表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/168

11、剣術試験

  案内人に連れられて闘技場へ移動すると、既に剣術試験は始められており、中位貴族子が試験試合を行っているところだった。


  剣術指導の先生相手に木刀を構えた貴族子が挑んで行く。


  5歳になるまでに家で剣術の指導を受けていたのであろう彼らは、剣の構えなどは一応さまになっている。



「お家で剣術を習っていたのでしょうね。ちゃんと型にはなっているようですわ」


「騎士を目指す貴族子達は皆、3歳頃から体力作りをして4歳から剣を習う。剣術を習い始めてようやく1年というところだからやっと型を身に付けたというところだと思うよ」


「そうなのですね」



  型は出来ているが動きはそれほど追い付いておらず、剣道初心者の打ち合いを見ているような試合がその後も続いた。


  だが、時折鋭い動きの出来る者が剣術指導の先生に攻めていくので彼らは剣術の才能がある部類なのだろうと思う。


  まあ、皆あっさり返り討ちに合っているが……。


  高位貴族子の番になると、血筋によって優位性が違うのか先程の子供達より鋭い動きをするものが多くなった。



「やはり、騎士を多く排出する名家の子供は動きが違いますね」


「同年代でも既に差が出ていますね」

 


  幾人か女生徒も剣術試験に挑んでいたが、やはり名門出の子女は動きが良い。

  まだまだ、男女に実力差が出る歳ではない分、むしろ上位の実力と言える者もいる。


  次に剣術試験の先生に挑むのは、恐らく今年の入学生の中で最も剣術に長けているであろうレン・ガルマだ。



「ガルマか、いい手合いだな。始めよう」


「よろしくお願いします」



  レン令息は剣術の先生に挨拶をすると木刀を両手で正面に構える。



(剣道の構え……やっぱりガルマ公爵家ってどこか日本っぽさがあるわね)



  3つ息を置いたくらいのタイミングで同者動き出して、剣の打ち合いが始まった。


  剣術試験の先生も難なくレン令息の剣を避けていくが、レン令息の剣を流す動きもとても洗練されている。

  レン令息の流れるような動きは、持っている武器は試験用の剣型の木刀であるのに、刀を持っているように見えてくるほどだ。



(多分、刀が本来使い慣れている武器で剣は不慣れなんじゃないかと思うけど……いい動きだわ。でも……)



  レン令息も途中までは余裕で剣を流し鋭く切り込みいい動きをしていたが、試験が長引くほど徐々に動きが鈍っていった。



(さすがに体力の限界のようね……)



  レン令息は負けじと剣を構えるが既に体力的に辛く、膝がガクガクしている。



「ここまで!よく頑張ったな。ここまでやれるとは期待以上だ!」



  剣術試験の先生がそう言うとレン令息はホッとして、その場に崩れ立膝になった。


  そんなレン令息に剣術試験の先生は手を貸して、他の先生にレン令息を任せる。


  そして、剣術の先生はヴァシュロンの方を向いた。



「ヴァシュロン殿下、最後に……」


「いえ、まだ最後ではありませんよ。フィリセリア様、お先にどうぞ」



  剣術試験の先生が他の貴族子達の剣術試験を終えてヴァシュロンに声をかけると、彼は私を指名した。



「わ、私ですか?」


「あれ?受けないつもりでした?あんなにお強いのに」



  ヴァシュロンに魔力指導をしていた時、身体強化した上で魔法の撃ち合いを訓練に取り入れていたので、剣術もいけると思われているようだ。


  確かに冒険者活動の時は剣も扱うし、ここに居る子供達よりは確実に強いだろう。

  だが、公爵令嬢としては剣術の面で目立つ必要は無い。



(対外的には完璧な公爵令嬢、実は剣術や魔術にも優れた隠れ実力者で良いんだけれど……。剣術や魔法技術を磨くのは未来の不安からであって、世間で目立ちたいからでは無いし)


「殿下がそれほど認められるとは……是非やってみては如何かな?フィリセリア令嬢」



  ヴァシュロンに名指しされた上に剣術試験の先生にまでそう言われては引けない、仕方無く剣術試験を受ける事にした。



(文武両道令嬢を目指すと父様には言ってあるし、初志貫徹……よね)


「よろしくお願いいたします」


「では、好きに攻めてくれ」



  先生がそういうので私は全身身体強化をかけてすれ違いざまに先生の木刀を打つ。


 ガッ……カラン



「「………」」


「あら?先生、構えが緩すぎでは?」



  真っ直ぐ走ってそのまま先生の剣をはね上げ、剣術試験の先生の後ろに回った私は、振り返ってそう言った。


  剣術試験の先生が構えていた木刀は、中に跳ね上がった後、床に転がっている。



「さすがだねフィリセリア様」



  静まり返って誰も言葉を発さない中、ヴァシュロンだけが拍手しながら私を褒めてくれた。



「いえいえ、試験だからと先生が手加減なさったのです。先生、せめて何度か打ち合った方がいいかと思いますし、もう一度やりましょうか?」


「あ……ああ。はい。やりましょうか?」



  仕切り直してもう一度、私の剣術試験を行う。


  さすがに先程の事があったので剣術試験の先生も真剣に挑む様子だ。



「フィリセリア令嬢、こちらから行っても?」


「ええ。いつでもどうぞ」



  私が返事をしてから1拍置いて先生は剣を構えて向かって来た。

  だが、私はその剣を簡単に受け止めて2発3発と続く先生の剣も問題なく受ける。


  そして、5発連続で悠々と受け切った後、瞬時に先生の後方へ回って剣を振るが、それは先生に受け止められた。



「先程は油断していたが、そのような手に引っかかるほど初ではない」


「ですよね!」



  鍔迫り合いになっていた状態を私は先生の剣を弾いて解除し、後方に飛んで距離をとる。



「まだ行けますか?」


「もちろんですわ!」



  そこからはひたすら打ち合いをし続け、速度をどんどんと上げていく。


  もはや観戦している生徒や先生方には目で追う事が難しい程の打ち合いとなっていった。



「さすがだねフィリセリア様。まだまだ、先生の剣を余裕で防いでる。むしろ、先生の方が辛そうかな?」


「で、殿下はあれが見えるのですか?」


「ええ。目に身体強化をかけてますから。まぁ、このくらいの速度なら身体強化をかけなくても見てますけれどね?」


「「!!」」



  さらりと身体強化をかけ中であるとヴァシュロンが言うと、周囲のもの達はみな驚き振り返った。



「クスッ。何を驚くことがあります?フィリセリア様は試合開始からずっと身体強化をかけ続けているのに」


「「!!」」



  そう言われて次は皆の目線がフィリセリア様に移動する。



「当然でしょう?身体強化をかけていないただの5歳児が剣術の先生相手にあんな動きを続けられるはずないじゃないですか。(まぁ、彼女は更に別のこともやっているようだけど)」


「まっ!まい……けほっ。ここまでっ!」



  剣術試験の先生が息を切らせ咳き込みながら試合終了を告げた。


  そして、剣術の先生はそのままその場に倒れ込む。



「大丈夫ですか先生?試験ありがとうございました!」



  対して全く疲れた様子を見せず試合のお礼を先生に言う私に、周囲の人々から異様なものを見るような目線が集中する。



「……?」


「あんなにやり合ったのに息一つ上がっていないんだね?みんなその事に驚いているんだよ」


「………あ」


(いつもの癖で回復魔法をかけながら剣術試験を受けてしまってましたわ!)



  最近は白妃のお出かけも多いので、冒険者活動の時に自分で回復魔法をかけて疲労を無くしていた。

  その習慣のまま、剣術試験の間全身身体強化と一緒に無意識に回復魔法をかけていたようだ。



(剣術試験の先生と渡り合う程の動きをした上、先生が息を切らすほどの打ち合いに全く疲れを見せない怪物と思われてる……)



  もう誰も深窓の完璧令嬢とは思わないだろう。


  完全に剣を持たせたらやばい脳筋令嬢と思われたと私は項垂れた。



(いや、文武両道令嬢としては正解?……いやいや、剣術の先生を初対面で打ち負かして疲れすら見せてないってその程度を超えてるわよね?)



  私が悩み続けているとヴァシュロンが試合を労ってくれた。



「良い試験試合だったよ。さすがだねフィリセリア様」


「……やりすぎましたわ」


「とても楽しそうだったよ」


  (楽しそうに剣を振り回して剣術試験の先生を倒すなど、脳筋令嬢以外の何物でもないのではー!?)



  再び打ちひしがれる私を見てニコニコと笑っていたヴァシュロンは、床に倒れ込んでいる剣術試験の先生を見下ろした。



「先生、僕の剣術試験はどうしたらいいですか?」


「ご、後日でもーー」


「私が代わりにやろう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ