29、皇后様のお茶会1
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皇后様主催のお茶会が行われる頃には、下級貴族のお披露目会を少し残してほとんどの貴族のお披露目会が済んでいた。
私は、午後のティータイムに行われる皇后様のお茶会に向けて、今日のために設えたベビーブルーの透かしが綺麗なドレスを着て身支度を進めている。
お茶会は外で行われるという事で、髪は乱れないようにギブソンタックで編み上げて、父様にいただいた収魔の髪飾りを付ける。
「訓練や宴席で合わない色の時以外いつもこれをお召になりますよね?」
「ええ。4歳の時に父様が私のために用意してくださった宝物だもの。こういった席にはピッタリでしょう?」
「とてもお似合いです!」
私は外行き用のベビーブルーの鍔広い帽子を髪が崩れないようにそっとリリアに被せてもらって支度を終える。
階下に降りると、玄関ホールに支度を終えた母様が待っていた。
「まぁ、可愛らしいわフィリス」
「母様も素敵ですわ」
母様はベビーブルーと白を合わせたとても清楚に見えるドレスを着こなしている。
白にベビーブルーのリボンが付いた鍔広い帽子も美しい。
2人で馬車に乗り込み、皇城の皇后様主催お茶会へと向かった。
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「お招きいただきありがとうございます皇后アマランティア様」
「皇后アマランティア様にご挨拶申し上げます。本日はお招き大変光栄にございます」
「ようこそ。お二人のお席はあちらに御用意があるわ。ゆっくりしてらして」
アマランティア皇后様は、ワインレッドのスラリとしたドレスに黒のレースがあしらわれたエレガントなドレスを見事に着こなしている。
皇后様は来客達に挨拶を交わし続けるが、疲れなど微塵も感じさせずまるで隙が見えない。
(凄い……格好良い。皇后様ってできるキャリアウーマンって感じですわ……)
会場として使われる庭園は、やはり皇城お披露目会の時にテラスから見たあの庭園だった。
色とりどりの花が咲き乱れていながらも見事に保たれた調和は、宮廷庭師の素晴らしい腕が伺える。
手入れをされたばかりだろう花々は、水あげをされてからそう時間が経っていないようで、花弁や葉の上に水玉を乗せて輝いている。
テーブルには見事なレース編みのテーブルクロスが敷かれ、ガーデンチェアに置かれる座布団は金刺繍の刺された見事な物。
ひとつ1つ抜かりなくもてなしの用意がされている会場は、皇后様がとても優秀な方である事を物語っていた。
私はテーブル上の色んな焼き菓子の並ぶドルチェスタンドに目をやった。
(お菓子まで偏りなく取り揃えて、自由に選べるようになっているわ……)
「初めて招くお客様がいる時や多くの人を招くお茶会では、こうやって色んな種類を用意するの。特定の誰が来るとわかっているお茶会の場合はその人の好みに合わせた用意をするのよ?」
「そういうものなのですね……。私もそういったお茶会の作法をこれから学んで行かねばなりませんね。お母様」
「そうね。まだお披露目したばかりだから招く側を体験するのは少し先だもの、これから学びましょう。良いお茶会の席にたくさん出席するのが上達のコツよ?」
私が会場の素晴らしさに魅入られては、母様に色々な主催者側の細かな気遣いを教えて貰って過ごす間にお茶会開始の時間となった。
「皆さん。私のお茶会に応じてくれてありがとう。皇城で一番美しい庭園にティータイムの席を設けました。ゆっくりと楽しんでらして」
アマランティア皇后様が手短にそう挨拶なさると、すぐさま給仕のもの達が動き、お客様達にどのお菓子を皿に取るか聞いたり飲み物を何にするか尋ねて回る。
私はカミュティーというセイロンティーに似た何にでも合う味わいの紅茶を選び、小さめの個切りになっているケーキを2つと焼き菓子を1つ取ってもらう。
(手づかみでパクッといける大きさなのにフォークを使わないと行けないのがもどかしいわ〜。なんて、はしたないわよね。んん〜美味しい)
飲み物を楽しむために甘さ控えめに作られ、新鮮なバターで作られた香りも芳醇な焼き菓子に感動しているとアマランティア皇后が私達の席にいらした。
「お楽しみいただけているようね?嬉しいわ」
私が今食べた焼き菓子以外にまだお皿に2つ乗っているケーキを見て皇后様がそう言うので、私は食い意地を張ってしまったかもと恥ずかしくなり顔を赤くした。
「とても……美味しいです」
「ふふ。お口に合ってよかったわ」
「アマランティア様、こちらはシクス国産のティルクで?」
「いいえ。ワディス国産のティルクよ。ワディス国でもティルクの量産を始めていてそれがとても良質でいい物だから取り寄せたの」
「まぁ、それはいい事を聞かせて頂きましたわ〜」
ティルクは絹の事だ、他の国が主な生産だった絹作りをワディス国も始めたらしい。
「ワディス国……行ってみたいですわね」
「あら、フィリセリア嬢は他国にご興味をお持ちなの?」
「はい。ガルマ公爵家のお披露目会の席でもワディス国の事は耳に挟みましたので少し気になって」
「なるほど、ガルマ公爵家はワディス国と縁深いですものね?マヤ様も嫁がれてより一層の親睦が持たれました。ティルクもそのおかげで優先的にこちらに回してくれて入手がしやすかったのです」
(あら?より一層?マヤ様が嫁いだから親睦が始まったというより元々仲がいい国なのね……。それより……)
正直、私はアマランティア皇后様に悪い印象を持ちかけていた。
皇城のお披露目会の時、明らかにアマランティア皇后様はダビッド殿下を庇護してヴァシュロンには強く当たっていたからだ。
(けれど、今日の様子を見ていると気配りの出来るいい人のように思える……。私にも優しく微笑みかけてくれるし……)
社交馴れしている皇后様なので、当然感情を隠して外の顔で他人と接する事に慣れているだろう。
けれど、本当にごく自然に振る舞うその姿は優しく気配りのできる微笑みの美しい人にしか見えなかった。
「フィリセリア嬢、ダビッドの事を悪いように思わないでちょうだいね?」
「え?」
「あの子は、ずっと次期皇帝になる者として周囲に目を置かれて育ってきたから自尊心が少し強いの。ちょっと子供っぽさが残っているけれどそこも可愛いのよ?貴女が支えてあげてちょうだいね?」
「え……と、でもーー」
「アマランティア様、フィリスはまだダビッド殿下と婚約もしていませんのよ?フィリスがダビッド殿下を支えなくてはならない義務はありませんわ」
「あら、家臣としては当然支えてくださるでしょう?ね?フィリセリア嬢」
「家臣としてでしたらーー」
「フィリスとて他国の者と結ばれる事もあるかもしれませんわ。そうなれば必ず家臣としての務めを果たすという事も叶いませんでしょう?お約束出来るようなことではありませんわ」
「私、フィリセリア嬢に尋ねましたのよ?」
「私はまだ社交に馴れない娘のために付き添っていますのよ?」
(な……なんだか怖いですわ)
アマランティア皇后様が他の客人達の接待のために私達の席を離れてから、やっと一息つく事が出来た。
「アマランティア……」
「お母様、皇后様を呼び捨てはっ」
「ふふ。そうね。でも、元は私が第三皇女でアマランティアは公爵令嬢。私の方が立場が上だったのよ?」
「そうでした。けれど、今は……」
「そうね……。立場は逆転したのだもの、気を付けるわ」
母様は、言葉遣いを気を付けるだけとは思えないほど、警戒心に満ちた目をしていた。




