10、魔力操作試験3
監督の先生が新しく持ってきた魔道具がヴァシュロンに手渡され、彼の試験が行われた。
私はその様子を魔力視で観察する。
(私の指導がなくなってからもちゃんと魔力操作の訓練は続けていたようね。あの頃より上達してるわ)
ヴァシュロンもあっさりと魔道具に魔力を込め終えて、その後繊細に魔力を操り形作っていく。
「出来ました」
「はい……こ、これはまた見事なっ!これはもしや?」
「僕の契約精霊を作り上げてみました」
作り上げられたのは、程繊細に作られた光の精霊ルチアの模型だ。
模型ゆえに目に光が無いのだけが残念だが、色付けをしたら本当に本人と遜色ないだろう出来栄え。
その場に居た誰もが感動の声を上げた。
「おお。なんと素晴らしい魔力操作の精度……殿下には魔術士としての才能がおありか!」
「学院長、フィリセリア令嬢の魔力操作精度も大変素晴らしくーー」
そう言って感動している学院長に、監督の先生が先程の私の模型を見せた。
「なんとっ!ほう、ほほーお!今年は大変優秀な魔術士が多いようじゃな!コフィダリダ!2人を借りても良いか!」
「は、はい。魔力操作性試験はこれで全員済みましたのであとはーー」
「では行こうお2人ともっ!」
わくわくが抑えきれないという様子の学院長に手を掴まれて、私とヴァシュロンがその場から連れ出される後ろから、監督してくれたコフィダリダ先生の声が聞こえた。
「学院長っ!この後、剣術の実力試験もありますから、用が済みましたらそちらにっ!」
「わかっておるー!」
(お年の割に元気な方ね……眩しっ)
私とヴァシュロンは学院長の頭頂部の眩しさで、目を瞑ったまま手を引かれどこに向かうかも分からないまま連行された。
****
日陰を通る度に見える学院長の後ろ姿、そして光を浴びる度に発光源より眩しいのではと思えるほどの目潰しを受けることを繰り返して、たどり着いたのは学院長室だった。
「早速じゃがーー」
「ちょっとお待ちくださいませ!」
私は頭頂部で部屋の明かりをこれでもかと膨張させたまま話を始めようとする学院長を止めて、魔収納からシャルトウルフの毛皮を取り出した。
「魔収納まで習得しておるのか!おおっ!」
私はシャルトウルフの毛皮に錬金術をかけ、作り上げた物を急ぎ学院長の頭に乗せる。
それでようやく部屋の光量が本来の状態に戻った。
「なんじゃ?これは……ふぉ?ふぉおおおお!?」
学院長は自分の頭に何を乗せられたのかと手で探り、そしてその触り心地に驚きと感動の混ざった声を上げた。
「まさか……これは……儂の髪かっ!!」
「いえ、作り物ですわ」
急ぎ作りあげ学院長の頭に乗せたのはシャルトウルフの毛皮製特製カツラだ。
肩にかかるくらいの丈のブルーグレー色のカツラは、学院長の血縁であるレンズ・フリーデス副ギルド長の髪色を意識してそれにした。
(あまりの眩しさに我慢ならなくて作ってしまいましたわ……)
目の前では、突然復活した自分の髪に感動している学院長が、カツラの毛を撫でまくりながら感動の声を上げ続けている。
「凄いですね……まさか、魔光源マイヘアの魔光をこんな風に抑えられるなんて……」
「な、なんですの?その名前……」
「学院長を知る者はみな彼のことを魔光源と呼んでいるのです」
「凄い二つ名をお持ちでしたのね……」
私達が小声でそんな会話をしていると、カツラを撫でたり指で梳いたり毛先を紐で結んでみたりと堪能していた学院長は一応満足したようでこちらへ来た。
「大変素晴らしいっ!ありがとうっ!ありがとうフィリセリア嬢っ!!」
そう言って学院長は私の両手を取りブンブンと振った。
「よ、良かったですわ喜んでいただけて……」
(こちらの目の為に思わずやっただけですけれど……)
「画期的じゃっ!髪が蘇っただけで30歳は若返ったようじゃっ!」
(作り物ですので髪は蘇ってませんわ)
悲しい現実を口に出して告げそうになるのを抑え、胸に留める。
ブルーグレーの髪があるとレンズ・フリーデスにやはりどことなく似ており、血縁者なのだなぁと改めて思いつつ話を進めさせた。
「学院長、なぜ私達二人をここへ連れて来ましたの?」
「うむ。魔力操作精度に抜きんでた実力を持つそなた達を儂の弟子にしようかと思うてな」
「魔術師団師団長の弟子ですか」
「ふぉふぉ。こんなにも魔術士としての素質がある方ならば、陛下から殿下の師となる打診があった時に二つ返事で受ければよかったのう」
魔術師団師団長の弟子。
これ程、魔術士として大成することが約束される地位もないだろう肩書きだ。
現、魔術師団師団長であるマイヘア・フリーデスは魔術知識も魔力量も魔力操作性においてもこの帝国随一の人物。
正直、あまり目立ちたくは無いのだがダビッド殿下の婚約者にされてしまった以上、それももう……。
いや、評判が悪ければ婚約破棄も……それはそれで良くないのだが……。
弟子になったら時間的な拘束があるのでは ……、それだと自分の魔法訓練や冒険者活動の時間が減ってしまう……。
(魔術士として名を馳せたいとは思っておりませんわ。時間的な拘束も増えると冒険者活動の支障にも色々やりたいと思っている便利道具作成研究にも支障が出そうですし……)
そんな悩み込んでいる私の様子を学院長は理解できない様子で不思議そうに、ヴァシュロンはにこやかに見ていた。
「フィリセリア様はあまり乗り気では無いようですね?」
「あっ!あ、えと……お話自体は有難いものと分かってはいるのですが……」
「ふむ。残念ではあるが、無理強いはせんよ。まだ若い。これからやりたい事も色々とあるのじゃろ?気にするでない。ただ……」
「ただ?」
「魔術に関して何か知りたい事や手を借りたいことがあればいつでも儂のところに来るが良い。そなたならば歓迎しよう」
「あ、有難うございます!」
ヴァシュロンは学院長の話を受けて、学院長の弟子になる事を選んだ。
その後、学院長が剣術試験のある闘技場まで案内する従者を用意して下さり、私もヴァシュロンも闘技場へと向かった。




