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31、翌日、城門にて

  皇后様主催のお茶会で起きた事による私の悪評は、噂に次々と蛇足が成されていき、表面だけ偽った悪女だと言われるようになっていた。



(実際に表立って悪いことをする人間よりも見た目いい人そうな人間が実は中身が黒いという方が、より悪そうに言われるものよね……)


『みんな酷いね!』


『全くですわ。事実無根なのでしょう?』


(まぁ、仕向けたことでもあるし計画通りなのよ。怒らなくていいわ)



  翡翠と白妃が私を悪し様に言う貴族たちの事を怒ってくれるが、私はそれをやんわり押し留める。


  このまま私の評判が落ちていれば、ダビッド殿下の婚約者候補から落としてもらえるかもしれないと思い、状況の割に私の機嫌はそれほど悪くないのだ。


  貴族の家のお披露目会はもう出席すべきものも残っておらず、皇后様のお茶会も終わった今、私は公的にやるべき事は特に無い。


  むしろ、ようやく自分の時間が取れる事に嬉しくなってきた。



(嫌われ者はお茶会にも誘われないもの。一人時間ができるしとても気楽だわ。いっそこのまま……)


『いいね!フィリーには私たちが居るもん!』


( ふふ。そうねみんながいるわ。でも、ずっとそのままとはいかないわね。ダビッド殿下の婚約者が他の人に確定したらちゃんと人付き合いをして公爵令嬢として社交に参加していかなくては……)


『面倒なのに付き合わなくてはならないなんて人間は嫌になってしまいますわね?』


(人間社会に生きているからどうしても仕方ない部分なのよ)



  私は訓練着を着て、久しぶりの魔法訓練場へ向かうべく部屋を出た。


  雨の日でも訓練場を使えるようにと屋根伝いにしてもらった外廊下を歩く。



(今日は雨も降っていないけれど、日除けとしても屋根はある方がいいわね!父様の気遣いに感謝だわ)



  私が魔法訓練場へ向かう外廊下を歩いていると、慌てた様子の侍女が私を呼び止めた。



「フィリセリアお嬢様!」



  駆け寄ってきたのは母様付きの見覚えある侍女だ。



「お嬢様宛にこちらが届いておりまして」


「ありがとう」



  手渡されたのは皇家の家紋印で封蝋された手紙だ。

  皇家からの手紙で一番あり得るとすれば昨日の件。


 

「奥様が、皇家からフィリセリアお嬢様宛に手紙が来るかもしれないからもし来たらすぐにお嬢様にお見せするようにと……」


「母様は今日、他所のお茶会に参加なさるのでしたね?」


「はい。もう、ご出立されました」



  私は急ぎその場で手紙を開け、内容を確かめる。


  その内容は、案の定昨日の件について話したいので皇城に来て欲しいという皇后様からの手紙だった。



(……呼び出しは今日、すぐに支度して一人で向かわねばなりませんね)



  先程までの久しぶりの魔法訓練ができる喜びと打って変わって私の気持ちは少し落ち込むが、この件が済めば後は嫌われ者令嬢は一人時間を謳歌できるだろうと気持ちを上げ直す。


  私は部屋へと戻り、驚き慌てるリリアに手伝ってもらって急ぎ登城の支度を整えた。



 ****


  私は春らしい薄緑色に濃いグラデーションまでの緑色のドレスに白レースのストールを纏って皇城を訪れた。


  城門でリリアが皇后様の送った本日招く旨が書かれた手紙を見せ、入場許可を得る。



「伺っております。皇后様は、温室でお待ちです。ただいま案内のものを呼びますのでーー」


「おいあれっ!!」



  門番がそう言った時だった。


  城外警備をしていた騎士が大きな声を張り上げて空を指差す。


  その場に居たもの達がその声につられその方向を見ればーー



「ドラゴン……?」



  首都の外壁よりまだ外だが、その姿は確かにドラゴンのように思う。



「な……なっ!」


「落ち着いてリリア」


「落ち着けませんよ!なんでこんなところにドラゴンがっ!群れで山脈奥地に住むはずでは無いのですか!?」


「はぐれ者かしらね……けど、知能は高いというし下手にこちらから仕掛けなければ素通りしていくでしょう?」


「でも、もしーー、ああっ!こちらへ来ます!」



  何もしなければドラゴンも何もしないだろうと案外冷静な私と違って取り乱すリリアをなだめながらドラゴンの様子を目で追っていると、場内が騒がしくなってきた。



「魔術兵っ!砲撃準備だー!」


(この声、ダビッド殿下!?何馬鹿なこと叫んでいるの??)



  見れば、ダビッド殿下と魔術兵や騎士達が城壁の見張り台に立っていた。

  魔術兵や騎士達は、ダビッド殿下に従う気な者と止めようとする者どちらも居る様子だ。



「おやめ下さい殿下っ!下手に刺激する方が危険ですっ!」


「何腰抜けなことを言っているっ!はぐれドラゴンを倒せるチャンスなどそうそうないでは無いか!これで俺も竜殺しだ!」



  ダビッド殿下はそう言うと、騎士が止めようと羽交い締めにするのを振り切り、魔術陣の刻み込まれた手袋の付いた右手をドラゴンに向けて火炎の玉を放った。



(あの莫迦皇子っーーー!!)



  ダビッド殿下の放った火炎の玉は2m程のもので、10mを優に超えるドラゴンには大した威力も無いものだったが、運悪く城壁の上を通過しようとしたドラゴンに当たってしまった。


  火炎の玉はドラゴンの鱗を少しばかり焦がし、明らかにドラゴンの怒りを買った。



「ふははっ!どうだっ!ドラゴンに傷を負わせてやったぞっ!さぁ!魔術兵、騎士達っ!俺に続いてあいつを倒せっ!」


「殿下お逃げくださいっ!」


「何を馬鹿なことを!ここで奴を倒せば俺はーー」



  ダビッド殿下が逃げるように言う騎士の言葉に反論する間に、ドラゴンはブレスの準備を終えそれを彼らに放った。


  私は、できる限りの強度の守りをリリアやその場に居た門番、逃げ遅れた人達にかける。


  城壁の上で固まっている殿下たちには守りが届かなかったが、魔術兵達の魔術障壁が何とか間に合ったようで、ダビッド殿下も含め、幸い皆無事なようだ。



「全員で守ってばかり居ないで攻撃しないと倒せないだろうっ!」


「無理を言わないでくださいっ!魔術兵全員を魔術障壁の発動に回して、ブレスを防ぐのが精一杯です!」



  ドラゴンのブレスは思う以上に長く続き、その間にも魔術兵達が魔術障壁を張ったところ以外の城壁部分がドラゴンのブレスに溶かされていく。



(手を貸さざるを得ないですね!白妃達でこの守りを保つ事はできる?)



『ええ。龍水と私だけで充分ですわ。翡翠と希闇はお連れになって』


(ありがとう!)



  白妃がそう応えると白妃と龍水は、すぐに守りの魔法の主導権を代わってくれた。


  ブレスの火は龍水により完全に防がれ、さらに回復と守りを白妃が務めることで安定感のある守りとなっている。


  2人は守りの範囲から離れ動き回る私にも移動可能な守りを張ってくれた。

  そのため自分で守りを張らなくても自由に動き回ることが出来た



(魔法のコントロールはさすがね!)


『当然ですわ精霊ですもの』


『任せろ。安心して向かうが良い』



  私は周囲の魔素集めをしつつ、自身の魔力で身体強化をして城壁に飛び乗った。



「キサマはっ!」

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[一言] 早く死ねよクソ皇子。
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