8、魔力操作試験1
先生方の誘導で移動した先は白壁造りの円形の闘技場だった。
何となく家にある魔法訓練場に似ているので、父様はこの修学院の闘技場をモデルにあの訓練場を設計させたのかもしれない。
(使い慣れた魔法訓練場に似ているので何となく過ごしやすいかもしれませんね。その辺も父様が配慮なさったのかしら?)
実力試験の為に用意された魔道具は土魔法と魔石を組み合わせて作られている物で、魔力を込めることで形を自由に変えられるという物だった。
魔道具は球体型、大きさはサッカーボール程だが、大きさの割にそれほど重くは無くただの土の塊というより紙粘土の様な感じだ。
私達は指示されて実技制服に着替えている。
普段用の制服も動きやすいように作られており、女生徒のワンピース型制服も実は下に短パンを履いているのだが、実技をやる時は皆着替えるのだ。
剣術実技の際に着替えるのはもちろんだが、魔術実技でも着替えるのは何か不測の事態があった際に直ぐに逃げられるようにという配慮だ。
私達を担当する先生は、深緑の髪を後ろでお団子にした緑の目をした女の先生だ。
「これを使って魔力操作力を試験します。魔力をしっかり全体に伝えること、形を実現するだけの魔力操作などを見ます。モデルの模型も用意してありますから、それを見ながら再現してください」
闘技場内には角兎やシャルトウルフなどの模型が並べられており、それらを用意された魔道具を使い再現すれば良いらしい。
既に下位、中位、上位の貴族にそれぞれ別れているので順番は直ぐに回ってくるだろう。
(魔力操作力ね……ヴァシュロンにはその辺りしっかり学ばせてあるから、きっと優秀な成績を収めるでしょうね。なら、私もそこそこの物を作ってもそんなに目立たないかも?)
順々に行われる実力試験を見ていると皆、意外にも丁寧に魔力を込めることは出来ていた。
だが、形にする為に魔力操作するところに苦戦するのはようで大雑把な形にしかならない。
(初めてまともに魔力を扱う割には上手なんじゃないかしら?上位貴族の子供はそういう訓練も受けて来ているのかもしれないわね)
順番が周りミミラティス令嬢の番になる。
知合いなので是非とも頑張って欲しいと見守ったが、卵型に長い角が3つ生えた角兎が出来上がっただけだった。
それでも、これまでの試験者達より上出来だ。
****
試験は続き、残すはサランディア令嬢と私、ヴァシュロンを残すのみとなった。
「この試験がある事は聞いてましたもの。しっかり対策はして来ましてよっ」
そう言ってサランディア令嬢は自信満々に前に出て先生から魔道具を受け取る。
自信満々なだけあって魔力の込め方は丁寧でしっかり魔道具全体に魔力を行き渡らせている。
そして、魔道具を持った両手をシャルトウルフの模型に向けて伸ばし、模型をよく見ながら形作っていく。
サランディア令嬢はしばらく集中し続けて、納得がいくまで魔道具の形を弄り続けた。
「出来ましたわ!」
「おおっ!!見事な出来栄えですね!」
「すごい……こんなにちゃんと形になるんだ」
「素晴らしいですわ!」
サランディア令嬢の作ったシャルとウルフはしっかり足が4本、尻尾や耳、毛のギザギザまで表現してパッと見でシャルトウルフとわかる物になっていた。
それを見た先生も周囲の試験者も皆、彼女を絶賛する。
「どうですっ!私の魔力操作力すばらしいものでしょう!」
そう言いながらサランディア令嬢は作った模型をズイっと私に見せつけて来た。
「ええ。大変素晴らしいですわ。とても努力してらしたのね」
「ふふふっ。当然よ!私はライダンシェル公爵家の長女ですもの。見合う努力をするのは当然の事なのですわ!」
私が素直に褒めた事が嬉しかったようで、サランディア令嬢はとても上機嫌な様子で魔道具を先生に返す。
「では、次はフィリセリア・レストルーチェ令嬢、どうぞ」
先生がサランディア令嬢から受け取った魔道具を元の球体型に戻してから、次の試験者である私に差し出す。
「ありがとう存じます」
私は魔道具を先生から受け取ると、さっそく魔力を込め始める。
(あ……思っていたより魔力の通りが良くないのね?となると今までの試験者達の丁寧な魔力の込め方は、魔力を込めにくいからゆっくりなだけだったのかもしれないわね)
私は魔力の通り具合を確認し終えると、直ぐに魔力を魔道具全体に均等に行き渡らせる。
そして、模型の中で特に気に入ったドラゴンの模型をモデルにして形作っていく。
(ある程度、想像で作られた模型なのかしら……なんだか、実物のドラゴンにはちょっと似てないのよね。ドラゴンはもっとこうーー)
ドラゴンをすぐ近くで見た事のある人間はそういないので、予想通りこの模型は伝承や人の話を元に作られた物。
形こそドラゴンの形をしているが、細かな部分はかなり適当な物だ。
私はその形を元に普段目にしているガミルダや初めて会った時の威厳などを思い出して、魔道具に表現していく。
試験中はジロジロと覗きこんで集中力をと切らせてはいけない為、完成までは試験官である先生も手元を覗き込んだりはしない。
私は自分が納得するまで魔道具を弄ると先生に完成品を差し出した。
「出来ましたわ」
「え……ええええええええええええ!?」
「何あれ!」
「すごい!模型より格好いい!」
「鱗も翼も全部まるで本物みたい!見た事ないけど!」
先生は驚愕し、試験者達は大絶賛した。
私が作り上げた魔道具のドラゴンはモデルの模型のような最低限の形だけ保ったものではなく、鱗も翼も爪の鋭さも目付きも全て実物のドラゴンに似せたもの。
模型でありながら生きているかのような存在感と威厳を感じる程の作品となっていた。
「こんな……す、直ぐに学院長をーー」
「待ってください先生っ!」
先生が何やら混乱して学院長を呼びに行こうとしたので、私は慌てて呼び止める。
「まだ、ヴァシュロン殿下の試験が残っているのですよ?」
「ああっ!!そうでした!た、大変申し訳ございません殿下っ!」
「いえ、お気になさらず。これ程見事な実力を見せられては、混乱する事も病む負えませんよ」
ヴァシュロンがにこやかにそう言うと先生は改めて頭を下げ、それから私の作ったドラゴンをじっと見た。
それを見てヴァシュロンがクスリと笑う。
「それ程の模型、崩すのはあまりに勿体ないことでしょう。代わりの魔道具を用意してくださるまで待ちますから、そちらは元に戻さずとも良いですよ」
「ありがとうございます殿下っ!す、直ぐに代えの魔道具を御用意致しますのでっ!」
そう言うと先生は私の作ったドラゴン型の魔道具を持って、急ぎ代えの魔道具を取りに行った。
「なんですの……」
試験者の多くがまだ興奮覚めやらぬ状態の中、令嬢の低い声が異様に響いた。
その声を聞いてつい先程まで興奮の声を上げていた上位貴族子達が静かになる。
「私の事を馬鹿にしてましたの?」
「サランディア様……」
「何が『大変素晴らしい』?何が『とても努力してらした』?ちっともそんな事思ってもいなかったくせにっ!!」
そう言ってサランディア令嬢は憎しみの籠った顔で私をキッと睨みつけた。
「私の事を小馬鹿にしてっ!!自分の方がはるかに実力ある事をわかっていてあんな舐めた事をっ!」




