禁止であることなどを注意項目として告げられた。


  それらに承諾し、それら注意項目の記入された魔術契約書に署名をして私達は魔術書の保管されている部屋へと入った。



「さすがに他の書物より数が少ないわね」


「でも、魔術書でこれ程の数となると相当だよ。各属性魔術書も数があるし、魔術書基礎の本や応用魔術書なども……」



  魔術書の部屋の中は扇形になっており、入口から部屋全体が見渡せる様になっていた。

  扇形の弧の部分に本棚が並び、部屋の中央に読書スペースが設けられている。



(……変わった形をしている感じは児童図書のスペースに似てるかもしれない。多分、入口の司書さんが内部を確認しやすいようにこういう形なのね)



  私達はそれぞれ気になる本を探すために本棚に近付いた。

 

  ヴァシュロンは迷いなく真っ直ぐ基礎魔術書の本を探しに行き、私はどんな魔術書があるのか一通り題名に目を通していく。



(『基礎四属性の相互関係』『基礎四属性の魔術初級』『四属性魔術のーーって四属性魔術の事ばかりね。光や闇に関する書物が凄く少ない。……そもそも、闇属性の書物は無い?)


『人間は本来闇属性は扱わないからな』


(そうだったわね希闇。……私、なんで全属性なのかしら)


『そなたは唯人と言うには特殊な存在だからな。全属性である方が自然とすら思える』


(……?どういう事?でも……全属性ってあの子もなのよね。メリー……)



  希闇が言う私が特殊な存在というのは多分、複数の前世を持つという点でだろうと想像できるが、もう1人の全属性メリーがなぜ全属性なのかは分からない。

  私が闇属性を持っているのは前世での希闇との関わりが影響しているのかもしれないが……。



(……メリーも前世で闇の精霊に関する何かと接触したり、契約したりしたことがあるってことなのかしら?人間には本来、闇属性は無いのでしょう?)


『可能性としては有り得るな……』


「フィリセリア様、こちらの基礎魔術書は読みやすそうです。一緒に読みませんか?」


「!ぜひ読みたいですわ」



  メリーの事で少し考え込んでいたがヴァシュロンに魔術書を読もうと誘われて、私はそちらに向かった。


  ……希闇に鼻で笑われたような気がするけれど、はじめての魔術書で気分が舞い上がっているのだから仕方ないわ。



  魔術基礎の本には『火』は『ピセ』、『水』は『レス』、『風』は『セレ』、『土』は『ラダ』など、それぞれの魔術の専門用語から丁寧に書かれていた。



「まるで、数学みたいね……。記号と数式を覚えていくようだわ」


「文法的でもあるよ。並びも間違えてはいけないようだね」



  例えば、火の玉を打ち出すのであれば

『ピセ(火)、ラ(力)、トルタ(打ち出す)、ルタ(発動)』


  順を変えて『ラ トルタ ルタ ピセ』と言ったところで火の玉は打ち出せない。


  さらに、魔術語を並べるだけでは魔術は発動せず言葉に魔力を乗せることで初めて発動するとも書かれている。


  そして、それぞれの魔術語と合わせて魔術陣に描く図形が描かれていた。

  魔術を発動させる際にはこの図式も正確に、頭の中で描き出せなくてはならない。



「暗記と反復練習が必須……のようね」


「でも、想像力や魔力操作がそれほど重要な感じはしないね。その点は楽かもしれない。なぜ、学院の授業に魔力操作が必須なのか疑問な程だ」


「ここまで魔術語が短いなら直ぐに発動できて、戦闘では助かりそう」


「いや……初級である火の玉はこの程度で済んでいるけど、きっと中級上級と上がると魔術語の並びも長くなるんだと思う。それにこれだって、火の玉は何発も飛ばすこと前提な魔術だから……」


「『ピセ ラ トルタ ルタ』を早口言葉……?し、舌噛むかもしれない……」



  魔法で火の玉を打ち出すのであれば想像力で補って一度に6弾などを1秒と経たずに打ち出せる事を考えると、かなり魔術の火の玉は効率が悪い。

  それに、魔術語を唱える事が必須となると術者の口を塞ぐ何らかの手立てで対策という事も容易いだろう。



「魔法が使える事を驚かれる理由が少しわかった気がするわ……」


「そうですね。口を塞いだところで魔法の発動は止められず、ましてその威力は魔術より強く早いとなれば、かなりの脅威と捉えられますね」



  私達は、魔法が使える事は絶対に隠すべきと決めてその日の魔術の勉強は終えた。

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