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36、婚約式

大変お待たせ致しました!

お待ち頂いた読者様ありがとうございます。

  私がダビッド殿下と婚約式を行う旨の通知が城から各貴族に贈られると、忌避して私を茶会に招待しなくなっていた令嬢達からひっきりなしに茶会招待の手紙が届いた。



「手のひらを返したように……」


『なんだ裏切りにでもあったのか?』


(そうではありませんけれど……勝手に勘違いして私を悪者にし避けていた人達が、私が身分の高い人と結婚することになると聞いて急に親しくしようとしだしたのですよ)


『胸糞悪いな!』


(貴族社会はそういう世界なのですよ)



  複数の貴族から一気にお茶会の招待状が届いているので日程の重なってしまうものも多い。

  そういった日程の重なってしまっている茶会の招待状は事前に執事のシュバラが高位貴族順で選別をしてくれて、私の元へと運ばれていた。



(厳選してもほぼ毎日お茶会ですか……うう〜)


『こんなに出られんと断ってしまえ!』


(そうも行きませんよガミルダ……。それが出来るならこんなに気苦労していませんわ)



  精霊達は各々お気に入りの場所で好きに行動し、私が呼ぶ時に現れてくれる事が多い。


  だが、ガミルダは私の魔力に触れている方が調子が良いという事もあって契約してからずっと張り付くように傍に居た。



(ガミルダも翡翠達みたいに好きな所に遊びに行っていいんですよ?探検に行ったって……)


『家の探検なら初日に済ませた。周辺に大したものも無さそうだし……ここに居れば好きに菓子も食えるじゃないか』


(居座る理由はそこですか……。太って飛べなくなったりは?)


『魔力で飛ぶのだから飛べなくなる事などないっ!まぁ……体重が増した分、飛ぶのに少し魔力を余分に使うかもしれねーけど……』


(実害あるではないですか……)



  私はお茶会の招待状に返事を出し、それから婚約式のあるひと月後まで、ほぼ毎日のように茶会に参加し、その度に令嬢達に第一皇子の元へ嫁げることを羨ましがられた。


  羨ましがられる事を素直に喜べるような婚約だったらどんなに良かっだろうとうんざりしながらも、表情は貴族令嬢モードで笑顔を浮かべ続け今までで一番長く感じるひと月を私は過ごした。



 ****


  皇帝陛下から私宛に婚約式用のドレスが贈られてきたのは、婚約式の3日前だった。


  ドレスは銀刺繍が刺されていて刺繍の下地はシルクのようで滑らかな触り心地だった。


  シルバードレスの形は私が公爵家のお披露目で着たのと同じフイッシュテールスカートドレスで、とても綺麗に襞が折り込まれている。

  そのおかげでシルバー色のみであるのにとても華やかなドレスに仕上がっていた。



「素敵ですフィリセリア様!このドレスならフィリセリア様の綺麗な髪色がそのまま映えますね!」



  そう、銀や金であれば私の髪は色を移さない。


  このドレスはそれを狙ったように、ほぼ銀色で仕上げてある。



(……素のままの私を晒せというメッセージなのでしょうか?それともメッセージなど特に無く、私の元の髪色を見たいだけかしら?)


『実に美しいな!』


(ありがとうガミルダ)



  届いたその日は体に当ててみる程度だったが、当日の今日実際に着てみると見事にサイズがピッタリだった。


  私はリリアの手で胸丈まで伸びた髪を結い上げてもらい、仕上げにに4歳の時お父様から贈られた髪飾りを付ける。



(銀細工に収魔の紫の石が付いた花の髪飾り……私の大切な宝物)



  陛下のドレスと一緒に細かな宝石の散りばめられた大輪のピンクの花の髪飾りも入ってはいた。


  けれど、あんなピンク色の髪飾りを付ければ、せっかく銀色のドレスによって素の髪色になっているというのに髪の一部だけがピンク色になってしまう。



(それに、明らかにドレスに合わせたとは思えない髪飾りなのよね……ドレスは絶対に着なきゃならないし、髪飾りは外すしか無いわ。それに、節目となる時にはやっぱり父様からいただいた髪飾りを付けたい。理由を話せば陛下もきっとわかってくださるわ)



  私は玄関ホールで待つ両親にいつも通り見目を褒められ、笑顔で御礼を言って馬車に乗り込んだ。



 ****


  皇城に着き会場となる大広間近くの控え室に両親と共に入った。



「私達は会場に向かう。気負うな?お前ほど立派にこなせる者など同年代には誰も居ないのだから自信を持て」


「席から見守っているわね?」


「はい。お父様お母様」



  会場には既に貴族達が集まっており、貴族の中で私達は一番最後の登城。


  父様と母様が席に着けば、程なくして婚約式は開始され、私は案内の皇城務め貴族に案内され会場へと移動する。


  事前に予行演習はあったが、婚約式の流れを予習するだけのものでダビッド殿下と顔を合わせてもいない。


  絶対に不機嫌であろう久々に会うダビッド殿下に先が思いやられ、式の直前ながら案内人に気付かれないようにこっそりため息を吐いた。



「フィリセリア・レストルーチェ公爵令嬢入場っ!!」



  会場の扉が開かれ皆が注目する中、私はほぼ毎日続いたお茶会で磨いた貴族令嬢スマイルで、緊張感など欠片も感じさせずバージンロードを歩く。


  行く先にはダビッド殿下がオレンジの髪に似合う赤に金刺繍の刺された式衣装を着て待っている。


  思いの外とても上機嫌そうな殿下に内心嫌な予感を抱きつつ、表情を崩すこと無く歩き続けた。


  そして、ダビッド殿下の側まで近付くと殿下の目線が髪飾りへと向かい急に不快そうな顔になった。



「なぜ俺の贈った髪飾りじゃないんだ?」



  心底不快そうなそれどころか怒気まで孕んでいそうな低い声でダビッド殿下はそう言った。


  その声につい私は足を止めてダビッド殿下に問いかける。



「殿下が贈られたのですか?あの髪飾りは陛下の贈られたドレスに合わせるには難しく、私の(ミラージュヘア)ではどうしても似合わない為、付けることを断念したのですが……」



  私がそう言うとダビッド殿下はズカズカと私に歩み寄って来て私の髪飾りに手を伸ばした。


 ブチプチッ



「痛っっ!!」



  私の髪飾りはダビッド殿下によって無理やり外され、その拍子に私の髪が数本はらりと抜け落ちた。

 


「俺の贈った髪飾りは付けられずこんな物は付けられるだと!!ふざけるなっ!」



 カランッ!


  ダビッド殿下はそう叫んで私の髪飾りを床に投げつける。



(ふざけてるのはどっちよ!大衆の面前でっ!)



  私が心の中だけでそう怒りを吐き出していると、式には参加しないようにと言って留守番させたはずのガミルダがどこからか飛び出して来てダビッド殿下を食い破ろうと牙を向いた。


  連れてこなかった翡翠達も皆現れ、私を守るように立ちはだかる。



「やめなさいガミルダっ!」


(みんなも落ち着いて!)



  私がそう言うとガミルダは急停止して私を振り向いた。

  翡翠達も不満そうな顔や心配そうな顔をしてこちらを見る。



『何故だっ!こいつお前を傷付けた上にお前の宝物を投げつけたんだぞ!』


『せめて、回復魔法をかけさせていただきますわ』


『酷いよあいつ!』


(それでも待って)



  ダビッド殿下は先程湧いた怒りがガミルダに対する恐怖で吹き飛んだのか、ガミルダの動向を伺い目を離せずに居る。


  鬼気迫る怒気のオーラを漂わせるガミルダを前にしては無理も無い。


  私は父様から貰った髪飾りを拾い、収魔の石にも傷が無いことを確認してほっとする。



「(あのドラゴンもしや……)」


「(あれが例の帝国が御したというドラゴン?なぜ皇子ではなくレストルーチェ令嬢を庇って……)」


「(違うドラゴンだろう。目撃した者の言っていた外見とあまりにも……)」



  会場内は集まっていた貴族の囁き声が集まり騒音となった。


 

(……ガミルダ、少し離れたところで控えて)


『何を馬鹿なことを言うんだ!またこいつがお前にーー』


「『ガミルダ、静かに皇帝側で控えなさい』……お願い、今はそうして」



  従魔契約の効果があり、ガミルダに契約した時と同じ光の輪が出る。

  そして、ガミルダの意思に反して私の言う通りに動いた。



『従魔契約を……くそっ。こんな事したら守ってやれないぞ!?』


(大丈夫……ありがとうガミルダ)



  ガミルダが大人しく皇帝側に控えた事で、見守っていた大衆は『帝国に従うドラゴンが式での諍いを諌めたのだと納得した』。


  私は髪飾りを髪に刺さず、ドレスの刺繍に刺して司祭の元へ歩いて行った。



「司祭、婚約式を続けて下さい」


「ですが……」



  司祭はどうしたらいいものやらとダビッド殿下とドラゴンをちらりと見る。

  ダビッド殿下はその視線を感じて一瞬、司祭の方をチラリを見てガミルダに目線を戻す。


  ダビッド殿下がガミルダを警戒して何も言えずにいる中で陛下が口を出された。



「……ダビッド、そのドラゴンにもはや害はない」



  そして、陛下は私の方を見る。



(そのまま従魔契約でしっかり縛っておけということですのね)



「『ガミルダ。何があろと式が終わるまで危害を加えるようなことをしてはなりません』」



  私が魔力を乗せてそう言うとガミルダに従魔契約の時と同じ光の輪が出て弾けた。

  これで、従魔を言葉で縛ったことになるのだ。


  それを見てようやく安心したのかダビッド殿下は私を一瞬睨むと、ガミルダを少し警戒しながら司祭の方を向いた。



「えー……これより皇族第一皇子ダビッド殿下とレストルーチェ公爵家令嬢フィリセリア様の婚約式を執り行います」



  式は簡素なもので加工された収魔石の指輪に自分の魔力を少しだけ入れてそれを交換するというものだ。


  結婚する際にはこの婚約指輪の収魔石が完全に各々の魔力で染るまで魔力を込める事になる。

  逆に婚約破棄となればそれぞれの婚約指輪を返し、入れた魔力を自身なり収魔のブレスレットなりに吸わせて空にする事になる。


  婚約指輪は皇族仕様のものという事もあり細かく細工の施された金の指輪で、備え付けの収魔石も指輪に対して大振りな物だ。



(皇族と結婚する者は例外無く高位貴族。故にこのぐらいの収魔石でも簡単に染められるという前提なのでしょうね)



  こうして最悪で険悪な婚約式が終わった。


  終わった直後にダビッド殿下に襲いかかろうとしたガミルダを抑え込むように抱いて私はその場を立ち去った。


  これからは婚約者として振る舞えるので、先程のようにただ我慢する必要などない。

 


(けれど、ここでガミルダの危険性を大勢に見せたら……)



  ガミルダを危険視されないためにこの場を急いで立ち去ったが、やられっぱなしの状況には当然いらついた。



(もう、好き勝手されてやるもんですか!)

次から第4章になっていきます。

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