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133.5、喜べない結果(ダビッド視点)

  俺の護衛騎士として幼い頃よりずっと一緒に居たグディタリス。

  俺がどこに行っても着いてきてちょっとした障害もすぐに取り除いてくれる存在。


  俺には自他ともに認める程の剣の腕と戦いの才がある。

  故にドラゴンの討伐に自信はあった……のに。


 

 ****


「……う……ん?」


「お目覚めになりましたかダビッド殿下。近衛騎士にお伝えしてまいりますので、このままお待ちください」



  俺が目覚めたのは自室ではなく騎士団の救護舎のベッドだった。

  俺の目覚めを近衛の者に伝えに行くという救護の男を呼び止め、なぜ俺がこのような下賎な所に寝かされているのかを聞く。



「その……内城壁でドラゴンと戦われた事は覚えて居らっしゃいますでしょうか?その際、殿下は気絶されてしまった為、こちらで目が覚めるまで休ませて欲しいと……近衛の方からはそう伺っております」



  そう聞いて、俺は目を見開きながら思い出した事をブツブツと独り言した。



「ドラゴン……戦って……。グディ……っ!グディは!?」


「ご安心ください。彼は、あちらに」



  俺が指し示された方に目を向ければそこにはスヤスヤと寝ているグディの姿があった。

  近くに寄りよく見ても血色もいいし何も辛くなさそうな様子だ。



「……グディが死にかけていたのは気のせいだったのか」


「実際、かなり危険な状態だったと現場に居た近衛騎士からは聞いております。なんでも死に瀕したグディタリス様をレストルーチェ公爵令嬢が瞬く間に治してくれたとか」


「……は?」


「『まさかレストルーチェ嬢にそのような回復魔法の才があったとは!』と近衛騎士は興奮した面持ちでーー」


「誰だそいつは?」


「はい?」


「アイツをそんな風に褒めた奴は誰だ」


「そ、その……彼女を褒めたたえていたのはその近衛騎士だけな訳ではなく、その場に居た者達全てでして……」


「……なん…だと?」



  俺は湧き上がる怒りのまま救護の男を睨みつけた。



「ひっ……あ、こ……近衛の者に殿下のお目覚めを伝えなくてはなりませんのでこれにて失礼致します!」



 ガキャッ



  救護の男が立ち去った瞬間、我慢できず怒りのままに傍の壁を拳で叩くと壁が少し壊れた。



(いつもいつもいつもアイツはっ!あの女は!)



 ガキャッ



  再び壁を殴り付けるもちっとも怒りは収まらなかった。



 ****


  6歳学院に通う歳、既にある程度剣術の腕に自信のあった俺は学院でも当然その才能を認められ、周りから羨ましがられて誰からも賞賛される事を信じて疑わなかった。


 

「ダビッド、あなたは次期皇帝になるの。誰よりも特別。みんながあなたを認めてひれ伏す。私はいつもあなたが誇らしいわ」



  母上はいつも俺にそう言ってくれる。


  物心付くより前からそう言われて育ったし、周囲の誰もが俺を認めて俺には剣の才能もあって、誰もが俺を褒めた。


  狂い始めたのは学院に通い始めて少しした頃からだったと思う。



「ダビッド。レストルーチェ公爵の所にヴァシュロンと同い歳の女の子が居るのだが、その子がとても優秀な子らしくてな?」



  知らない内に決められていく『婚約者候補』、その中でも飛び抜けて優秀だというのがレストルーチェ公爵のところのフィリセリアという娘。


  父上は事あるごとにレストルーチェ嬢の事を褒めるようになった。

  父上だけでは無い。


  授業してくれる教師も側仕えも、噂で聞いたというレストルーチェ嬢の事を口々に褒める。


  今までは誰よりも俺が一番だと褒めてくれていたのに……。



「大丈夫よ。あなたは皇帝になるんだもの。あなたが一番に決まっているわ。皇帝になったら誰もがあなたが一番だと認めざる負えない。何も問題ないわ」



  母上だけはずっと俺が一番だと言って抱きしめてくれる。


  レストルーチェ嬢が大変優れているらしいという噂が聞かれるようになってから、俺は徐々に彼女と比べられる事が増えていった。



「レストルーチェ嬢は幼いにもかかわらず自ら進んで勉学に励まれているようですよ?殿下も負けてはいられませんね」


「レストルーチェ嬢は既に初等部の勉学を終えて中学年の勉強を学んでいるところだとか。大変優秀なお嬢様ですよねえ」


「レストルーチェ嬢は幼いながら礼儀作法が既に完璧で物言いも礼儀正しいと聞きますよ?殿下も皇子としてーー」



  皆口々にレストルーチェ嬢を褒め、その噂に比例するように父上の俺に対するあたりも強くなった。



『もっと勉学に励みなさい』

『その様では皇子としてみっともない』

『剣術ばかりではいかんのだ』

『第一皇子としての自覚をもっとーー』



「煩い煩い煩い!皆口を揃えて『レストルーチェ嬢』ばかりだ!今まではいつだって俺が一番だったのに……アイツのせいで父上も全然褒めてくださらない」



  婚約者候補の中で最も有力などと言われるフィリセリア・レストルーチェ。

  知れば知るほどアイツの存在が許せなくなっていく。


  俺が認められるのはもはや剣術と戦いの才だけ。

 

  騎士団の者は皆、俺の事を『このお歳でこれ程の強さとは!』『剣術で殿下に叶うものはおりませんな!』と褒める。


  だから、父上に認められるには剣の腕で成果を上げるしかない……なかったのに。



 ****


「騎士団の者達までアイツを褒める……?そんな、そんな事ッ」



 コンコン


  怒りと共に今までの事を思い出しさらにフツフツと怒りを煮えたぎらせているとノックが鳴った。



「失礼致します。お休みのところ申し訳ありません。ダビッド殿下、陛下と皇后様がお呼びです」



  父上と母上が呼んでいると言われついて行った。


  そして、2人からレストルーチェ嬢が正式に俺の婚約者になると聞かされ、俺の頭はついていけなかった。



(俺から周囲の目を奪ったアイツが婚約者?アイツと一生連れ添う?ずっとずっとこれからもずっとアイツと比べられてアイツに全部奪われながら生きていく?)



  ここ最近、剣術以外で褒められた事など一度もなく、剣術とて外に出て振るう事が出来なければ成果をあげることが出来ない。


  城にずっと居る俺は、剣術が優れているといくら周りに言われても、模擬戦で活躍するくらいしか出来なくて、結局活かせなければ剣術の腕など意味が無くて。


  だから、たまたま城の上を通ろうとしたドラゴンは俺にとって成果を上げられる唯一のチャンスだった。


  俺の剣術の腕をちゃんと知らない者達にもはっきりと分かる。

  俺の才能が、俺の存在が周囲に認められるための……それが。



(こんな事になってしまうなんて……こんな……。アイツのせいだ。アイツが……アイツのせいで俺は……)


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