28、レンのお披露目会2
サイ令息が私とヴァシュロンの元に来てそう経たずに、お披露目会は開宴となった。
(結局、サイ様は短い相槌を打つ程度で会話をしなかったわね……。もしかして、人付き合いが苦手……いやいや、他家の御長子に対してそれは失礼よね!)
ガルマ公爵家とレン令息が前に出て挨拶を行う。
「この度は三男レンのお披露目会にお越しくださり誠にありがとうございます。こちらがお披露目となりましたレンでございます」
「カイ・ガルマの息子レン・ガルマです。以後、よろしくお願いいたします」
レン令息は、皇城のお披露目会の時と同じく剣を持って、ホールの中心へと向かった。
周囲は特技披露しやすいようにホールの端に寄る。
(また、レン様の剣舞が見られるのね。とても綺麗だったからちょっと嬉しい)
いつ始まるかと待ち構えていると、ホールの中心へもう1人入って来た。
剣を携えたレン令息の居る所へ現れたのは、同じく剣を携えたカイ・ガルマ公爵。
それを見て、周囲が少しざわめいた。
「まさか2人剣舞を?」
「1人でならあの歳でもやれるが2人となると難易度がーー」
「2人剣舞となると単なる型をなぞるだけとは行かないだろうにーー」
周囲の声からするに皇城で見せた1人での剣舞よりかなり難易度が高いようだ。
ちらほら聞こえる声の中には『2人で合わせながらでは大した動きは出来まい、皇城の時の剣舞よりだいぶ見劣りしそうだ』という声も聞こえる。
周りの期待と落胆感の中でもレン令息は、特に緊張の様子もなく、ただ剣を構える父カイを見据えていた。
(レン様……とても集中しているようね。多分、彼には目の前のガルマ公爵しか見えていない…)
レン令息が構えていた剣が少しだけ角度をずらして陽の光に反射した瞬間、2人剣舞が開始された。
剣先に迷いはなく、見事な剣操作と身のこなしでガルマ公爵の剣を流しながら剣舞を舞うその姿は、実に緊張感漂うものだった。
まるで実の戦闘を見るような緊張感ある、それでいて美しい剣舞は5分ほど続き、その間観客は息をつく事も忘れそうなほど魅入った。
そして、剣舞が終わりガルマ公爵とレン令息が距離をとって、レン令息が観客に礼をしてからこれが剣舞であった事を思い出した。
(本当に素晴らしい剣舞でしたわ!)
レン令息の礼から何拍か遅れてその場は拍手喝采となり、レン令息の特技お披露目は好評を得た。
サランディア令嬢の時より明らかに周囲の反応がいいので、令嬢が嫉妬するのでは?と彼女を探し見る。
(あれ?レン様に対しては悔しがるような事がないのね……)
彼女の姿を探すと、思いの外サランディア令嬢はレン令息に向けて笑顔で拍手を送っていた。
(自分とまるで分野が違うなら悔しがる事も無いということなのかしら?それとも私が女だから敵対心を燃やしていただけ……?)
レン令息の特技披露が終わって社交の時間となると、令息の元には賞賛を送る人々が溢れた。
私もいい剣舞だったと伝えたかったが、とても割って入れるような人混みでは無いので、諦めて隅の方で会場を見渡した。
すると、会場内でお喋りに興じているシャディア侯爵令嬢、ミミラティス侯爵令嬢、ティリカミリス伯爵令嬢の姿を見つけた。
(ヴァシュロンは他の貴族の方達に話しかけられて忙しそうですし、他に親しい方も居ませんから、彼女達の元へ行きましょうか)
私は彼女達の元へ行き、話しかける。
「ご歓談中失礼致します。昨日ぶりですわ皆様方」
「フィリセリア様、こちらからご挨拶に伺わず申し訳ありません」
「私達から挨拶するのが筋ですのに……」
「あわわ!てっきり殿下とご一緒と思っておりました!」
「お気になさらないで下さい。ヴァシュロン殿下は社交でお忙しいようですわ」
私がそう言うと3人はチラリと殿下の方を見て、なるほどと頷いた。
「本当に社交なさって……ダビッド殿下とはーー」
「ティリカミリス様っ!言葉が過ぎますわ!」
『ダビッド殿下とは違ってヴァシュロン殿下はちゃんと公務をこなしている』と言う旨を言おうとしたティリカミリス令嬢をシャディア令嬢が窘める。
ティリカミリス令嬢は、慌てて口元を押える。
「お気を付けなさい。この場には、第1皇子派も多いのですから」
「第1皇子派?ヴァシュロン殿下のお披露目があってからそう経ちませんが、既に派閥分かれをしているのですか?」
私が小声でシャディア令嬢に尋ねると、彼女も小声で返答してくれた。
「厳密にはまだ第2皇子派は出来ていませんわ。既にあった第1皇子を皇帝にと考える第1皇子派、第2皇子の資質を見てから次期皇帝を見極めるとする様子見派、どちらが成ってもついて行くとする流れ派で分かれています」
「……皆さんの御家はどの派閥か決まってますの?」
「我が家は様子見派ですわ」
「私の家も様子見派ですわね」
「う……うちは第1皇子派かも……です」
「ご実家が第1皇子派なのに先程のような発言をしましたの!?いえ……正確には発言までしていませんけれど」
「ちゃんと聞いたことはないですけれど『爵位や帝位は順当に継がれるもの!それが一番争いもなく在るべき形だろう!』って父様がよく言うので……」
「第1皇子派ですわね……」
となると、侯爵家2つは様子見をしていて、カプティリエ伯爵家は第1皇子派なのね。
「……今日はアイシャルネ様がいらっしゃいませんのね?いつもは別行動ですの?」
「いえ、普段は共に過ごすことが多いのですが……」
「アイシャルネ様でしたら、ほらあそこに」
ミミラティス令嬢が示したのは人に群がられるレン令息の所。
よく見れば、目をキラキラとさせたアイシャルネ令嬢がレン令息のすぐそばに迫って何やら熱心に話しかけていた。
「確かに……いらっしゃいますね」
「アイシャルネ様のご実家も騎士を排出する名家ですから、令嬢も幼い頃から剣に慣れ親しんでいるのです。恐らく、先程の剣舞に大変感銘を受けたのでしょう」
「お披露目会が始まってすぐはあまり興味無さそうでしたのに、剣舞が始まると目がキラキラしだして……」
「人混みができる前に、真っ先に令息の元へと駆けて行きましたわね〜」
(アイシャルネ様は剣術マニアなのでしょうか……。熱心に話しかけているようですし、彼女自身も剣に詳しそうですわね)
騎士を排出する名家という事なら彼女も女騎士を目指しているのかもしれない。
恐らくこのまま剣を極め、騎士になるであろうレン令息とアイシャルネ令嬢はなかなか似合いなのではと思いながら私は2人を眺めた。
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レン令息のお披露目会で、レン令息もヴァシュロンも社交でとても忙しくなっていた。
そのため閉会まで2人と会話する機会は無く、私は代わりに、シャディア令嬢達と共に過ごした。
好奇心旺盛なティリカミリス令嬢に『ダビッド殿下よりヴァシュロン殿下との方が親しそうですけれど、なぜそんなに親しいのですか!?ヴァシュロン殿下はまだお披露目なさったばかりですよね?』と聞かれたりもしたが適当にはぐらかした。
結果、皇城お披露目会で私に一目惚れしたヴァシュロンが、私と親しくなりたいが為に常に傍に居たがっているのだろうなどと憶測された。
(一目惚れなわけありませんわ。実際は皇城お披露目会が初対面ではありませんし、強いて言えば私とヴァシュロンは師弟であり友達ですもの。幼い子供の友達を独占したい気持ちを恋愛だなんて、女の子の妄想力はとんでもないですわね)
四大公爵家の新貴族お披露目会が済んだので、あとのお披露目会は無理に出なくても大丈夫なものだけだ。
せっかく知り合ったのでミミラティス令嬢のお披露目会には出席し、両親に誘われたお披露目会もいくつか参加した。
シャディア令嬢達と共に宴席で過ごす事にも馴れて来た頃、あの日が目前に迫って来た。
(いよいよ皇后様主催のお茶会ですね……)




