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18、規格外な平民の少女

  私達は騒ぎの起きた掲示板を離れて学院内にある庭園へと向かった。



「君は入学試験で全属性魔力に適正がある事で話題になっていたーー」


「ご存知だったんですか!嬉しいですヴァシュロン様に知ってていただいたなんて!」


「全属性の方が私以外にも居たのですね?」



  それなら私が全属性であることがあまり悪目立ちしなくて済むかもしれないと、ほっとしていたら……。



「なんであなたついて来るの?」


(………ん?)



  周辺に不審者は居ないはずだが、少女は何者かに気付いたとでも言うのだろうかと私は後方を確認した。

  そんな私に少女はため息を吐く。



「あなたよ。私はヴァシュロン様と2人でお散歩したいのに、なんであなたずっと着いて来るの?」



  どうやら少女は私のことを邪魔にしていたらしい。

  その事に私もヴァシュロンも唖然としてしまった。



「彼女も君を心配してくれたんだよ?そんな物言いは無いじゃないか」


「あっ!きつい言い方になってごめんなさい。せっかく2人きりになれるタイミングなのに邪魔されているからつい……」


「……2人きりになるために移動したわけじゃないよ」


「え?だって、あの場面は平民の私が高成績を収めたせいで逆上した貴族からヴァシュロン様が助けてくれるところで……この後は2人きりでの庭園場面でしょう?」


(何を言っているのこの子は……妄想癖かしら?)



  なんだか話が噛み合わないまま、私達は目的地にしていた庭園の東屋に辿り着いた。

  ようやく本題に入れると思い私は気持ちを切り替えて、早速彼女に話しかけ始めた。



「私はフィリセリア・レストルーチェと申します。こちらはティルス・シャルディルチア帝国第二皇子であらせられるヴァシュロン・ティルス・シャルディルチア殿下です。貴女のお名前は?」


「………」


「あの?」


「なんであなたが私に話しかけるの?ここはヴァシュロン様が私に話しかけてくれるところでしょう?」



  帝国の皇子であるという事を伝えたにも関わらずなおも名前呼びを続ける事と、私を邪険にする態度が酷く私もヴァシュロンも思わず表情を険しくした。



「な……なによ」


「ヴァシュロン様は帝国の第二皇子であらせられます。唯人が御名を呼ぶ事は大変な失礼に当たるのです。以後はお気をつけ下さいませ」


「名乗られたなら名乗り返すのが礼儀。まして、名を尋ねられたのに答えないなどあまりに礼節をかいているし態度があまりにフィリセリア様に失礼ですよ」


「なっ。学院では身分差別禁止でしょう!?名前で呼ぶのがそんなに悪い?そっちがおかしいじゃない。それに私は失礼な態度なんてとってません!」



  平民は大抵、貴族に対して失礼を働けば殺されるかもしれないと恐怖する。

  だが、少女にはそのような反応は一切見られない。



(学院では身分差別禁止になっているから気が大きくなっているのかしら……)


「確かに身分差別は禁止となっていますが最低限のマナーは守らないと、卒業と同時に報復を受けるという事にもなりかねないのですよ?学院内では大丈夫でしょうけれど、後の事を考えるとあまりに危険ですわ」


「他の平民達が貴族に逆らわないのも下位貴族が上位貴族に謙るのもその為。学院においては規則に守られているが、外ではその限りではありませんから」


「ぐっ……。でも、ヴァシュロン様はそんな方ではないわ!私だって他の貴族には気を付けるわよ!」


「……その言葉は看過できませんね。その物言いは、ヴァシュロン様を他の貴族より下に見ていると断言しているも同然ですわ」


「……はぁ、話題の少女に少し興味があったのに残念だね。フィリセリア様」


「ええ」



  私達は少女から先程の騒ぎの事や呟いていた『精霊』の事を聞くつもりでいたが、あまりに話が通じない為その場を去る事にした。


  ヴァシュロンが私に手を差し出し私がその手を取っていつも通り手を繋いでその場を離れる。



「なっ!ま、待ってよ!おかしいっ!この場面はこんな終わり方じゃないでしょう!?」



 ****


  私達は初めの予定だった図書館に向けて二人で歩いている。



「さっきの少女、そんなに話題になっていたのですか?」


「ええ。平民出でありながら魔力量も上位貴族並にあり、その上全属性であると。今回の学期試験を見たところ魔力操作性も高いようですね……」


「それでは私よりも優秀ですね」


「ふっ。何を言うのですか、お披露目の魔力測定でわざと手加減なさっていたのに」


「そ、それは周囲には伏せてくださいね?」



  お披露目の公式の場で行った魔力測定が虚偽のものであった事が知られるのは絶対に良くない。

  まぁ、知っているのがヴァシュロンや父様など身近な人達だけなので大丈夫とは思うが……。



「僕としてはもっとフィリセリア様の凄さを周りに知って欲しい気もしますけれどね?……彼女、今回の筆記試験で算学、語学において満点だったそうです。さすがに歴史は点を取れなかった部分もあり、なんとか合格ということろらしいですね」


「平民が学べる範囲を完璧にしていたという事ですか……とても優秀なのですね」


「ええ。もしかしたら次の学期試験の結果次第ではSクラスに上がってくるかもしれません」



  確かにそれほど優秀なら次の学期試験は学院で事前勉強をして備えてくるだろう。

  そして、次の学期試験で高成績を収めるならSクラス入りが確実だ。



「彼女が……、そういえばお名前は結局聞けませんでしたが、なんという名前なのかしら」


「確か……メリーだったかな?平民だから家名は無し。でも、これ程優秀なら貴族が養子にしたがる可能性が高いね」


「メリー……ね。同じ貴族となり同じSクラスとなるなら尚の事仲良くなりたいものですが……」


「クスッ。そういうところ、フィリセリア様のいい所ですね。あ、図書館はあの建物です」



  入口には太い装飾柱が並び、建物の周りも屋根を長く取るために柱が並んだり、窓を少なめにしたりと工夫して造られた建物は、日差しで本を痛めないようにする図書館ならではの造り。


  だからこそ他の建物と大きくその形が異なる図書館は、ひとつの芸術品のような美しさで学院内に建っていた。



「立派な建物ですね……」


「学院図書館には城で管理しなくてはならないものを除き全ての図書が集まると言われています。きっと魔術書も豊富ですよ」


「それは楽しみですわ!」



  私達は二人で学院図書館に足を踏み入れた。

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