17、剣術と魔力操作の試験3
魔力操作試験の順番は、他の受験者の試験の様子を観察している間にあっという間に回って来た。
列の順で私が先、ヴァシュロンがその次となる。
「魔力操作試験ではこちらの魔術具で的を射てもらうわ。的は土魔術で私が出すので順次撃ってください。制限時間は1分よ?では、構えて」
「はい。よろしくお願いいたします」
土の的は初めのうちは間を置きながら1つづつ出てくる。
私はそれを即座に撃ち出す石礫に魔力糸を付けて確実に当てていく。
(的は動かないもの、魔力糸での軌道修正ははじめの最低限でいいわ。即座に次に出るところを見極めて……)
その後、1度に出る的が常時2、3個となりその速度が上がっても私は的確に的を射っていく。
2、3個と同時に出る的に至っては石礫を同時発射で射抜いていくほどの余裕だ。
そして、最後には的が一気に8個出たが私はそれを8弾同時発射して、その全ての石礫に魔力糸による軌道修正を行い当て切る。
「…………全て命中。そんな、8弾同時だなんて……」
試験官は驚きに固まり、試験結果を言い渡すどころではなくなった。
私の試験をいつの間にかに見ていた左右の試験官も同じだ。
先に歓声を上げたのは列から試験の様子を見ていた生徒達だった。
口々に私の魔力操作試験を賞賛してくれるが、私はまだ試験官から合格を言い渡されていない。
「あの……先生。私は合格でしょうか?」
「え!?も、もちろんよ!大合格に決まってるわ!全弾命中な上、同時射撃!満点以上よ!」
「いやあ〜今回の入学生は怪物ーーいやいや、失礼。大物揃いだな!とんでもない逸材ばかりだ!」
サランディア令嬢をベタ褒めしていた試験官からも怪物呼ばわりされながら賞賛を受け、私の学期試験は終了した。
その後、ヴァシュロンの魔力操作試験を見届ける為に私はその場に残った。
サランディア令嬢は自身の試験を終えて早々に帰ってしまったが、試験後残って他の受験者の試験見学をするのは自由なのだ。
故に、私の試験を見学していた生徒もとても多かった。
そう待たずにヴァシュロンの番が回ってきて彼に木製拳銃が渡される。
「では、始めます」
「お願いします」
最初の1つ目の的は見事命中させてその後も3連続程ピンポイントで当てられたが、2つ出た段階で同時発射したうちの一つを外した。
直ぐに次弾を撃ち出して的をいる事が出来たが、1度外した事からヴァシュロンは連射方式に切り替えた。
だが、他の生徒達の行う連射とはまるでレベルが違う。
3射同時発射な上でのほとんどロス時間無しの連射は、もはや拳銃では無くガドリングガンだろうと思えてしまう程だ。
隙なく撃ち出される石礫に的は尽く撃ち抜かれ、その凄まじい連射撃は試験終了まで止むことが無かった。
「み、見事です殿下……」
「いや……1度外してしまったからね。その後も数撃って当てただけに過ぎませんから、命中率がいいわけではありません。まだまだ僕も精進が足りないようです」
「何をおっしゃいますかっ!あんな凄まじい射撃をして的も時間内に全て撃ち抜かれたではありませんか!それにあれ程激しく撃ち続けていたのに制限時間まで魔力を切らさないなど、どれほどの……」
「クスッ。賞賛はありがたく受け取っておきますね。でも、先生。僕はここでは一生徒です。そのように畏まった態度は取らないでください」
「は……いや、ああ。わかった。とにかく、文句無しの合格だ!」
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翌日に張り出された学期試験の試験結果は、当然ながら剣術魔力操作共に私は1位。
剣術は順位付けがそもそも無く合否のみ、魔力操作試験2位はヴァシュロン3位はサランディア令嬢、4位がレン令息となっていた。
「予想通りの結果ですね。さすがはSクラスというところでしょうか?」
「ヴァシュロン様。おはようございます。確かにSクラスは優秀ですね」
Sクラスの人達は筆記実技とも当然全員合格。
他の受験者も実技剣術は3割合格、実技魔力操作試験は2割合格、筆記試験は6割合格だ。
(上位クラスの人達は剣術も筆記も全員合格ね。魔力操作試験合格しているのも上位クラスの人達だわ)
「やはり貴族家は事前学習していたようですね。筆記試験で落ちたのは平民達と下位貴族達のようです」
「どうしてもお家によって教養を受けられる環境は決まってしまいますからね……」
この国にも平民が勉強できる環境として神殿学習くらいはできる。
だが、そこで教えてもらえるのは読み書き計算と教会に則した歴史くらいだ。
はじめの学期試験ならば試験範囲としてその辺は大体網羅できるが、歴史の知識が偏っているし地理の学習が出来ない為その部分が不足する。
故にどうしても平民の合格は難しいし、下位貴族もほぼ平民と同じような環境なのでそういう結果になるのだ。
私達が学期試験の発表掲示を見終えて、そろそろ魔術の勉強を始めに図書館に行こうかと言い出した時、騒ぎが起きた。
「なんで下賎な平民が合格で俺が落ちるんだ!ありえねぇ!」
「あゔっ!」
騒ぎの方に目を向けると薄紅色の髪に赤い瞳の小柄な女の子が、赤い髪に青い瞳の少年に蹴りつけられ蹲っていた。
私はそこ光景を見て皇城の湖でダビッド殿下に殴られた時の事を思い出し、まるで自分が暴力を振るわれたかのように一瞬息苦しくなった。
「なんて事を……」
「止めましょう!」
ヴァシュロンに声をかけられ私は彼女達の元へと向かった。
「お前っ!みたいな!やつが合格なんか!するから!俺の合格枠がっ!」
「うっ!あゔ!おね……やめ…。んぐ!」
「やめなさいっ!」
「やめないかっ!」
私とヴァシュロンは同時に飛び出して、ヴァシュロンは少年の前に立ちはだかり、私は少女の方に駆け寄った。
「大丈夫?今、傷を……あれ」
私はすぐに回復魔法を彼女に施そうとしたが、見ると既に回復魔法がかけられていた。
「だい……じょうぶです。ありがとうございます」
散々蹴り飛ばした女の子の傷が治っているのを見た貴族の少年は、その目に恐怖を宿して騒いだ。
「なんだよこいつ……気色悪いっ!勝手に治りやがった!魔族かこいつ!?」
「違っ……精霊さんが……」
「話しかけんな化け物っ!」
そう叫ぶと貴族少年はその場を走り去って行った。
周囲を少し見渡すとこの騒ぎのせいでかなり注目を浴びていたので、かなりの視線が集まっている。
先程までは少女を助けようか、哀れな彼女を可哀そうという感情の籠った目を向けていた周囲だったが、先程の少年の叫びの影響か少女に対して恐怖の籠った目線を向けていた。
「ヴァシュロン様……」
「ええ。場所を変えましょう。……大丈夫?歩けますか?」
私にそう言った後、ヴァシュロンは少女に手を差し出して安心させるように微笑んだ。
「ヴァシュロン様っ。はいっ!大丈夫です!助けてくださってありがとうございます!」
(……身分差別を禁止されている学院とはいえ初対面で殿下を名前呼びは失礼なのだけれど)
平民ならお披露目の宴にも当然行っていないし、入学時の実力試験でも今回の学期試験でも合わなかった為にヴァシュロンが第一皇子と知らないのかも知れない。
でもその割には事前に知っていたかのように『ヴァシュロン様』と呼んだ……、少しモヤッとしたものを感じながら少女とヴァシュロンと共にその場を離れた。




