32、ダビッド殿下とドラゴン
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「キサマはっ!」
身体強化を使い、殿下達の居る城壁へ飛び乗った私をダビッド殿下は睨みつけてきた。
殿下達の居る城壁は魔術兵達が魔術障壁を張った範囲以外ほとんどが溶け崩れ、魔術障壁自体も保つのが難しい状態となっている。
そんな状況にも関わらず私の事を敵視できるとは、本当に豪胆な人だと呆れた。
私の登場に驚いてか、単にブレスが続かなくなったのかドラゴンがブレスを吐くのを止める。
緊張の糸が途切れた魔術兵達は魔術障壁への魔力供給が途切れ、障壁は保てずそのまま消え去った。
「何をしているっ!障壁は張り続けんかっ!ブレスが来れば危ないだろうっ!」
「無理です殿下……もう、魔力が持ちません」
「馬鹿を言うなっ!大した時間張ったわけでもなかろうに!」
「魔術障壁は耐える威力が強ければそれだけ消耗するのですっ!!馬鹿を言っているのは殿下の方だ!」
「ぶっ!無礼な物言いをしたなっ!?貴様はっーー」
「そんな事をつべこべ言っている場合ではありませんわよ?」
私がそう言うとダビッド殿下は怒りの目をこちらへ向け、口論していたこの場で一番偉そうな魔術兵もこちらを向く。
そして、2人の顔が凍った。
私の後ろでは、ドラゴンが再びブレスを吐こうと構えていたのだ。
「はっ!はやく障壁を張れっ!!」
「魔力も無いし間に合いませんっ!!」
****
その場に居たダビッド殿下も魔術兵も騎士達も皆現実から目を背けるように、蹲って目を瞑った。
だが、いつまで経っても息苦しくなる事も痛みも襲って来ず、それどころか熱も感じなかった。
恐る恐る目を開いて様子を見れば、先程現れた女の子がドラゴンに向き合い。
自分達の所には自分達の術式とまるで違ったより強固な魔術障壁が張られていた。
「まぁ、守ってばかりではどうしようも無いことだけは同意できますけれどね?」
そう言って少女は両手をドラゴンに向け、その場に30個もの初級の水魔術陣を瞬時に張った。
「足りるかしら……?」
少女がそう呟くと魔術陣からとても初級の水魔術陣とは思えない、もはや中級上位程の威力があるのではと思える水の渦巻く柱が30個同時に放たれた。
ドラゴンのブレスは為す術なく消し去られ、水圧にドラゴンも少しばかり後退する。
そこに少女はさらに雷魔術を叩き込んだ。
「あ、やはり濡れた後は効きがいいですね?」
ドラゴンは雷魔術により直に当たった所が黒焦げ、飛行が難しくなりそのまま墜落した。
「嘘だろ……ドラゴンを単独で倒した?」
「あんな威力の魔術を沢山……さらに雷もだと?」
周囲は驚きと歓喜の声で溢れる。
その中で殿下だけが……。
「ふざけるなよクソ女が……俺の見せ場を……俺の活躍の場を汚しやがって!!!!」
****
私がドラゴンの2度目のブレスを食い止め消し去り、雷撃で麻痺させ墜落までさせると、ダビッド殿下が凄い剣幕で私に食ってかかってきた。
「僭越ながらダビッド殿下のみならず、この場の皆さんの命が危なそうでしたので手出し致しましたわ」
「ふ、ざ、け、る、な、よっ!!!!こんのクソ女!」
「……まだ油断なさらない方がよろしいですよ?ドラゴンは一時的な麻痺で動きが鈍っていますが、すぐに動き出すと思いますし」
「だからなんだっ!くそっ!これ以上場を荒らされてたまるかあっ!」
そう言ってダビッド殿下は足に身体強化をかけて城壁を飛び下り、ドラゴンに向かって行った。
「おやめ下さい殿下っ!!」
「こんのクソトカゲェーーー!!お前は!俺が仕留めるんだあっ!!」
ずっと殿下を止めようとしていた護衛の騎士が、飛び出して行ったダビッド殿下を追って城壁を飛び降りて行く。
そして、降り立ったばかりのダビッド殿下に、ようやく麻痺が薄れてきたドラゴンが尻尾を振り攻撃を加えようとした。
「殿下っ!どぅぐッ!」
殿下を追った護衛騎士は殿下を体当たりで突き飛ばし、その直後ドラゴンの尻尾による攻撃を受け弾き飛ばされていった。
彼は、飛ばされていった先で木を一本丸々折った上で次の木に衝突して止まった。
遠目にも血が溢れ出し、至る所が変に曲がっているのが分かる悲惨な状況だ。
「なにするんだグディ!……ヒェッ……あ、あ……」
体当たりされた事を激怒したダビッド殿下だが、護衛騎士の姿を見つけるとその悲惨な状態を見てようやくドラゴンの恐ろしさを感じ、恐怖した。
「殿下お逃げください!」
「殿下今のうちに!」
城壁の上に居るもの達は皆、ダビッド殿下にそう声をかけるもののあの護衛騎士のように後を追って行って守ろうなどとはしない。
その事に怒りが湧き上がって恐怖を上回ったのかダビッド殿下が叫ぶ。
「だったらお前達が俺を助けに来いっ!俺は恐ろしくて動けないっ!」
(なんとまぁ……腰が抜けて動けないのを堂々と……。仕方ないとは思いますが……。それよりもあの護衛騎士の方です。白妃、私が行くまで死なせないように何とかお願い)
『わかりましたわ。死なせないよう尽くしはします。代わりにこの守りが龍水だけになってしまいますけれど』
(大丈夫。ブレスを吐かせないように気を付けるわ。あの護衛騎士の方を優先して)
『わかりましたわお気を付けて』
私には先程のドラゴンとのやり合いで気付いた事があった。
(魔素が大分薄まってしまっていて集めにくかったのですよね……。恐らく、ドラゴンの放ったブレスの源は魔素なのでしょう。であれば……)
「先手を打たせてもらいましょう」
私は集められる範囲全ての魔素を集め、魔素魔力に変換していく。
(周辺の植物などにはまた迷惑をかけますけれど……ドラゴンに庭園を焼け野原にされるよりいいですよわね?)
麻痺が薄れてきたとはいえ本調子では無く這いつくばりながらこちらを睨んでいたドラゴンは、異変に気付いたようで目を見開いて周囲を伺った。
私が魔素を魔素魔力に変換し終える頃には、ドラゴンの麻痺も既に抜けてはいたが、周囲に魔素の残っていない状態では飛ぶことも叶わず、ドラゴンはその場に留まって居た。
そして、ドラゴンが上空を見上げると翡翠達と会話するのと同じ感覚で声が聞こえた。
『ふふ……ふははっ!俺より魔素の扱いに長けた人間が居るとはな!たく、予想外だぜ!しょーがねぇ負けを認めてやるよ』
「!!?」
『おいお前、名はなんていう?』
(……フィリセリア・レストルーチェという名よ)
『おっし!俺、ガミルダはフィリセリア・レストルーチェの従魔になってやっていいぜ!契約成立だ!』
「ええ!?待っーー」
私の言葉を待たずに私とガミルダの両者が光の輪に包まれ、その光が弾けた。
「嘘でしょう……私、承諾してなど……」
『ふふん。ドラゴン程魔力の扱いに長けた者ならこちらの主導で従魔契約くらい可能なのだ!』
「あ、あんまりですわ……」
私が事の状況に精神的な痛手を負っている間、城壁から様子を見ていた騎士や魔術兵達は『従魔契約!?』『嘘だろう!?あのドラゴンを従えたというのか!』と大騒ぎになっていた。
(なぜこんな事にーー)
『フィリスっ!この方あまり長く持ちませんわよ!!』
(っ!そうだった!あの護衛騎士さん!)
私は先程ドラゴンの攻撃を直に受け重症になっている護衛騎士の存在を白妃に思い出させられ、急いでその騎士の元へと駆け寄った。




