14、学期試験を合格する為に
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授業と学期試験の話が終わるとフリーデス学院長に案内されながら学院内の施設を見て回った。
正直、学院散策は昨日の内にヴァシュロンとしたので二番煎じだ。
だが、他のクラスの生徒達が担任に連れられて案内されているのと時々すれ違いながら学院内を歩き回るのもイベント的で少し楽しい。
「あれは、Aクラスじゃのう」
学院長がそう言ったグループには10名程の生徒が居た。
引率しているのは魔力操作試験の時の女の先生のようだ。
引率されるAクラスの列から視線を感じて私がそちらを見ると、ミミラティス令嬢が険しい顔をして私の事を見ていた。
(ミミラティス令嬢……?)
私と視線が合った事に気付くと彼女はふんわりと優しい笑みを向けて来た。
(睨まれている気がしたけれど、気のせいだったみたいね。もしかしたら、目が悪くてよく見ようとしていただけなのかも……)
学院案内が済むと一旦、Sクラスへと戻って来た。
「本日の日程はこれで終わりじゃが……この中で学期試験を受けたい者は居るかの?」
学院長がそう声をかければ、Sクラスの生徒は全員筆記試験も実技試験も受けると答えた。
それ自体は特に珍しい事でもなく、他のクラスでも入学翌日に学期試験を受けるのは恒例な事らしい。
とはいえ、その中で一発合格出来るものは毎年極一部。
それでも、早々に学期試験をして落ちたからといって特に失点も無いので皆受けるのだそうだ。
ちなみにSクラスの中で剣術の試験を受けないのはサランディア令嬢のみ。
レン令息はもちろん受けるだろうと思っていたが、剣術はあまり得意ではなさそうだったヴァシュロンも剣術を受講する気のようだ。
「皆、明日学期試験を受けられるよう儂の方で手配しておくでな」
明日の学期試験は闘技場で朝早くから行われる旨が学院長より告げられた。
学期試験についてはクラス分けのための実力試験と違い上から順にSクラスから行なわれるそうだ。
「上級クラスの者の方が予習をよくして来て居る事が多いでな、優秀な生徒の時間を無為に散らすのも惜しい為、上級クラスから順に行われるんじゃ。皆、明日の筆記試験頑張るんじゃぞ?実技試験は明後日行うからのう」
そう言って学院長は教室を出て行った。
すると、すぐさまヴァシュロンが隣の席から話しかけて来た。
「フィリセリア様、学期試験を終えたらどうなさるんですか?」
「クスッ。合格する前提なのですね?」
「当然です。フィリセリア様が合格できないはずありませんから」
ヴァシュロンの絶対的な信頼を少しこそばゆく思いながら私は答える。
「私は試験を終え次第、公爵家へ帰ろうかと思っておりますわ」
「え……?帰ってしまわれるんですか?」
私の答えを聞いたヴァシュロンはいかにも『そんな……』という感情が透けて見えるほど、落ち込んだ。
(あ……もしかして、友達と学院生活を過ごす事をとても楽しみにしていたのかもしれませんね……。でも、ここではこっそり1人で影移動して、冒険者活動に向かう事ができないのですよね……)
私が一人悩んでいるとヴァシュロンがぽそりと呟いた。
「来学期は魔術試験もありますし、学院の図書館には魔術書も多数あるかと思います。一緒に魔術の勉強をと思っていたのですが……」
「魔術っ!やりたいですわ!魔術の予習!」
(冒険者活動よりそちらの方がとっても気になりますわ!だってやっと魔術を学べるのですもの!)
ヴァシュロンはコロリと態度を変えた私を一瞬驚いた顔で見た後、クスッと笑った。
「良かった。では、試験後も公爵家へ帰らず学院にいてくださるんですね?」
「ええ!一緒に魔術の予習頑張りましょう!あ、一緒に魔術の勉強をする為にはまず試験に合格しなくてはなりませんね……」
ヴァシュロンは剣術の試験も受けると言っていたが、今の実力では恐らく剣術の試験を合格することは難しいだろう。
それくらい、ヴァシュロンの剣術は身体強化による力押しで速さを上げただけのものだった。
「ヴァシュロン様。明後日の剣術試験合格のために早速、剣術の訓練を致しましょう!」
「え?」
「さぁっ!闘技場はこちらでしたわよね!」
そう言って私は勢いのままヴァシュロンの手を掴み、闘技場へと向かって行った。
****
翌日、今日は筆記試験が行われる。
昨日はあの後、ルチアにも手伝ってもらって休みなく剣術の指導をヴァシュロンに施した。
ヴァシュロンの目尻に涙が浮かんでいた気もするが、そんなに辛い訓練メニューだっただろうか?
だが、昨日の剣術試験対策でヴァシュロンの剣術の動きは一応基礎を抑えた。
やはり飲み込みが早いのはヴァシュロンの才能だろう。
今日の試験後もさらに応用を効かせた剣術訓練をヴァシュロンにしてあげようと考えながら、私は筆記試験が行われるSクラスに入る。
試験前の試験対策勉強を直前で慌ててする者など誰も居らず、皆なんでもない様子で着席していた。
「おはようございます皆様」
「おはようございますフィリセリア令嬢」
「ええ。おはよう」
「おはようございますフィリセリア様」
(あ、今日はサランディア令嬢も挨拶を返してくれたわ)
その後、それ程待たずに学院長が入室して来て筆記試験が開始された。
筆記試験は歴史、算学、語学、地理など基礎的なものだ。
それらを時間を区切って科目ごとに筆記試験が行われる。
(5歳児になんて無茶なスケジュールでしょうね……)
科目の合間に休憩時間が取られているとはいえ、筆記試験の時間自体がそれなりに長い。
それでも集中して取り組める当たりさすがは貴族子達である。
平民の子ではここまで集中力をもたせることは出来ないだろう。
まぁ、この年齢に対して無茶な試験の仕方をするのは学期初めに学期試験をする事を希望した者だけ。
そのような学期試験の受け方をしない者達はもっと余裕のある試験の受け方をするので、希望した者の自己責任と言える。
筆記試験は午前いっぱいかけて行われた。
Sクラスの皆を見たところ他の皆も今日の筆記試験には自信があるようだ。
学院長が教室を出ていくと、私はすぐさま隣の席のヴァシュロンに話しかけた。
「ヴァシュロン様!本日の剣術訓練をしに行きましょう?」
「あ、はい……そうですね」
「あの、フィリセリア令嬢」
私がヴァシュロンを剣術訓練に誘うと、後ろの席からレン令息が声をかけてきた。
「私もその剣術訓練、参加してはなりませんか?明日の剣術試験もありますし、今日は剣を振っておきたいと思っていたのです」
私は受けてもいいだろうかとヴァシュロンの顔を伺うと、ヴァシュロンは意外にも少し嫌そうな顔をしていた。
(あら……まだ、剣術に自信がなくてレン令息に見られるのが嫌なのかしら?うーん……剣を振ってないと鈍ってしまうし明日試験だから訓練しておきたいという気持ちも分かるのよね)
「ヴァシュロン様、レン令息もご一緒でよろしいですか?」
「……フィリセリア様はいいの?」
「え?ええ。私は問題ありませんけれど」
私がヴァシュロンに尋ねると、彼は少し拗ねた様子で私はいいのかと聞いてきた。
それに問題ないと答えると、ヴァシュロンは残念そうにため息を吐いた。
「はぁ。フィリセリア様がいいのなら良いですよ」
ヴァシュロンの許可も得たので3人で闘技場へ移動して、剣術訓練をする。
闘技場は授業使用時意外いつでも使っていい事になっているが、今日は他の学年クラスまだどこも試験が終わっていない為か私達のみの貸切状態となった。
私はヴァシュロンに付きっきりで剣術の指導。
レン令息は少し離れたところで素振りや型のおさらいを一人で行う。
ヴァシュロンには昨日と同じくルチアに手伝ってもらいながら休み無しで指導を施していた。
その様子を見ていたレン令息が一つ疑問を投げかけてきた。
「ヴァシュロン殿下もまるで疲れていませんね?」
「「…………」」
昨日の流れのままルチアに手伝ってもらいつつ剣術訓練をしていたが、剣術訓練をまるで疲れることなく休み無く続けるなど普通は考えられない。
現に剣術訓練に慣れているレン令息も少し息が上がって、今は休憩をとっていた。
(……理由を言ったら実技試験の時、私が疲れていなかった答えが回復魔法だとバレてしまうかしら。それどころか、ヴァシュロンの契約精霊であるルチアが試験の時に私を手伝ったと誤解されてしまうかも?)
『実技試験の時にズルをした』『殿下に贔屓されている』など思われるかもしれないと思い、つい言葉が出なくなってしまった。
私が言葉に詰まって黙ってしまっていると、ヴァシュロンがレン令息にあっさりと答えた。
「契約精霊である光の精霊に回復魔法をかけてもらっているのです。そのおかげで訓練中休みを挟まなくても動き続けられるのですよ」
(あ、あわ。あわわ!?)
「もしや、実技試験の時フィリセリア令嬢は……」
(そう思いますよねやっぱり……!)
「実は彼女もまた光の精霊と契約をしているのです」
「え……?」
「ひぇあ?」
「クスッ。フィリセリア様までなんて声出してるんですか……クスクス」
それからヴァシュロンは、フィリセリアも自分ほどの大精霊では無いが光の精霊と精霊契約をしており、試験の時はまだ意思疎通の上手くできない光の精霊が勝手に彼女の事を回復させてしまっていたのだと説明した。
「なるほど。だから、試験後に殿下に指摘されて驚いていたのですね。まさか、フィリセリア令嬢までも精霊魔法士だったとは……」
「ゔ……剣術の試験で光の精霊が手を貸してしまうなんて、本当の実力ではありませんよね……」
少し嘘をついている罪悪感と剣術好きそうなレン令息に『そんなものに頼ってズルするなんて剣への冒涜だ』などと言われるやもと心配になったがーー
「いえいえ、契約精霊の力は本人の実力の内でしょう。確かに非難する者も居るかもしれませんが、私は構わないと思いますよ」
あっさり精霊の力も含めて本人の実力だと認めたレン令息に私はキョトンとしてしまった。
「レン令息。フィリセリア様が精霊契約している事は周囲には伏せておいて欲しい。精霊術士であれば少数ながら知られているが、精霊魔法士ともなると物珍しさに不用意に狙われかねないのだ……」
ヴァシュロンがそう言うとレン令息は即座に片膝を着き、その場で臣下の礼を取った。
「わかりました。レン・ガルマ、この事は他言致しません。フィリセリア令嬢もご心配なさらず」
「ありがとうございますレン令息」
誤解させての解決だが、何とか丸く収まった事に私はホッと胸を撫で下ろした。




