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7、帝国立修学院入学式

  修学院の正門を馬車で抜けて、正面に見える最も大きな建物に向かう。


  大きい石扉を超えた先は、きっと城壁と同じく石畳で堅実な印象の風景が拡がっているものと思っていたが、以外にも木々や花壇も多く色鮮やかだった。

  木々に咲き誇る花は桜に似ているが単色で薄紅色ではなく、中心は薄紅で花びらの先の方は淡黄色の花だ。



(これが、ここでの春の花代表なのかしら……綺麗)



  馬車の中から花々に見とれていると門から見て正面の大きな建物、修学院本館に着いた。

  本館前には他の貴族子達を載せた馬車も何台か停留している。



「では、フィリセリア様行ってらっしゃいませ!私は寮のお部屋の方へ向かい、荷物を整えてお待ちしております」


「ええ。そちらはお願いね?行ってくるわ」



  私は御者に手を貸されて馬車を降りると修学院本館へと歩いて行った。



 ****


  本館入口に立っていた案内係について行き入学式の行われる大ホールへと向かう。


  大きめの扉が3つ並んでおりどれも開け放たれていた。

  案内のまま先へ進むと見えてくる景色に目を奪われた。


  天窓にも会場を囲む窓にもステンドグラスが使用されていて、シャンデリアも見事な物。

  壁は土魔術により作られた白壁で、その上から金装飾がなされていたり、色とりどりの天然石により鮮やかに飾られている。


  手前にたくさんの紅い布張りの椅子が並び、奥に扇形の舞台、その周りも囲むように座席が並び、舞台の2階にはパイプオルガンが見える。



(すごい……まるでどこよりも立派な演劇場ね)



  少し進むと一気に開放感が増して、後ろを見ればホールの半分からは2階席がある事がわかった。



「あちらは卒業式などの際、親御様が御着席なされる席でございます」


「なるほど」


「ちなみに舞台横に見えますテラス席は、皇族のみのご使用となる御席です」



  扇形の舞台の上にあるパイプオルガン、それより少し離れて左右にテラス席があり、そのどちらも皇族用らしい。

 


「さぁ、こちらへ」



  案内係について行き、入学者用の最前席へ向かう。



「いらっしゃいましたのねフィリセリア様」



  先に到着していたサランディア令嬢が、座席に座るため歩いて来た私に向け、いかにも嫌そうな顔でそう言った。



(外でそのような表情をしてしまうとは、やはりサランディア様はまだまだ幼いですね……て、5歳児なのだから当然よね)



  高位貴族の子供は物心つく頃から厳しくしつけられ礼儀正しく育つので、年相応の態度がどうしても稚拙な態度に見えてしまうが、周囲が大人びているだけだ。


  私は指定されている席がサランディア令嬢の隣だったので、案内係に手を借りながら座席に着く。



「ええ。本日から同級生としてよろしくお願いしますねサランディア様」


「よろしくなんて……」



  私が笑顔で挨拶をすればサランディア令嬢の表情はより悪化した。


  だが、サランディア令嬢が更に何か言い出す前に最後の入場者が現れた。



「ティルス・シャルディルチア帝国第二皇子ヴァシュロン・ティルス・シャルディルチア殿下入場っ!」



  入口の案内係の入場知らせの声を聞いて、座席に座っていた入学者全員が席を経ちヴァシュロンに向けてお辞儀をする。


  ヴァシュロンが通路を歩き、周囲はその動きに合わせてお辞儀している体の向きを変える。

  そして、ヴァシュロンが最前列の座席に座りその両横に護衛が跪き、係りの者から着席の号令がかかって皆着席した。


  全員の着席が済んで少しすると、舞台袖から白髭を胸下まで伸ばした老人が現れた。

  老人が舞台袖から現れた途端、眩い光が放たれる。



(まっぶしい!!なに……?)



  目を細めてよく見れば、光の発生源は老人の頭頂部。

  まるでワックスを塗って磨き上げたかのような見事な坊主頭は、頭上のシャンデリアの光を一挙に集め、眩い光を反射していたのだ。


  舞台中央に経つと全てのシャンデリアの光を反射する事になるので、もはや目を開けてはいられない。


  そんな中、光に包まれ顔も認識できないほどになっている老人がこともなげに入学式の挨拶を始める。



「皆、入学おめでとう。儂はこの帝国立修学院学院長を務めるマイヘア・フリーデスじゃ」



(っ!あの人があの冒険者ギルドの眼鏡さんのお爺さんっ!!顔は見えないけど、髪が無いことだけで認識できる人物だなんて……とんでもない人ね)



「この学院では皆平等に学ぶために権力を振りかざす事を禁じられておる。故に、皇族であろうと平民であろうと皆同じ扱いじゃ」



  正直、会場内は眩しすぎて話を聞く事に集中できる状態では無いのだが、フリーデス学院長は全く気にする様子なく話を続ける。



「本日は実力試験を行わせてもらう。魔術はこれから学ぶ事になるので、今日行うのは魔道具を使っての魔力扱いがどの程度できるかという事を調べるものじゃ。それと、剣術に覚えがある者はそちらの試験もあるでな皆、いい結果を期待しておるぞ。では、先生方あとは頼む」



  入学式の挨拶ともなれば長くなるだろうと身構えていたのだが、思いの外手短にするで拍子抜けした。


  フリーデス学院長が舞台を後にすると、会場内の光加減が元に戻る。



(……もしかして、光過ぎて迷惑になるから周囲に話を手短にするよう言われていたのかしら……)



  レンズ・フリーデス用に眼鏡をいずれは用意したいと思っていたが、それより先にマイヘア・フリーデスの頭頂部を何かしら対策する事の方が急務な気がする。

 


(何とかしなくては周囲に被害が……もしかしたら失明の危険も……)



  カツラを被せるか周囲にサングラスを配るか……などと考えている内に周囲は各先生に着いて移動を開始しており、内心慌てながらも優雅に後を追った。

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