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33、喜べない褒美

  ドラゴンの尻尾に弾き飛ばされ重症となっているダビッド殿下の護衛騎士の元へ駆けつけると、未だ予断を許さない状況であった。



『一応、怪我をした箇所を修復して生命力の維持は続けていたのですけど……』


(ありがとう白妃)


『そのような脆弱なもの捨ておけばいいだろ?弱い奴が淘汰されるのは当たり前なんだ』


(ガミルダ、今は静かにしてくださる?)



  ガミルダを怒鳴りつけたい気持ちを何とか押し込めて、できる限り心を鎮めて心話で注意をした。


  基本的にこの世界での治癒魔術や治癒魔法は、術者が悪いと思う所を修復するように力が働く。

  故に、体の構造を詳しく知らなければ細かな悪い所まではわからないのだ。


  護衛騎士は見た目は折れた所も傷口も綺麗に治っている。

  だが、白妃が言うには表面的には治ったはずなのに生命力はなおも低下し続けていると言う。



(見た目は治っていても骨の欠片がどこかに不具合を起こさせたり、神経までは修復できていなかったりするのかもしれないわね。続きは私がやるわ)



  魔法は想像力が最も重要と言っても過言では無い。

  目視で怪我の程度を見て治癒魔法を使う白妃と前世の様々な知識を持った私の治癒魔法は、似て非なるもの。


  私が治癒魔法を施すと護衛騎士の顔色はみるみる良くなった。



「多分、もうこれで大丈夫だわ」


『ほほお。治癒魔法も見事なものだ!お前を主にして正解だったな!』


(……その巨体で背後に立たれるのは凄い威圧感ね……)


『む?大きさが嫌なのか?ならこれでどうだ?』



  ガミルダはそう言うと見る見る姿を小さくして、カラス程の大きさになり、私の頭の上に寝そべるように乗った。



「頭に乗るのはやめて!髪が乱れるわ」


『むーう。その程度なんだというのだ』



  そう言いつつもガミルダは私の頭から離れ、私の左側に浮くように飛んだ。



(あら、魔素はまだそれほど無いのにもう飛べるの?)


『従魔契約が成されたからな!お前の支配した魔素も俺が共有して使えるのだ!まぁ、もう少し周囲の魔素が回復すればこの大きさなら自力でまた飛べるから、それまで少し借りるだけだがな』


(……小さくなってる方がエコなのね)


『エコとはなんだ?』


(気にしないでいいわ)



  周囲を見ればダビッド殿下の姿は無く、巨大なドラゴンの姿が見えなくなったからか城内から人が溢れ出て来ていた。


  私は護衛騎士さんの容態をもう一度見直し問題ない事を確認してから、城壁の破損具合を眺めて『……従魔契約した私にこれの請求来たり?』と苦い顔をする。


  もし、ドラゴンの主として城壁の修理に責任を持てと言われたら土魔法で直すのでも良いだろうか?と考えていると、城から出てきた近衛騎士が私に声をかけてきた。



「陛下がお呼びです」


(ゔ……それは呼び出されますよね?)


「わかりましたわ」



  私は気まずい気持ちを表情に出さないよう務め、貴族令嬢らしい涼しい顔で何とか受け答えして、近衛騎士の後をついて行った。



 ****


「此度の事、誠に大儀であった」



  私は近衛騎士に陛下の元へと連れて行ってもらったのだが、行き着いた先は宮廷貴族達も勢揃いした大広間、謁見部屋だった。


  城中の者を集めたようで、宰相の仕事をしていたであろう父様も集まった貴族達の中に居り、私を城に呼んだ皇后様も陛下の横にいらした。



(大事になってしまったから仕方ないけれど、さすがに肝が潰れそうな環境ですわ……)



  成行き上ドラゴンの相手をした私としては陛下のお言葉に『当然でございます』的に答えることにも違和感を感じて、黙って丁寧にカーテシーをする事で応える。



「我が魔術兵や騎士達ではまるで太刀打ち出来なかったと聞く。そなたがあの場に居なければどうなっていたことか……。なぜあの場に居合わせたのか聞いても良いか?」



  陛下のお言葉に応えようとすると、私が口を開くより早く陛下の傍らにいた皇后様が答えた。



「私がレストルーチェ嬢を皇城に招きましたの」


「アマランティアが?」


「ええ。先日のお茶会ではあまりお話できませんでしたので、是非令嬢とお茶をしたいと思いまして」



  皇后様のその言葉に『なぜ公爵令嬢が皇城に……』という疑問を持っていた貴族達は皆納得した様子を見せた。



(私が言うよりすんなり納得してもらえてありがたいわ……皇后様に少し感謝致します)


「傍らのその小さいドラゴンが……もしや?」


「はい陛下。従魔契約をした先程のドラゴンでございます」



  その言葉を聞いたその場の貴族全員の目線がガミルダに向かい、ガミルダが不機嫌に唸る。



「ダメよガミルダ。先程暴れたばかりなのだから注目されて当然でしょう?」


『……それはそうだが。俺は見せ物じゃない』



  そう言ってガミルダは貴族達を睨み唸るのをやめてそっぽを向いた。



「本当に従えているのね?少し安心したわ」


「……ふむ。従魔になった事でその姿になったという事か?ならば従魔契約前ほどの力は出せぬと思って良いのだろうか?」


『んなわけあるか。魔素を今まで通り使えるのに加えてこいつの魔力も供給してもらって使えるんだ。従魔契約前より今の方が強えに決まってるだろ』


(……ガミルダって本当に口が悪いですわね?)


『はっ!人間になにを言われたところで俺自身を変える気はさらさらねーぜ?』


(変えて欲しいなんて言わないわ。その口調もガミルダの個性だもの)



  私がそう言うとガミルダはピクリと驚いて、直ぐにそっぽを向いた。

  そっぽを向いたところで、そのような仕草をしている時点で照れている事は丸分かりだ。


  ガミルダもなかなか可愛いかもしれないと思ってから、私は陛下の方へ目を向ける。



「いえ、従魔契約以前より力は増しているようです。従魔以前と同じく力を扱えるのに加えて、私から魔力を送り込む事でさらに力が増すと言っています」


「言っ……、フィリセリア嬢はそのドラゴンと会話が可能なのか?」


「……?はい。出来ます」



  私がそう答えるとこの場にいる全ての貴族がざわめく。

  聞こえるざわめきから推測すると、どうやら従魔と会話出来ることはまず無いようだ。

  もしかしたらドラゴンが知能の高い、まして魔力に長けた魔物ゆえに意思疎通出来るのだけなのかもしれない。


  収まる様子の無い貴族達に陛下が手をかざして静かにさせ、 陛下はひと息置いてから話を始めた。



「とりあえず、そのドラゴンが再び城で暴れることは無いと思っても良いか?」



  そう陛下に聞かれて私はチラリとガミルダを見る。



『お前は望まないんだろ?ならしねーよ』


(さっきガミルダに炎の玉をぶつけてきたダビッド殿下が現れても?)


『あの件はもう水に流したさ。後からネチネチ言うタチじゃねーよ。まぁ、あいつがまた喧嘩売るなら、買ってやるけどな?』


(私としては喧嘩を買わないでほしいですけれど)



  私はガミルダとの話し合いを終えて陛下に目を向ける。



「ダビッド殿下が再びドラゴンになにか仕掛けることがなければ暴れる事はしないと申しております。もし、そうなっても私が間に立ちドラゴンを責任を持って止めますのでご安心を」


「……良かろう。令嬢の言葉を信じる事とする。何かあればそなたの従魔契約で縛るように。それと、今回の事はドラゴンと騎士団が衝突した事を多くの者が目撃をした。ドラゴンは帝国騎士団によって御され、害のない存在となったと公表しておくつもりだ」


「かしこまりました」


(ドラゴンと騎士団の衝突、けれどドラゴンが去ったのを見届けていないし死体が残った訳でもないから目撃者達は不安がるから……。いえ、本心は他国に対してもドラゴンを御するほどの国であると脅すためかしらね……)


「此度の事、礼を言うだけで済むようなものでは無いと我は考えるが、なにか欲しい褒美はあるか?」



  突然、褒美に何が欲しいと聞かれても直ぐに思いつくものなど無い。

  私が悩んで沈黙する間に他の人物が声を上げた。



「では、褒美にレストルーチェ嬢をダビッドの婚約者に致しましょう」


「!!?」


「なっ!アマランティア!?」



  皇后様の発言に私が絶句し、陛下も驚きの声をあげる中、貴族達もまた驚きを見せていた。



「あら?不服なんて申しませんでしょう?次期皇帝に最も近い第一皇子の婚約者になれるんですもの。いい褒美でしょう?令嬢も此度、危険を冒してまでダビッドを助けてくれたんですもの。悪くは思ってなどいないのでしょう?断りはしませんわよね?」


(なんて強引なのっ!)



  私は引き攣りそうになる顔を貴族らしいポーカーフェイスで何とか堪えた。


  城と皇子の命を助けた褒美に第一皇子の婚約者になる。


  第一皇子が良い人か普通の人であれば喜ぶところだが、相手は私を毛嫌いしており、他者の心を平気で傷付け、考え無しに周囲を振り回す問題だらけの人物。


  とても喜べるものでは無いし、絶対にダビッド殿下との婚約など御免だ。


  だが、城勤めの貴族達が揃っているこの場で『第一皇子の婚約者になるなど真っ平御免です!』などと言えるわけが無い。


  言えたらどんなに良いだろうとは思うが、言える状況ではなかった。


  城勤めの為この場に他の貴族達と共にいる父様もさすがにこの場に出る事は出来ず、悔しそうな表情をしているのが目端に見えた。


  仕方ない運命なのか……と、深いため息を吐きたいのも我慢して、私は意に沿わない返事を口にする。



「喜んで、褒美を頂戴致します……」


「良かったわ〜。これからは身内と思って気楽にしてちょうだい」


「……」



  満面の笑みで喜ぶ皇后様と硬いポーカーフェイスの陛下がとても対照的だった。


  その場の誰も皇后様の作った流れに逆らえず、城を襲撃したドラゴンを鎮めた褒美はダビッド皇子との正式な婚約という事に決まってしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] すでに帝国を相手にしても圧勝できるほどの戦闘力を持っているんだから断れるだろ
2023/01/01 01:11 退会済み
管理
[一言] は? 受けるとか馬鹿じゃないの?
[一言] あり得ないよね。読む気が無くなった
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