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16、剣術と魔力操作の試験2

  他の生徒と同じくしばらく打ち合いが続くものと思っていたのだが、私の一太刀目で試験官の剣があっさり折れてしまった。


  その様子に試験官は信じられないといった様子で痺れる手元をただ凝視している。


  しばらく待っても試験官の先生が惚けたまま反応が無いので仕方なく声をかけた。



「先生?続けるのでしたら新しい剣を用意致しましょう?次の生徒達も待っておりますし……」



  ちらりと後ろを見ればだいぶ減ったとはいえ、剣術試験を受ける生徒達がまだ列をなしている。

 

  声をかけても反応の無い剣術試験の先生に困っていると、隣で試験官をしていた他の剣術の先生がその先生に声をかけてくれた。



「あ〜フィリセリア令嬢そちらだったんですね。カゲンディ先生、だから彼女は騎士団の者でも適わないほど規格外に強いって言ったではありませんか」


(規格外……なの?)


「そんなの……与太話だろ。ただの5歳児がそんな力あるわけ……」


「彼女の剣を受けてまだそれが言えますかー?」


「うぐ……」


「とりあえず、私だけで剣術受験者を捌き切るのは厳しいんで、いつまでも惚けていないで下さいよ。ほら、新しい剣です」


「あ……ああ」


(あ、新しい剣来たわね!)



  私はやっとまともな剣術試験をやってもらえると思い目を輝かせたのだがーー



「合格だ」


「え?あの……剣術試験のやり直しは致しませんの?」


「しない。フィリセリア令嬢は合格だ。この後も試験は続くのだから令嬢だけに全力を出して続きの試験が出来なくなっては困る!体力温存しなけりゃ長時間の試験をやっておれんのだ。さぁ、魔力操作試験が済んでいなければそちらへ行くといい」



  私は合格を言い渡され、期待と大きく違った事に少し肩を落としながらその場を離れた。

  続けてヴァシュロンの剣術試験があるので一応その場で見ていたが、ただ剣の基礎が出来ているかを確認するだけのものなので面白みもない。


  それでもしっかり基礎ができていることを試験官は褒めていた。



(当然よ。レストルーチェ騎士団で私が学んだことをヴァシュロンに教えたのだもの。はぁ……せっかく気合を入れて剣術訓練したのに無駄足になってしまったわね)



  剣術試験とはいえ5歳児の児童達の進捗を見るための試験。

  それほど難しい事を求めるはずが無いことは、考えればわかる事だったなとため息を吐いた。



「お疲れ様ですわ」


「ははっ……疲れる要素はありませんでしたけどね」


「まぁ……それもそうですわね。はぁ……レン令息が気落ちなさっていたのも納得ですわ」


「そうですね。まぁ、気を取り直して魔力操作試験の方へ向かいましょう」



  私達は2人揃って次の魔力操作試験の列へと向かった。


  ちなみにその直後、ヴァシュロンによってカゲンディ先生の剣は再び折られ同じ事を繰り返し、隣の剣術の先生に呆れられていた。

  その後カゲンディ先生も手加減しなくなってしまったので必然的に剣術試験の難易度が跳ね上がり、後続の生徒達はご愁傷さまである。


  魔力操作試験の方はほぼ全員が受けるので試験官が4人は居るのだが、そのどれもが未だ長い列をなしている。

 

  けれど、魔力操作試験も思っていたより回転が早く、私達は列を前へ前へと進む。


  最前列が見えてきたので、どのような試験を行っているのか見ようと少し身を乗り出すと、ちょうどミミラティス令嬢が隣の最前列で試験を受けるところだった。



「では、こちらの魔術具で的を射てもらう。的は土魔術で私が出すので順次撃つように。制限時間は1分だ」


「はい。わかりましたわ」



  そうやり取りをして試験官がミミラティス令嬢に渡したのはーー



(拳銃!?え?あるのこの世界に!?)



  その形を見てつい驚いてしまったが、よく見れば拳銃に形は似ているが引き金は無いしグリップも特に無い。

  そもそも、金属製では無く木製のようだ。



(……拳銃というよりゴム鉄砲の方が近いかしら?でも、あんな形の魔術具があるのね……)



  ミミラティス令嬢はその木製拳銃をかまえて、試験官の合図とともに試験官が作る的に魔術具を通して作られた石の礫を撃ち始めた。

 

  試験官の作り出した土の的にミミラティス令嬢の撃ち出した石礫がゴム鉄砲位の速度で飛んでいってサクッと刺さる。

  それがしばらく続き、試験時間が終わると結果は的を射れたのは3割ほどだった。



「命中率はそこまで高くないが、礫を作る速度は素晴らしかったぞ。合格だ」


「ありがとう存じます」



  どうやらこの魔力操作試験は魔術具へ魔力を伝える速度を連射速度で見て、撃つ回数で魔力総量、的を射る際の命中率で魔力操作性を見るようだ。



(命中率なんて、礫を撃つ瞬間にどうこうなるものでは無いと思うけれど……)



  そう思っていると、反対隣の列でサランディア令嬢が試験を受け始めた。

  魔術に長けるとされるライダンシェル公爵家ならば、魔力操作性も高いのでは……と思い、魔力視をかけながら試験の様子を観察した。


  先程のミミラティス令嬢の時と同じく木製拳銃がサランディア令嬢に手渡され、試験官が土の的を作り始める。

  それをサランディア令嬢が木製拳銃を通して作った石礫で射抜いていくのだがーー



(あっ!なるほど)



  サランディア令嬢の撃ち出した石礫は細い魔力の糸でサランディア令嬢の木製拳銃と繋がっていた。

  どうやらその魔力糸で石礫を少し操作可能なようで、撃ち出した後当たるか不安な石礫はその魔力糸により起動を修正した。



(魔力操作によって命中率を上げるのは分かったけれど、撃ち出した全ての石礫の起動を把握して魔力操作するなんて5歳児に無茶では……)



  実際サランディア令嬢はミミラティス令嬢の様に数を多く撃ち出して的を射るのでは無く、確実に的を射ながら1回1回を大事に撃ち出すやり方を取っていた。

  それでもほぼ正確に当てていくので、次の石礫を撃ち出すまでのラグもそれほど無い。



(さすがサランディア令嬢……というところでしょうね)



  サランディア令嬢の魔力操作試験が終わると案の定、試験官が大絶賛した。



「なんという命中率の高さ!その上、礫を作る速度も充分早い。さすがはライダンシェル公爵家のご令嬢だ」


「ふふっ。当然ですわ」


「サランディア令嬢が今回の魔力操作試験でトップだよ。いや〜素晴らしい。家紋に恥じないその努力、是非続けてくれたまえ」


「ええ。もちろんですわ!」



  試験を高評価で終えて上機嫌なサランディア令嬢が列の後方、私の方へと歩いて来て私が隣の列に並んでいる事に気付いた。



「あら、フィリセリア令嬢はこれから受けますの?っ!また、私の手柄を塗り替えて横取りするつもりね!だからこんな所に並んでっ!!」


「いえ、私は先程まで剣術試験の方にーー」


「いつも私の邪魔ばかりして!それはそれは気持ちいい事でしょうね最も賞賛を得て誰よりも目立てて!あ〜嫌らしいっ!ふんっ!」



  サランディア令嬢は私の言葉も聞かず捲し立てるだけ捲し立てると、闘技場をそのまま出て行った。



(飛んだ言いがかりなのですが……。会場を出て行ったのは私の試験を見たくないからかしら。

 まぁ、サランディア令嬢より目立つ事になってしまってサランディア令嬢にさらに何か言われるより良いのですが……)


「随分と彼女はフィリセリア様を目の敵にしていますね……」



  そう呟くのが聞こえたのでヴァシュロンの方を見ると、目が座って普段とは比べられない程冷たい顔をしていた。



(え!?ヴァシュロンのこんな表情はじめて……)


「あの……彼女は人一倍努力家な方で、それ故に他の人の評価に過敏なのですわ。私に限ったことではないと思います……多分」


「……そうですか。まぁ、フィリセリア様が良いのでしたら良いでしょう」



  その後もしばらく魔力視で他の生徒を見ていたが、サランディア令嬢の様に魔力糸を使って命中率を上げようと試みる者も居た。

  だが、その誰もがそれ程の精度でなかったり全然軌道修正出来なかったりする。


  そして、魔力糸を使う生徒はごく一部でほとんどの生徒は連射数を重視して的を射るようだった。



(こうして見ているとサランディア令嬢の魔力操作性は本当に高いのね……。サランディア令嬢のそういう努力家なところ……私は好きなのですがね……)

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